【海のナンジャラホイ-15】柄のあるクラゲが、海藻の上に居るよ
柄のあるクラゲが、海藻の上に居るよ
生き物の世界には、時々、他の仲間とものすごくかけ離れた変な奴がいます。
クラゲというと、傘をパカパカ動かしながら、触手を垂らして海の中を漂っている姿を想像してしまいます。でも、クラゲの世界にもずいぶんと変わった奴がいるのです。傘のてっぺんから柄が伸びていて、柄の先端には吸盤がくっついています。この吸盤で海藻の上などにくっついて、流されてしまわないように体を固定するのです。吸盤の吸着力はかなり強くて、波に揉まれて激しく揺れる海藻の上でも、容易には剥がされません。体の外側(背側)はクラゲっぽいのに、内側(腹側)がイソギンチャクっぽいのも変な感じです。これらは十文字クラゲというクラゲのグループで、アサガオクラゲ・ムシクラゲ・ジュウモンジクラゲ・・・といった種類があります。
私たちがいつも調査を行なっている牡鹿半島の西岸で良く見かけるのは、ムシクラゲとジュウモンジクラゲです。同じ仲間に入っていても、この両者は形も暮らし方もずいぶんと違っています。
ムシクラゲ(図1・2)は全体が細長くて、柄に続く筒の末端に触手の輪があります。いちばん長いもので筒の長さが3センチくらいですね。吸盤で末端を固定して、海藻からぶら下がっている感じです。
体は柔らかいので、波に引っ張られたり、流れにブンブン振り回されたりします。そんな中で触手に触れた動物プランクトンなどをすかさずキャッチして細長い体の中に送り込むのでしょう。
一方、ジュウモンジクラゲ(図3・4)は、柄と筒の部分がすごく短くてその上に大きな十文字が乗っかっています。その十文字のそれぞれの末端は先が2つに割れています。十文字の差し渡しの長さは、大きいもので3センチくらいです。
このクラゲの面白いところは、波に揉まれるような状態でも、この十文字の形を常にしっかりと保っていることです。クラゲ自体の体は柔らかいのですから、海中でこの形を維持するには、相当頑張って突っ張っていなければならないはずです。なんだか「ジュウモンジ」クラゲであることの、意地みたいなものを感じてしまいます。頑張っているんだなあ、と励まされる気がします。こちらのクラゲは、海藻の上に広げた罠みたいなもので、海藻の上をひょこひょこ歩いたりふわっと泳いだりしてきたカイアシ類などの小動物を広げた触手でエイッと捉えるわけです。
もし、私たちの体が1センチくらいの大きさで、海藻の上に住んでいるとしたら、海藻の茂みに隠れて、捕食しに来る魚から身を隠さなければならないし、ゴカイに噛まれたりヒラムシに飲み込まれたりする災難からも身を守らなければなりません。そして、クラゲも脅威となるわけです。頭の上の方でブンブン揺れているムシクラゲの触手に引っかからないように、いつも頭上に気を付けねばなりません。一方で、足元にはジュウモンジクラゲの広げた触手のトラップがあるかもしれないのです。油断も隙もありません。
海藻のジャングルは、葉上動物たちにとってプランクトンや珪藻(けいそう)や小動物などの餌が豊富な環境ですが、ものすごく危険に満ちた世界でもあるようです。
○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。
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