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光合成細菌とPSBの考察 (光合成細菌シリーズ 1/4)

割引あり

光合成細菌とPSBの考察

光合成細菌とは、光合成を行う細菌の総称であり、光合成生物のうち真核生物を除いたものに相当する。光合成といえば、植物が二酸化炭素から酸素とでんぷんを作るというイメージが一般的に知られている事であるが、このような自ら栄養を作り出して生育する生物を栄養独立生物という。対して、栄養を他から取り入れる生物を栄養従属生物という。
光合成細菌には、酸素発生型光合成を行うシアノバクテリア及び酸素非発生型光合成を行う紅色細菌と緑色細菌がある。これらの光エネルギーを利用する細菌は、光栄養生物と総称され、特に炭素固定能力をもつものを光独立栄養生物という。さらに、CO2を使って炭素固定を行うもののことを光無機栄養独立栄養生物という。
なお、炭素固定とは、主に二酸化炭素の形で存在する炭素を有機物に変換して生体内に取り込む生物の代謝活動の一部のことである。別名を、炭酸固定、二酸化炭素固定、炭素同化、炭酸同化ともいう。

光合成を行う生物にはクロロフィルという光エネルギーを吸収する役割の化学物質を持つ。別名を葉緑素ともいう。このうち、酸素発生型の光合成をおこなう植物及びシアノバクテリアが持つものがクロロフィルであり、酸素非発生型のそれを持つものはバクテリオクロロフィルと呼ばれるものである。
これらの光合成細菌のうち、シアノバクテリアのみが酸素発生型の光合成を行い、その他はすべて酸素非発生型の光合成を行う。光合成にともなう光化学反応を行う分子機構には2種類あり、それぞれ光化学系 I及び光化学系 IIと呼ばれ、シアノバクテリアは2つの光化学系を併せ持つのに対して、紅色細菌及び緑色細菌はそのどちらか一方の光化学系しか持たないという大きな違いがある。

酸素非発生型光合成を行う紅色細菌及び緑色細菌は、栄養学的分類からさらに紅色硫黄細菌(ガンマプロテオバクテリア)・紅色非硫黄細菌(アルファプロテオバクテリア)、及び緑色硫黄細菌(クロロビウム)・緑色非硫黄細菌(クロロフレクサス)の4種に分けられる。なお、シアノバクテリアを含めてこれ等の各細菌グループは、進化的に直接の関係性はなく、互いに別個に光合成能を獲得したと考えられている。また、紅色硫黄細菌と緑色非硫黄細菌は、酸素存在下では呼吸によって生育する従属栄養性を示すのに対し、酸素非存在下及び酸素微存在下では、光合成器官(光化学反応中心やアンテナ色素系)を作り出して光合成によって生育する独立栄養性を示す。

紅色硫黄細菌
紅色硫黄細菌とは、光合成細菌の一群で、赤色ないし褐色を呈する紅色細菌のうち、光合成の電子伝達系過程において硫黄などの無機物を電子供与体として用いるものの総称である。紅色硫黄細菌は嫌気性ないし微好気性で、硫黄泉や水流のない停滞水などに見られる。植物や藻類の光合成では、電子供与体として水を使うので酸素が生じるが、紅色硫黄細菌は、水ではなく硫化水素を使うため単体の硫黄が生じる。また、この硫黄はさらに酸化されて硫酸を生じることもある。
全ての紅色硫黄細菌は光合成独立栄養性であるが、光合成従属栄養、化学合成独立栄養、化学合成従属栄養で生育できる種も存在する。形状としては、たいていは鞭毛を持ち運動性があるが、ガス胞によって浮遊するもの、完全に運動性を持たないものもある。

紅色硫黄細菌の生息環境は、一般に湖や硫黄泉などの硫化水素が蓄積した水環境の、光の当たる無酸素域に見出される。この菌の生息域には、地球化学的または生物学的に生じた硫化水素が引き金となって紅色硫黄細菌による水の華が生じることもある。水の華とは、藻類ブルームとも呼ばれ、微小な藻類が高密度に発生して水面付近が変色する現象をいう。日本では、淡水域における浮遊性藍藻や緑藻の大発生を指すことが多く、こうした褐色や赤系統の変色は赤潮と呼んで区別する傾向が強い。ちなみに、温泉地で見られる『湯の花』とは、温泉の不溶性成分が析出・沈殿したものであり、硫黄、カルシウム、アルミニウム、鉄、珪素など様々な元素が含まれる物質のことで、細菌である水の花とは異なるものである。
紅色硫黄細菌が増殖するのに最も適した湖は、底層に密度の高い塩水など、表層に密度の低い淡水などが成層した部分循環湖と呼ばれるものである。もし充分な量の硫酸塩があれば、湖底の堆積物の中で硫化物が生じ、無酸素状態の底層水へと拡散してゆき、そこで紅色硫黄細菌が大増殖し、そこに水の華が生じる。このときたいていは緑色光合成細菌も付随している。

紅色非硫黄細菌
紅色非硫黄細菌は、光合成従属栄養細菌であり、ときには光条件下で低濃度の硫化物を酸化することがある反面、同じ硫化物で生育を阻害されることもある。紅色硫黄細菌の生育場所は硫化物の富んだ所であったが、紅色非硫黄細菌は通常、淡水の湖沼に生息する。ちなみにこれらの紅色細菌は、酸素の無い嫌気的条件下で空中窒素を固定するが、酸素の有る好気的条件下では行わない。
研究により、紅色非硫黄細菌には植物の生育を補助する共生作用が確認されており、近年では特に農業でのその活用が期待されている。また、紅色非硫黄細菌の細胞膜には、ユビキノンという物質が存在し、光合成反応中心で電子伝達を行う重要な化合物であるが、人の経口摂取による抗疲労作用や抗老化作用など、さまざまな効能が報告されており、実際にサプリメントとして販売されているものもある。
また、紅色非硫黄細菌の入手については、『PSB』というメダカの飼育における補助的な添加液として広く販売されているものなどがある

PSB(Purple Non Sulfur Bacteria)
PSBとは、紅色非硫黄細菌(Purple Non Sulfur Bacteria)の略で、また、「PSB」は株式会社サンミューズの発売商品である。
金魚やメダカの飼育における重要事項として、飼育水槽環境を整えるということがあげられる。特に金魚は、排泄物中に含まれるアンモニア等による水質汚染が健康不良などの致命的な要因になるため、これを防ぐための水質管理が最重要な飼育課題となる。このためのバクテリアによる汚染物等の分解・除去効果は必須である。
このPSBという商品には、それらを補助する機能が期待できることから重宝されているものであが、主な成分として、紅色非硫黄細菌を含む細菌及び適切な栄養素等が含まれている。商品の使用効果については以下の通りである。

1,生きたバクテリアが汚れの元になる有害有機物を分解し、魚が棲みやすい自然環境に近い水をつくる
2,PSB液中のビタミン等の栄養が魚を元気な状態に保ち、共生している放線菌が病原性菌を抑制し、カロチノイド系色素がメダカの体色の色揚げを促進する
3,窒素(N2)を固定するため水草の生長促進に効果がある

また、商品に含まれる細菌の性質については、以下の5つの特徴が述べられている。

1,バクテリアは自然界に広く分布し、動物性の生態連鎖で重要な働きをしている水圏、土壌微生物の一種であること
2,太陽エネルギーを菌体内のバクテリオクロロフィルで受光し、紅色のカロチノイド色素を生産すること
3,空気中の窒素を体内に固定し、重要なアミノ酸、核酸、ホルモン、ビタミンを製造して動植物栄養素として供給していること
4,虚弱な稚魚や微小甲殻類にこれを与えると個体が健全に成長すること
5,PSBに含まれるバクテリアをエサとして捕食したプランクトンが急増殖すること

以上のような効果及び性質から、PSBに含まれる紅色非硫黄細菌は、その活用により人工の水槽環境がより自然界に近い環境になり、自然界の生態系による飼育環境により近づけてくれるものである。それにより観賞魚等の活性化及び長寿化を図ることができ、また、病気や水質の悪化を防ぐことができ、飼育環境のメンテナンスにも寄与することができるものである。
なお、PSBには、直接添加出来るものと培養用の濃縮液がメーカーなどから売られていて、それぞれ用途が違うため注意が必要である。値段は1リットルで凡そ1,500円ほどである。

PSBに含まれる細菌
ロドシュードモナス・カプシュラータ
ロドシュードモナス属は、グラム陰性非芽胞形成光合成桿菌で、鞭毛を持ち運動する種とそうでない種がある。名称は赤いシュードモナス属を意味し、シュードモナス属とは遺伝的には離れている。バクテリオクロロフィルa及びバクテリオクロロフィルbを持ち光合成を行う。一部の種は二分裂でなく極が増大して娘細胞を放出する形で増殖する。
ロドシュードモナス・カプシュラータは、紅色非硫黄細菌の名称で鑑賞用魚水槽の雑菌やウイルスを幅広く殺して消滅させる光合成細菌バクテリアとしても認識されている。

ひかり菌について
一般的に、生菌剤と呼ばれるものは、消化管内において有用に作用する生きた微生物のことを指し、人間の健康食品から畜産・水産で使用されている。中でも、ひかり菌と呼んでいる枯草菌(バチルス菌)の一種を金魚等の餌として商品化しているものがある。
枯草菌は、土壌や植物に普遍的に存在し、牛などの反芻動物やヒトの胃腸管に存在する細菌である。藁などの枯れた草を水に浸けて煮沸すると、ほとんどの微生物はその熱によって死滅するが、枯草菌の芽胞は高い耐熱性を持つため生き残る。納豆菌もこの枯草菌の一種であり、稲の藁に多く生息していて、日本産の稲の藁1本には1,000万近くの納豆菌が芽胞の状態で付着しているとされている。ちなみにこの納豆菌の耐熱性の性質を利用して作られるのが納豆である。
株式会社キョーリンが販売している『咲ひかり』という金魚の餌には、休眠状態の生菌剤が添加されており、休眠状態で魚に摂餌され、腸内に届くことで活性化し、腸内細菌の中で優占種となり、腸内を正常に保つ効果を発揮するとされる。また、排泄された糞中にも菌の一部が残っており、糞中の有機物を分解して濾過槽のバクテリアの負担を軽減するものである。

培地
光合成細菌の培地、培養法はひとつのグループの中でもさまざまであるが、実際、実験によく用いられている紅色非硫黄細菌の多くは酸素に強く、培地が最初から厳密な嫌気状態である必要はない場合が多い。
培地には光独立栄養条件用の無機培地と光従属栄養培養のための有機培地の二種類があり、通常、完全無機培地を用いるのは紅色および緑色硫黄細菌の一部だけで、多くの場合は有機物を加えた培地を用いる。すなわち、いわゆる紅色非硫黄細菌もH2などを電子供与体とする独立栄養生長は可能であるが、菌体を得る目的の場合は、乳酸、コハク酸などの有機物を炭素源かつ電子供与体として与えて光従属栄養的に生長させる場合がほとんどである。また、有機培地でも無機塩類(ミネラル)を加える必要のあるものも多い。
培地に加える成分でしばしば欠かせないものとしてビタミン類がある。紅色あるいは緑色硫黄細菌はビタミン B12のみ加えれば良い場合が多いが、紅色非硫黄細菌のビタミン要求性は種によってさまざまである。なお、研究用でなく一般の培養方法として近年取り上げられているものに米糠があげられる。
糠(ぬか)とは、穀物を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などの部分のことである。イネ科植物の果実は、穎果と呼ばれる粒状の形態で表面を一体化した果皮と種皮で硬く覆われている。これを除去する過程が精白で、この際に得られる穎果の表層部分が糠である。日本では、歴史的に米から出るものが身近であったため、単に糠と言えば「米糠」を指す場合が多い。米の栄養素の95%は米糠中に存在する。細菌類が生育する栄養が十分に含まれていてかつ入手コストが安いという利点がある。

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