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ウクライナ戦争と食料危機(CSISの記事)
写真出展:Annette MeyerによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/nennieinszweidrei-10084616/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=7593485
CSISは2022年12月16日に、ウクライナ戦争と食糧危機の現状に関する記事を発表した。内容は、ウクライナ戦争による食糧需給への影響、戦争以前の状況、現在の取組などについて概観するものである。日本では食料価格の高騰ばかりがニュースになっているが、食料危機の問題は戦争以前からのものであり、今後も継続した取り組みが必要である。中長期的な食料への影響を考えるうえで参考になることから、その概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Beyond Black Sea Grains: The Global Malnutrition Crisis Caused by Russia’s War in Ukraine)
https://www.csis.org/analysis/beyond-black-sea-grains-global-malnutrition-crisis-caused-russias-war-ukraine
1.記事の内容について
・ウクライナ戦争に伴う黒海沿岸の穀物貿易についての報道で、世界的な食糧需給が危ぶまれているが、こういった情報の影で食糧事情を巡る真の状況が分かりにくくなっている。この戦争により小麦、大麦、トウモロコシ、植物油の価格が高騰するのみならず、栄養食の価格も上昇することとなり、栄養失調が蔓延することとなる。現在の状況について詳しく見ていくこととしよう。
・国会の農作物輸出については様々な調整がなされているものの、輸出量は大幅に制限されている。アメリカ農務省の試算によると、2022年から2023年にかけてのウクライナにおける小麦の生産量は2050万メートルトンであり、1年前の62%の水準である。このことに伴い、穀物輸出量も1250万メートルトンとなり、1年前の67%の水準となった。ただ2022年8月以降、黒海からの穀物輸出量は月量300万メートルトンのみであり、1年前の40%減となっている。国連食糧農業機関によると、シリアルは昨年比9%価格上昇し、食料油も価格上昇しており、結果として栄養価の高い食品も高騰するに至っている。穀物やシリアルは飼料としても利用されていることから、食肉価格は4%、乳製品は12%も価格上昇した。
輸出量の低下のみならず、エネルギー価格上昇も影響しており、2022年3月には世界の食料価格が史上最大となった。2022年11月現在はやや価格が下落したものの、2020年比で40%も高騰している。肥料価格の高騰も農作物の生産を低下させる要因となっており、今年5月にアフリカ開発銀行は、アフリカの農作物の生産量が20%下落すると警告していたほどである。
食品価格の上昇により家庭の食生活も大幅に制限され、栄養価の低くカロリーの高い食品に依存するようになっている。国連の試算では、2020年時点で31億人がまっとうな食事にありつけない状況となっていたが、本戦争に伴いこの数はさらに増加していると考えられ、結果として数百万人が栄養失調に陥る可能性がある。
・今回の戦争に伴い、人道支援物資はウクライナ難民などの支援に優先的に回されることになり、結果として平時の人道支援が停滞している。戦争以前から、世界53か国の約2億人が食料不足に見舞われていたこともあり、その影響は甚大である。国連食糧農業機関の報告書によると、毎月の支援活動のコストが2900万ドル上昇したとされており、ソマリア周辺国の若年層への支援のため、ユニセフは1200億ドルが必要であると発表している。ソマリア周辺国は5年近く不安定な雨季に苦しめられており、この間700万人以上にも及ぶ5歳以下の幼児が飢餓に苦しんでいる。2020年だけでも4540万人の若年層が飢餓に陥り、1360万人は餓死直前になっている。ユニセフの試算では、2022年時点で15か国の26万人の幼児が、深刻な飢餓に直面することになるとしている。その他の問題として女性の方が男性よりも食料不足の影響を受けており、2021年時点の飢餓率では男性が27.6%に対して女性が31.9%となっていた。出産や育児に対する影響も懸念される所である。
・ウクライナ戦争以降、アメリカは迅速に人道支援に対応してきた。ソマリア周辺国への支援は8億ドルから18億ドルに増額し、国際開発庁は総額4億ドルの幼児支援を行った。ブリンケン国務長官は30か国の外相と会談し、世界食糧安全保障サミットを国連で開催し、支援を主導した。また2022年G7サミットでも食糧問題が取り上げられ、国連食糧農業機関は食料輸入基金創設を提案し、IMFは食糧危機窓口を通じて農業支援を行うようになっている。
・現在の食糧危機を解決するには、ウクライナ戦争の終結が必要であるが、戦争が終わればすべて解決と言うわけではない。コロナ禍、気候変動、地域紛争などの不安定要因は多々存在し、今後も危機回避に向けた対策が必要となる。
2.記事読後の感想について
食糧危機に関してはたびたびニュースになっているものの、異常気象、蝗害、コロナ禍などで農業は大きな打撃を受けてきており、戦争以前から危機にある国は多数に及んでいる。食料の確保は貿易によって自然になされているのではなく、実際には争奪戦が展開されているのである。
よくODAなどの海外支援が無駄であるといった批判があるが、こういった事業の中には食料確保のために行われているものも多数ある。こういった視点に立つと、海外支援の在り方が違って見えてくるだろう。日本は資源だけでなく食糧も大量の輸入に依存している。現在の食生活を当然のものと捉え、昨今の値上がりに右往左往するに終始してはならない。大事なことは食料の受給状況について認識を深め、中長期的な食生活について考えることである。今後手に入りにくくなる食料は何か、高騰するものは何か、代替品となるものは何か、考えるべきことはいくらでもある。
ただ残念なことに、日本は情報鎖国状態で現状が見えている人間が非常に少ない。下らない情報に踊らされずに冷静に状況を見極めるには、テレビ、新聞、週刊誌といった情報源から離れることである。インターネットだけでなく、職場での何気ない会話や業界の専門誌などにも目を向けてみよう。
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