60歳で整形しましたが何か? その2
大盛況の美容外科クリニック
息子の後押しもあって大手美容整形クリニックに予約をすることになりました。千葉県船橋市にあるクリニックは満員盛況のようで、予約するのに一週間待ちとのこと。ドキドキしながらその日を待ちました。
予約当日になりました。クリニックは船橋駅から徒歩2分の雑居ビルの中にありました。居酒屋が一軒あるほかはすべて美容整形外科が入っているというザ・整形ビルディング。本当に時代は変わりましたね。昔は隠れ家のような場所でひっそりと営業していたものです。
エレベーターに乗り、4階のボタンを押します。扉が開いたとたんあまりにも多くの人が行き交っていたのには驚きました。オープンスペースの待合室も満席です。
受付のお姉さんに名前を告げると、パッチリ二重の美しい目で対応してくれました。診察券と番号札をもらって待合室に座ります。目の前のモニターにはシミ取り施術の様子が映し出されています。シミ取り放題というコースを選べば、400発のレーザー治療をしてくれるとか。よし、次はこれにしよう……と洗脳されていきます。
周りを見渡して驚いたのは、男子が半分くらい待っていたこと。ひげの脱毛をしている息子に紹介してもらったのですからこの男女比も頷けます。次々と番号を呼ばれて立ち上がります。私も10分経たないうちに番号を呼ばれました。まずはドクターの診察です。
ドクターの言葉にショック!
ドクターは細面でクールな印象。最小限の言葉だけで私の目元を診察します。先の尖った棒でまぶたを一度だけ、
「閉じて、はい、開けて」
と診察するとさらさらと紙に文字を書き私に見せました。
「眉下切開、たるみ取り全切開二重術、眼瞼下垂」
美しい目元を作るには、この3つの手術が必要だと言うのです。眉下切開というのは、眉毛のすぐ下を切開し、そこから余分な脂肪を取る施術。たるみ取り全切開二重術は、余計なまぶたの皮を切開して二重を作る施術。そして眼瞼下垂はまぶたが垂れ下がって黒目が見えなくなっているのを治す施術です。
確か、眼瞼下垂の手術は保険適用でいけるはず。
「保険適用になりませんか?」
という問いに、
「そこまで悪くないからできません」
とのこと。
そもそも美容整形外科では保険証なんて使えないのでした。保険適用で手術したいなら眼科に行かなければいけません。
「この3つの手術でいくらくらいかかりますか?」
と聞くと、
「それはカウンセラーに聞いてください」
とつれない返事。
このあたりで、このクリニックに来たことを後悔しはじめたのでした。
また待合室に戻されて番号を呼ばれるのを待ちます。
鍛え抜かれたカウンセラー
すぐに番号が呼ばれました。今度は小さな個室に案内されました。二十代の若いカウンセラーがにこやかに対応してくれます。
「私も全切開と目頭切開してるんですよ」
と可愛らしい目元で和ませてくれます。
それはそうですよね。不細工なカウンセラーでは仕事になりませんから。
「こちらがお見積りになります」
おそるおそる覗き込むと驚きの数字が……。
総額65万円と書いてありました。全切開は覚悟していたので予算は25万円くらいと考えていました。40万円の開きはどうにも埋めることができません。私はバッグを持って立ち上がりかけました。
「すみません、予算がオーバーしていますので今回は諦めます」
カウンセラーは慌てるわけでもなく、赤いラインマーカーを取り出して見積書に線を引きました。
「眉下切開と眼瞼下垂は後からでもできますので、とりあえず全切開だけでいかがでしょうか」
軽やかに電卓を叩き、私の予算よりも少しオーバーしたあたりの数字を見せて来ました。
「どうしても術後のケアのためのお薬とアイクリームが必要ですので、その分少しオーバーしてしまいますが、いかがですか?」
総額31.7万円。う~ん、そのくらいなら払えるか……いや、断れ、断れ……ところがもう立ち上がれなくなっていました。
このクリニックではせっかく釣った魚に逃げられたら罰金でもあるんだろうか……そう思うほど見事な手腕でした。
彼氏に術後の苦しむ姿を見せたくない。彼が大阪に出張している間に済ませてしまおう。そう考えて6月25日に手術日を決めました。
その3へつづく