「11ぴきのねこと馬場のぼる展」へ
『11ぴきのねこ』シリーズで有名な絵本作家、馬場のぼるさんの企画展が石ノ森萬画館で開催されるという情報を聞きつけ、石巻まで行ってきた。
石ノ森萬画館は宮城県出身の漫画家、石ノ森章太郎の記念館で、こういった企画展示も定期的にやってくれる素敵な場所なのだ。昨年は『十二国記』シリーズの絵師である山田章博さんの原画展をやっていたし、『耳をすませば』の監督である近藤喜文作品の企画展をやっていたこともある。
今回は『11ぴきのねこ』の原画だけでなく、馬場のぼるさんの漫画やラフスケッチなんかも展示されているということで、わくわくした気分で魚釣り、もとい原画鑑賞するために石巻へ向かったのだった。
企画展は始まったばかりということもあり、来場してるお客さんの数が多かった。特に親子連れで来た方の姿をよく見かけ、いまもむかしも『11ぴきのねこ』は愛されてる絵本なのだなーとしみじみ。
いざ展示会へ
『11ぴきのねこ』の原画がずらり
最初の展示スペースには『11ぴきのねこ』シリーズ第一作目の原画が飾られている。馬場のぼるさんの絵って淡い配色のイメージがあるけど、原画だとすこし濃いめに感じられた。説明によると、印刷時にブラック・シアン・マゼンタ・イエローの量を調整することで、原画に近い色を表現しているそう。どの絵も良い意味で気安い雰囲気があり、楽しそうなねこたちを見ているとこちらの気持ちまでほぐれてくるような気がする。
特にのびやかな線がとてもいい。ぜんぜん気取ってないというか、無駄なところに力が入ってないというか、馬場のぼるさんの作品に漂うふんわりとした空気ってこの「線」の果たす役割が大きいなと思う。
一作目『11ぴきのねこ』のお話は、空腹のねこたちが巨大なさかなを捕まえるためにみんなでわいわい湖に向かい、上手いことさかなを捕らえ連れ帰るが……という内容でした。最後にこの絵本を読んだのはいつのことだろう。おそらく子どものころに読んで以来だったのでとても懐かしい気分で鑑賞。
ねこたちが”ねんねこさっしゃれ”をうたいながら大きなさかなのまわりをぐるぐるまわる場面とか、よろこんで連れ帰る船の場面とか懐かしい。そしてなんと言っても骨だけになったさかなの絵がインパクト大ですね。弱肉強食……!ではあるのだけど、ぜんぜん凄惨な雰囲気が無く、あっけらかんとしてるのがまたいいんだ。
ガラスケースの中にはラフスケッチも展示されており、よくよく見てみると端っこにメモが書かれていたり、サラッと描かれた様子が気安く、これはこれでいいなあと思う。『11ぴきのねこ』って虎模様のとらねこたいしょう以外は見分けが付かないし、性格や役割にもほとんど違いがないように見えるけど、11匹それぞれが自由に動き回り、ページごとに好き放題してるところが楽しいんですよね。
無邪気そうに見えて案外ずるかったりするのも妙にかわいいし、見ていて癒やされる。
続く展示では、『11ぴきのねこ』シリーズの原画が一作ずつ見られるようになっていて、シリーズの歴史を追いかけて行くのが楽しい。作品ごとにねこたちはいろんな冒険をしてますねー。見ていて和むんだけど、結構世知辛い目に遭っていたり、苦労している場面もあって、大人になったいま見ると新鮮な面白さが。
『11ぴきのねこ』で魚をたいらげ、たぬきのお腹になってる場面とか、『11ぴきのねことぶた』で家が吹き飛ばされてしまう場面とか、『11ぴきのねことへんなねこ』でみんなで花火をする場面とか、どれも魅力的な場面であると同時に、なんか大変なシーンでもあって、そのコミカルさに頬が緩む。
てか『11ぴきのねこ どろんこ』のどろんこシーンすごくいいな。楽しそう。この絵本は読んだことが無かったのだけど読んでみたくなったしどろんこ遊びもしたくなりました(!?)。
原画の横には絵本一冊ごとに馬場のぼるさんの作品解説が書かれていて、読んでいると案外(といったら失礼か)難しいテーマが込められているのがわかる。例えば『11ぴきのねことぶた』は「禁をやぶる楽しさ」をテーマにしており、人生の世知辛さが描かれているようだ。『11ぴきのねこ どろんこ』では、ねこと恐竜が一緒に遊んでいても考え方や感覚の違いによってズレが生じること、つまり「相手との考え方のズレ」をテーマにしているとのこと。
でもそういうことを説教くさくせず、前面に押し出してこないのも馬場のぼる作品の特徴なのだと思う。それは馬場のぼるさんの文章にも表れていて、
「お互い生き方を認め合うことが出来たら民族紛争も戦争も起こらないのになあ、(中略)とまあ、そういうのはむずかしいですなあ。」となんとなくおだやかだ。
また、『11ぴきのねこマラソン大会』は大きな絵で見ると圧巻だった。元々の絵本が大型絵本なので、何十匹ものねこが隅々まで描かれており、じっくり眺めるのが楽しい。そうか、これはみんなで見る絵本なんだな。「あそこにいるねこ~してたよ」とか「ここにいるねこ~してる」と話しながら見て”遊ぶ”のが一番楽しい見方となる絵本。
『11ぴきのねこ』シリーズのコーナーが終わると、他の絵本シリーズの原画コーナーが始まる。『きつね村の山男』も『ぶどう畑のアオさん』も面白そうで読んでみたくなる。てかきつねが登場する率高いな。馬場のぼるさん、ねこだけでなく相当なきつね好きと見た。『ぶたたぬききつね』にもきつねが登場してるし。
絵本の原画コーナーのあとは漫画作品の原画コーナーへ
青森県出身の馬場のぼるさんは、戦後に漫画家としてデビューし、手塚治虫や福井英一とともに「児童漫画界の三羽ガラス」と呼ばれたらしい。私はこれまで『11ぴきのねこ』以外は読んだことが無かったのでこのコーナーも興味深く鑑賞。というかこの展示を見るまで知らなかったのだけど、馬場のぼるさんは手塚治虫と交流があったため、手塚治虫作品の中にちょっちゅう登場していたんだって。例えば『ブラックジャック』の「ミユキとベン」では物乞いとして登場したり、『鉄腕アトム』の「アトラス」では避難民として登場していた模様。本人いわく「変な役ばかり」と感じていたようですが。
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そのほか、富嶽三十六景やナポレオンの肖像画など名画と馬場のぼるさんのねこがコラボしたおふざけの絵があったり、練習として描かれたリアルな猫の絵があったりと、見ていてほのぼの。
こういうユーモアの感覚とか、イメージとかが子どもたちに独特の「夢」を与え、大人も楽しめるポイントになってるんだろうなと、そんなことを思う。
というわけで展示を見終わる
展示を見終わったあとは、馬場のぼる先生による『11ぴきのねこ』読み聞かせムービーが特別上映されていたので鑑賞した。野太い声と、ゆっくりとした話し方がいい。「この魚は食べちゃダメだぞー」とみんなで宣言したそのすぐあとに魚が骨だけになってるシーンはやっぱり笑える。
グッズショップには馬場のぼる関連作品のグッズコーナーが用意されており、「鳥の丸焼きTシャツ」を購入。その後、展望喫茶「BLUEZONE」でコラボメニューのカレーとクリームソーダをいただき、ひと休み。
最後は石巻の街なかのラリーポイントを巡って全7種類のスタンプを集めながら「11ぴきのねこ スタンプラリー in 石巻」をしつつ帰路につく。
馬場のぼるさんは、漠然と絵本を描きたいとは思っていたものの、真面目に仕事をやるという雰囲気では無かったし、書いたところで売れるとは思ってなかったという。ただただ絵本を出したいという思いがあり、仕事というより「遊び」で描いたのがはじまりだったようだ。おそらくそういう肩の凝らなさが作品の雰囲気にも反映されているんだろうなあと思う。
チャーミングな絵柄とユーモア精神、のびやかで遊び心のあるお話、ねこたちの愛嬌あるすがた。その良さは子どもの頃からいま見ても変わることがなく、そんな絵を見ていると、こちらまでおおらかな気分になってくる、そんな企画展だった。
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