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『みらいのさんち』はどこにあるのか──産地研究と多元的デザインの接続を試みたい

安藤 昌也 先生にお声がけ頂き、千葉工業大学大学院の『多元的デザイン特論』にて「みらいのさんち」というテーマで講義をおこないました。

生物多様性や持続可能性の議論の延長上にあると思っている「多元的(考えや事物の基づく根源が多くあること)デザイン[*1]」が、そもそも多元的だったはずの工芸における「産地」を拡張していくアイデアであると仮説立ててみました。

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環境や時間軸を超えた過去との対話など、
産地はつねに時間を超えた超越性の中に存在していたのではないか

これまで自然環境の中で生み出されてきた産地を構成する風土・技術・歴史のはずが、社会や産業の構造が変化するなかで、長期的な視野を欠いた場当たり的なものになってしまったのかと反省をしつつ、バイオテクノロジーや人工知能、ブロックチェーンなどの新たな技術を応用した持続可能な「みらいのさんち」を構築する術があるだろうと妄想してみました。

そうすると物理的にローカルで歴史との対話のもと成り立つ「産地」が開放され、仮想空間でのシミュレーションや人間では不可能なくらい計算できるアルゴリズミックな検討可能な「さんち」も含まれるはずです。ところが、そうすると伝産法で記されている伝統的工芸品の要件である「製造過程の主要部分が手工業的」、「伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料」、「一定の地域において少なくない数の者がその製造」することから外れてしまうのです。これは困った…。

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自然の中から生まれた伝統的工芸品。
人の生み出した世界がすでに新たな自然となっているかもしれない。

有松では昔ながらの藍染めでの制作を継続している方もいれば、持続可能な未来を目指して、藍染め以外の天然染色や染め直しなどの模索も試されています。しかしそれだけにとどまらず、同様に循環するマテリアル開発や工芸で培われた技術のコンピューテーショナルな応用も模索する必要があるのではないでしょうか。対面の世界だけでおこなわれてきた産地の世界を、長い歴史の中で自然や先祖と対話してきたように、仮想空間や非同期的な時間に軸にもう一度開放し、「みらいのさんち」を思索する取り組みに少しでも学生のみなさんが興味を持ってもらえたら嬉しいです[*2]。

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産業集積地としての産地ではとどまらない「さんち」の可能性を
コンピューテーショナルな領域との接続に見出せそうだ

改めてこのような場を設けていただいたことをお礼申し上げるとともに、「多元的デザイン特論」の成功を祈念しております。


[*1] 多元的なデザインに関する理論の解説は以下のnoteが詳しいです。

[*2] 講義の中で取り上げた先進的な「さんちのみらい」を感じさせる事例の一部を紹介する

Modern Synthesis - This is Grown.
シューズのアッパー部分をCNCで張った糸とバクテリアによるバイオレザーで構成するプロジェクト。この後に発表された顔料をつくるバクテリアを用いたプロジェクトも興味深い。
Studio Swine - The Sea Chair
海洋プラスチック汚染を回収し、スツールの材料とするプロジェクト。回収されたGPSデータがタグに記されている。人類が生み出したプラスチックの廃棄物を素材化するプロジェクトは現在までさまざまな事業者やデザイナーが発表している。
Synflux - Algorithmic Couture β
衣服の縫製時に出る廃棄を減らす技法として注目される直線裁ちと、アルゴリズムによるカットパターンを組み合わせたことで、ユーザーの身体に合う私だけの愛着ある一枚と環境負荷の低いファッションのあり方を模索したプロジェクト。

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