スタイリスト/アナリストと体験するヴァーチャルファッションの可能性(3)──新たな人間像とその生活
ヴァーチャルファッションのプラットフォームである「DressX」を、カラーアナリストのかいじんちゃんと、イメージコンサルタントのアサノシノとともに体験する全3回のレポート。
ヴァーチャルファッションの背景を整理した第1回、DressXでのショッピングをレポートした第2回、そして、最終回となる今回は、つよくておもしろい服を選んだ彼女らとヴァーチャルファッションの経験を振り返るとともにヴァーチャルファッションのある生活まで想像を飛躍してみたいと思う。それではどうぞ。
ヴァーチャルファッションの出来上がり写真
浅野|さっそくですがそれぞれが選んだヴァーチャルファッションがDressXから返ってきました!
かいじんちゃん・シノ|ワーワー
浅野|ひとりずつ見ていきましょうか。ではシノさんから。
シノの場合
シノ|前回でも話していたけど、私は骨格ナチュラルだからぴったりした服を着ると身体の角張ったところが強調されて、特に肩とか鎖骨とか大きく、いかつかく見えちゃんだよね。
今回選んだドレスっていうかボディースーツは、あえてそのセオリーを無視しても気にならないくらい造形として強いデザインを選んだんだよね。物理空間では構造がよくわからないし、ピッタピタでどう着たらいいのかわからないくらいに非現実的なんだど、ドレスとしてギリギリ成立しているバランスがおもしろいってなった。
あとパーソナルカラー的にも黒とかシルバーは得意だったから強気でいけたかな。
かいじんちゃん|そうだよね。正直、顔の一部しか出ていないからパーソナルカラーはどこまで必要かと言われたら微妙だけど(笑)
シノ|カラーバリエーションがもっとあったら悩んでたかもしれないけど、これは黒一択だったしね。あとドレスの名前が「TECH WITCH」ってのもかっこいいじゃん(笑)
かいじんちゃん|メタルとかスパンデックスで編んでみたように見えるけど、アニメで描かれる未来SFみたいなフューチャリスティックな感じもいいな。
浅野|身体の個性に目が行かないほど強いデザインってのはたしかにそうだね。ちなみにこの写真を撮るときはどんな格好をしていたんだっけ?
シノ|これはドレスがピタッとしてるし肌が透けて見えるから、写真撮るときはそれを想定して黒のスパッツにタイトめな肌着だったかな。背景はスキッとした屋上でポーズを意識しながら撮影したよね。本当は古いまち並みでも撮影していただんけど、その時は上にTシャツを着てたとはいえ人に見られるのが恥ずかしくてすぐにやめちゃった。
浅野|そうだったそうだった。髪の毛も影響出ると注意書きに書いてあるし、思ったよりも撮られる方も撮る方も技術が必要だよね。
かいじんちゃん|わかる。私は青山で撮影しようとしたんだけど、一度、送った写真は中に着ている服のせいで合成しにくいんじゃない?ってやり直したもんね。
浅野|そうだったね。そのあとで撮り直した写真で出来上がったのがこちらですね。
かいじんちゃんの場合
かいじんちゃん|常々、私たちはDIVA好きを公言してるじゃない。MetGalaを歩いてるDIVAを意識しながらも、普通の背景のまちなかなのでスニーカーを履いてカジュアルに外してます。ミニワンピを着てリーボックのポンプフューリーを履いてるBjörkを意識したスタイリングになりましたね。色はたまたまだけど、ブルーベース冬に合うメタリックを入れて。
浅野|ふたりとも骨格診断やパーソナルカラーは意識していないと言いながらもちょっとはカバーしてる色だったり素材感を選んでるのがおもしろいね。
かいじんちゃん|DressXから送られてきた写真をさらに加工してるから、実際はそこまでパーソナルカラーに執着しなくてもよいのがヴァーチャルファッションならではの楽しみ方のひとつなのかもなって思ったなー。
シノ|リアルクローズだとやっぱり普段の私たちの身体と比較されちゃうから、ここまでつよくておもしろい服なら気にしなくていいよね。
とはいえ、かいじんちゃんには本当はもっといろんなポージングをしてもらいたかったんだよね。色だったりサイズだったりはフィルターなり画像編集アプリでいじることができるけど、まだポージングは変えられないから。
かいじんちゃん|実はこの写真は2回目に送ったやつで、ポージングの指摘に頷いたからもう一度撮り直すって言ってたんだよね…。1回目のインタビュー収録から3ヶ月も経っちゃって、11月に薄い服着てまちなかに立つのが寒くてできなかったんだよ(泣)
浅野|スタジオで撮影しない限り、季節によっては撮影することのできる服が限られちゃうのがたしかに難しいところだね。
かいじんちゃん|本当はゼロ年代のファッション誌みたいに原宿のフォトスポットで撮影したかったんだけど、撮影してくれる友だちとの都合が合わなかったり…。見ず知らずの人に頼むには過激な服になる可能性もあったからハードルが高かった。
浅野|ヴァーチャルファッションは物理空間の制約によらないけれど、被写体となるモデルの精神が大いに影響されてるね。そうした消費行動が当たり前になるまでもう少し時間かかりそうだね。
おまけ:浅野の場合
浅野|そうそう、ふたりとも結構非現実的な服を選んでいたから、僕はあえて物理的にもありそうな服を選んで体験してみたよ。シャツとハットに腕を組んでみたけど、想像していたより自然な仕上がりになっていて驚いたな。
シノ|キュートな感じになったよね(笑)
身体と衣服の主従から開放される新たな人間像
浅野|とはいえ、実際にヴァーチャルファッションを楽しんでみて、ふたりの率直な感想を教えてもらえる?
維持管理から解放されるメリット
かいじんちゃん|実際に着る前にARで簡単な着せ替えができるので想像しやすかったのがよかった。着せかえ遊びが好きでそのままファッションオタクになった人も多いと思うけど、今ではコロナ禍でショッピングや試着がしにくかったり、あと実際の服を集めようとするとお金も当然かかっちゃうし。ヴァーチャルファッションなら無限にあるワードローブの中から楽しんで選ぶことができる魅力があるね。
それに実際の服なら「どこで保管しよう」「どうやって洗濯するんだっけ」とか、維持管理まで考えなくちゃいけないんだけど、そこから解放されるのが強みかも。
物理的な制約から解放される衣服のつよくておもしろい造形
シノ|ヴァーチャルファッションは物理法則を無視したデザインでも衣服として成立してるから、本当に自由にファッションを楽しむことができるのが楽しかった。ヴァーチャルがゆえに画像を送る前後で加工することもできるから、物理的な私たちの身体が持つ制約に依らないのもメリットと言えそう。私はドレスを着るから頭身をちょっと伸ばして煽り気味に加工したけど、それは今までのファッションを楽しむ過程と大きくかけ離れていないし。
パーソナリティから解放されるつよくておもしろい衣服
かいじんちゃん|実際に服を着てるわけじゃないから、今のところ色の反射で顔色が変わって見えるとか気にしなくていいしね。あとは服のデザインがつよくておもしろいものが多いから、パーソナルスタイリングで言うところの主従が逆転するところも重要な視点かも。今までは身体の特徴をきちんと分析してそれに合う衣服を選んでいたけれど、身体の造形や色もある程度、自由に加工できるから衣服をベースに身体を編集しちゃえばいい視点を発見したのが面白かったな。
シノ|生地の厚みを実際に拾うわけではないし、リアルクローズなものを選ばなければ骨格診断もそこまで意識しなくて良いからね。だからこそ、ARよりももっと着てる雰囲気がわかるような仕組みがあったら良いのにね。なんせモデルが着てる写真が少ないから、おもしろい服のデザインだけでは出来上がりのイメージ沸かないよ(笑)実際の試着と比べるとどうしてもヴァーチャル試着は分かりづらいから、フェイス交換レベルのほうが即効性はありそうだな〜。
繰り返される衣服と身体の編集
浅野|ふたりともDressXから返ってきた写真に修正を依頼したもんね。2-3日以内に返ってきたからすごいなと思ったけど、たしかにタイムラグがあるのはサービスの体験としてはもったいないところかも。
シノ|こうやって修正してくれるのは物理的な服にはないメリットだけどね。性別や体型に関係なく服を選ぶことができるし、その違いをウェブサイトで見ることができるともっとやってみたいと思う人がいるかな。
浅野|僕自身はファッションに明るいわけではないけれど、普段は着たことのない服をあれこれ選ぶことができるのは想像よりも楽しかったな。かいじんちゃんも指摘していたけど物理の服だと「何回着るのか」とか維持の視点や「いつ着るのか」と場面の事も考えちゃうし。
ヴァーチャルだとそういうものという割り切りもあって、いつもと違う自分だけどこれなら「みんなが驚いてくれそう」「楽しんでくれるかも」っていう気でリアルクローズに寄せていたけど選んでる気がした。
一方で、今回はお試しって感じだったけど、日常的に使うとしたらどんなシーンが考えられるんだろう?
ヴァーチャルファッションによる新たな人間像とその生活
シノ|うーん、ポートレート撮影した写真にヴァーチャルファッションを着せるとかはありそう。ただの貸し衣装の延長にヴァーチャルファッションがあるっていうイメージかな。
かいじんちゃん|SNSのアイコン用とかには需要はあるかもね。衣装を買わなくてもいいし。プロ視点になっちゃうけど、スタイリストの人が自分の作品取りするときにモデルだけ撮影しておいてその上にヴァーチャルファッションを重ねるとかもあるのかな。
シノ|衣服以外のアクセサリーやヘアメイク部分と合わせるのが大変そうだけど、そういう使い方はあるだろうね。
浅野|実際にDressXのサイトを見てると夫婦で旅行した先でヴァーチャルファッションをしてるサンプルがあったりするよね。例えば、歴史的な場所で民族衣装を着て写真撮るみたいな行動をヴァーチャルファッションで置き換えてみるってことはあるかもしれないけど、どうしてもそれだとコスプレの領域を出ない印象だね。
かいじんちゃん|たしかに。例えばタカラジェンヌに憧れる人とかも含めて、観光体験とバーチャルファッションの結びつきはあってもおかしくなさそう。いちいち民族衣装とかを着るの大変じゃん。その場で写真を撮って後日送られてくるとか。誰もが変身願望を持ってると思うので、自分だけや周りの友だちとわいわい楽しむイベントの一環としてはありなのかもなー。
シノ|今のところおもしろがってやる私たちや情報系にいち早く飛びつくインフルエンサーみたいな人たちがメインユーザーなのかな。
浅野|H&Mが2021年12月にCEEKというメタヴァース上で仮想ショップのオープンを発表していたけど、VR空間上で試着・購入したアイテムを実際の店舗で受け取れるようにもなるみたいだよ。電子書籍を購入したら物理の本が定価よりも安く購入できるみたいなことができるようになるらしい。そうなるとヴァーチャル空間内だけで表現可能な衣服よりも、物理空間でも表現可能な衣服が増えていくんだろうか。
かいじんちゃん|そうなるとあんまりおもしろいデザインが減っちゃうのかな。それは残念だけど…。
浅野|あるいはファッション分野でNFTを使った実証実験が日本でも始まるとアナウンスがあったように[*1]、アバターを扱うゲームの世界を含めたヴァーチャル空間を新しい市場領域と捉えた販路開拓の意味合いの方が今は注目されてるかもね[*2]。
話をするなかで、身体という制約から離れるヴァーチャルファッションならではの繰り返される編集可能性と、物理的な身体に由来する骨格診断やカラー診断などの結果から逸脱できる脱社会性を見いだせたことが個人的にはとてもおもしろい発見でした。
ふたりが表現していた「つよくておもしろい衣服」は、誰が・どこで・どのようなコスチュームで撮影されるのかという文脈の中で意味を持ち、「ディーヴァ」や「ウィッチ」といった男性中心な社会と相対するキーワードを用いていたのもうなずけます。
DressXが提示する持続可能なファッションとしての魅力はあくまでも一側面にすぎないなという印象を改めて抱きました。ブロックチェーンを支える技術の高い環境負荷が指摘されていたり、そのインフラ技術もまだ発展途上だと言うことが今回のヴァーチャルファッションの体験から理解することができました。脱物質的なファッションとしてのヴァーチャルファッションは技術主導だけど、それによって僕たちの生活にどのような変化が起こりつつあるのか引き続き観察していきたいと思います。
参考
[*1] デジタルの商品認証技術「NFT」 経産省が初の実証実験へ | IT・ネット | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211227/k10013405271000.html
[*2] 「既存のファッションブランドが物理衣服と同時にNFTを販売していく方向性と、新しい市場を生み出す別のプレイヤーのオルタナティブな活動という二極が並行していきそう」とSynfluxの川崎和也さんはインタビューで答えている。引用:ファッションにおけるNFTの可能性:Synfluxによるクリプトファッションへの挑戦 | Fashion Tech News https://fashiontechnews.zozo.com/philosophy/synflux_nft
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