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思いがけず、名付け親になった話

年齢を重ねるのが怖くて仕方がない時期があった。
「何かを始めるのに年齢なんて関係ない」ということが当てはまる場合も多いけれど、加齢が怖いのは、シミやシワを気にしてのことではない。

子を産むということ。

それには年齢は重要な要素である。子を産むことに対しても、「年齢は、ただの数字、記号!」と明るく言い切れたら、どんなにいいだろう。

結婚10年、子供はいない。
40歳になったら、スパッと諦めよう。
と思っていたけれども、スパッとはいかずにメソメソ、モヤモヤし続けた。
年末年始に、メソメソ、モヤモヤは2019年に置いてこよう、2020年は生まれ変わるんだ!と決意したはずだったけど、置いてくることは出来なかった。4月も終ろうとしているこのタイミングでも、メソメソすることもある。

40歳でスパッと諦められないのは、芸能人の「44歳で妊娠」とか、「45歳で出産」とかそういうおめでたいニュースを知ってしまうからかもしれない。リスクや確率の低さはあるものの、「不可能ではない」年齢に、まだ自分がいるのだ、と思うと諦めたはずの心が揺れ動く。

我が家は、不妊治療をしてあきらめたカップル、ではない。夫が子供を望んでいなかった。お互いに、不妊かどうか調べたこともない。

なんでもっと早く話し合ってこなかったんだ、そもそも、結婚前にそういう話はしなかったのか、と思う人もいるだろう。
結婚前も結婚後も、彼が本当に子供を望んでいないとは思わなかったのだ。

もしも子供ができたなら、と彼が考えたその子供の名前を聞かされていたのもあるかもしれない。
とっても良い名前で、男の子にも女の子にもしっくり来る名前。私は、将来母になることを夢みながら、うっとりとした気分で聞いたのだった。

まさか、本当に「どうしても、子供が欲しくない人」が子供の名前を考えて語るなんて思っていなかったのだ。なんと、思わせぶりな。コノヤロー!である。


ふと思い出したことがある。ずいぶんと前に、たぶん10年以上前に、
何度か通っていた美容室でのこと。いつも担当してくれる美容師さんが
「妻が妊娠中なんですよねー」と。
「それはおめでとうございます!」
「名前が全然決まらなくて。色々、案はあるんですけど、なかなかピンと来ないんですよね」
という会話になった。

そこで私は、
「いい名前があるんですよ、日に向かう、と書いて『ひなた』。男の子にも女の子にもしっくりくる名前でしょ?意味もいいし。呼び捨てにしても、いい響きだと思いませんか?具体的な予定もないんですけどね。名前だけ決めていて。彼が考えた名前なんです!」
私は、得意気に語った。
「いい名前ですねー」
なんて美容師さんに言われて、気分よく美容室をあとにした。

1ヶ月後、再び美容室へ。

「実は、例の名前の話、妻に話したんですよー。いい名前だね、って盛り上がって。お腹の子にも仮で『ひなー』とか『ひなちゃん』って呼んだりしてたら、なんかすごく気に入っちゃったみたいで」
それはそれは、光栄なことである。

「で、、、この名前、いただいていいですか?」

わーお!予想外の展開。

私は、「どうぞどうぞ、もちろん」と。
だって、この名前、まだ宿ってもいない我が子の妄想の名前なんですもの。
いただくもなにも、日本にはひなたちゃんはいっぱいいて、わりとポピュラーな名前でもある。

お礼に、とサービスでトリートメントをやっていただけた。
私は、図らずも、ツルツルになった髪の毛と引き換えに、美容師さんのお子さんの名付け親になったのだ。

その後、引っ越しなんかもあって、そのお店には行かないまま、ずいぶんと長い年月が経ってしまった。
あの美容師さんのお子さんは、性別はどちらだっただろうか。当時聞いていたのか、まだわからない段階だったのか、それすらも忘れてしまった。

ひなちゃん、元気にしているかなあ。

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