kasei451

kasei451(火星よんごーいち)です。 宜しくお願いします。

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最近の記事

そよそよと風が吹いています

森に朝がきました 静かな朝です 一番早起きの小鳥がピイと鳴くと 葉先を小さく揺らす青や緑の葉っぱたちの上で しずくがキラキラと踊ります しっとり湿った重たい土には ひとつまたひとつ 動物たちの足跡がつきはじめました そよそよと風が吹いています 丘の上の青い屋根の家では 女の子がパンを焼いています 小さな胡桃のパンが4つ オーブンの中でまあるく膨らみます 黄色いレースのカーテンがふわりと揺れると かすかに濡れた土と緑の匂いがしました 「あぁ、小さなレニの匂い!」

    • 灰色たまご(グレイ・エッグ)

      ある日突然それは現れた。 街で一番早起きの3丁目のパン屋のモリーは、その日も5:00にアラームを止め、ベッドの中で大きな欠伸をしながら腕を頭の上で組んで伸ばすと、のそりと起き上がった。 ギシギシと鳴く開き戸の窓を押し開け、冷たい澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込み、一気に吐き出すのが彼女の日課だった。 しかしその日は、いつものように鼻の穴から吸い込んだ冷気を、吐き出さずに思わずゴクリと飲み込んでしまった。いつも見慣れた景色の中に、あるはずのない大きな違和感がある。 それは、大

      • 『ユートロニカのこちら側』を読んで

        あらすじ (本書、裏表紙より) 巨大情報企業による実験都市アガスティアリゾート。その街では個人情報ーー視覚や聴覚、位置情報等全てーーを提供して得られる報酬で、平均以上の豊かな生活が保証される。しかし、誰もが羨む彼岸の理想郷から零れ落ちる人々もいた……。苦しみの此岸をさまよい、自由を求める男女が交錯する6つの物語。第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉受賞作、約束された未来の超克を謳うポスト・ディストピア文学。解説/入江哲朗 朝7:00に目覚ましが鳴る。 リビングに降りると、い

        • 已己巳己

          一番古い記憶は、ここ京都・貴船神社の参道で、手を引かれて石段を登る記憶だ。 はらはらと雪が降り、辺り一面真っ白で、ほうっと吐く息も白かったが、等間隔に並ぶ赤い灯篭はじんわりとオレンジの灯りを滲ませていて、なんとなく温かく感じる。 隣には自慢のママ。 ママにそっくりと言われるのが誇らしかった。 いつからか、ママとは少しずつ距離ができ、あまり話さなくなった。 20歳の誕生日。 ママに誘われ、2人で赤ワインを飲む。 紙のアルバムのページを捲り、ポツポツと言葉が溢れる。 私

          通り雨

          白いマグカップにコポコポとコーヒーが注がれる。 ミルクをくわえ、くるくるとかき回すと湯気と一緒にほわっと香ばしい香りがする。 姉、玲ちゃんとは、9つ歳が離れている。 玲ちゃんは2年前に悠介さんと結婚し、今は1歳になる望と3人でここ埼玉でのんびり暮らしている。 丸の内の総合商社で働いていた玲ちゃん。結婚を機にあっさりと会社を辞めてしまった。 都会の真ん中でバリバリ働く玲ちゃんを、どこか誇らしく感じていた私は、結婚報告よりも仕事を辞めることに驚いた。 「もう痛みはないの?」

          生一本

          夏休みの数日間、1人でパパのとこに遊びに来た。 パパはいつも日本のあちこちにいて、今は京都に住んでいる。 パパの家は狭い。 冷蔵庫にはお酒が2本と、煮豆のパックが1つあるだけだ。 ぼく用におかしがたくさん買ってあり、好きに食べていいって言われたから、パパが仕事の間、YouTubeを見ながらポテチをつまみつつ、算数ドリルを3ページやった。 日曜はパパと電車に乗って、奈良県にやってきた。 法隆寺の五重塔は、今から1300年以上前に建てられたらしい。 木の質や組み方、釘の打ち

          生一本

          気散じ

          行き詰まった時には、週末弾丸一人旅に出かける。 離島の浜辺に寝転がり、満点の星空を見上げながら、宇宙の起源に想いを馳せる。 小さな光が何万、何億と集まって、宇宙は存在している。 あの一つ一つの光の元に、それぞれの星の、それぞれのドラマがあるのだろう。 飛行機の座席は必ず窓側を選ぶ。 機内アナウンスが流れ、周りでカチャカチャとベルトをつける音がする。 ごうごうと大きな音が響き厚い雲を抜けると、そこには東京の夜景が広がる。 どこまでもつづくオレンジの灯り。 小さな

          催花雨

          大分空港から車で1時間。 駅を出て由布岳を見ると、(あぁ、帰ってきた…)という感じがする。 駅から湯の坪街道にかけては小洒落たカフェや雑貨屋が並び、大学が春休みということもあってか、若い女子のグループやカップルの観光客も目立つ。 今日のような肌寒い雨の日に、湯布院温泉は最高だ。トロリとしたお湯に肩まで浸かると、身体の芯からぽかぽかになる。 東京の1Rのアパートには湯船がなく、最初はなかなか衝撃を受けた。シャワー生活で入学早々風邪をひき、初日の授業を受け損ねたのは4年前の話

          睦ぶ

          主人と2人で旅行なんて、新婚旅行以来じゃないかしらと思います。 結婚40周年のお祝いに、と息子が温泉旅をプレゼントしてくれました。 ** 神奈川県は箱根町。 箱根湯本の駅を出るとすぐ、大きな川が流れていて、緑の山々の向こうから透き通った水が緩やかに落ちていきます。 商店街はたくさんのお客さんで大賑わい。 店先でおまんじゅうを蒸していて、頭に三角巾を巻いたおばちゃんがせいろの蓋を開けると、もわわっと煙が立ち、ほんのり甘い香りがします。 思わず一つ買って、半分こにしていただ

          魔法の手

          予定よりも少し遅くなってしまったが、面会時間の受付には間に合いそうだ。 まだ電車が来るまでには3分あるのだが、なんとなく駅のホームに降りる階段を早足でかけ降りる。先週の今頃は、10月に入ったというのにまだうだるような暑さで、外回りの移動中は大きめのタオルハンカチを握りっぱなしだったのだが、今週に入って少しずつ秋の過ごしやすい空気を感じるようになってきた。時折り吹く風がワイシャツを抜けると気持ちが良い。 夕方の東横線は空いている。3人がけの席の一番端に座ると、向かい側には母

          魔法の手