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アフガニスタン国軍の崩壊について(RUSIの記事)

写真出展:chiplanayによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/chiplanay-1971251/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4947965

 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2021年8月18日に、アフガニスタン国軍の崩壊について分析する記事を発表した。内容は、軍の置かれている状況や、現場レベルでの崩壊の要因を分析したものである。ここしばらくアフガニスタン関係の記事を見ていたが、政治的なものが多く、現場の雰囲気が伝わるものがなかったことから、参考として本記事の概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(Why Did the Afghan Army Evaporate?)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/why-did-afghan-army-evaporate

1.RUSIの記事について
 ・アフガニスタン軍の崩壊は、6月の時点ですでに予見されていたものだった。軍は分散して地方の主要都市に配置されており、人員も十分ではなかった。しかもタリバンが優勢な地域に囲まれており、空軍により人員が配備する必要があり、持続可能な状況ではなかった。またタリバンはアフガニスタン軍の士気低下のために、取り込み戦略に乗り出しており、民族の長老が降伏すれば危害を加えないというメッセージを伝え、次々に地方軍を懐柔していった。その他、アフガニスタンの政治指導者層や将校がアメリカやドイツに移転するといった噂も飛び交っており、政府は崩壊しかかっていた。
 ・このような事例は過去にもある。2014年6月のISが、イラクのモスルを襲撃した際、イラク軍第二師団30,000名はすぐに逃げ出し、4日間で制圧されてしまった。この失敗の結果、アメリカはモスル奪還に3年を要し、数万名の命及び数十億ドルが費やされることになった。今回はこの教訓に学ぶことができなかったのだろうか。
 ・アフガニスタン軍は精強で知られていたが、その実態は武装した民間人による強さであって、正規軍ではなかった。その他、2001年からイギリスが編成・訓練してきた第333部隊や第444部隊などの特殊部隊は精強であったが、正規軍と言うよりは、有事の戦力として位置付けられた。正規軍は、汚職、任務放棄、麻薬中毒、民族間の緊張、不十分な統制、縁故主義、敵との談合、不逮捕特権などの腐敗にまみれており、機能していなかった。
 ・ソ連、NATOも同じような経験をしてきた。ソ連は22万人、NATOは19万5千人のアフガニスタン正規軍を創設したが、これだけ大規模だと質の低下は避けられず、同様の失敗に至った。この時の教訓は、より小規模かつ持続可能な軍の創設及びアフガニスタン国家警察(ANP)の立て直しだった。
 ・2014年のNATO軍撤退時には何とか持ちこたえたが、空軍による支援や犠牲者の避難活動などがあったからであり、今回このような支援が打ち切られれば、耐えられないことは明白だった。航空機のメンテナンスは西側諸国の企業に依存しており、今後も航空機能力が弱体化していくことが見込まれる。
 ・ただ、このような背景があったものの、最も軍の指揮に悪影響を与えたことは、タリバンとの交渉開始である。2020年10月8日にトランプ大統領が、クリスマスまでに在アフガニスタン軍を減らすと宣言し、2021年4月13日にバイデン政権がこの方針を追認したことで、崩壊の流れが決定した。その他、西洋の政治家が地方の現状を十分理解していないことも大きい。都市部では西洋式の教育が浸透してきていたが、地方は価値観の変化を恐れて快く思っておらず、都市部の政治家の腐敗に目をつむることもなかった。地方出身の軍人はこの思想を持ち続けており、軍人であることの危険性が蔓延し、軍が崩壊したのである。

2.本記事についての感想
 アフガニスタン情勢に関しては、アメリカと中国の視点ばかりが強調されており、その他の国々の意見がほとんど見られないことから、今回本記事を取り上げることとした。
 一つの視点ではあるが、タリバンとの交渉が崩壊の要因とする意見はなかなか見当たらず、アメリカの撤退戦略の稚拙な一端が分かる内容になっている。トランプ政権の交渉は、選挙対策で兵士を国に帰還させることを急ぐあまり、交渉がタリバンに融和的になっていた側面があったことは明白である。ヘリテージ財団などの記事ではタリバンとの交渉がうまくいっていたかのような論調だったが、暫定的な均衡が保たれていたとしても、長期的な国の安定にならないことは誰の目にも明らかであり、まずい対応をしていたと批判されても仕方がないだろう。これに対して保守派がトランプ政権を擁護する向きもあるが、これはバイデン政権批判が動機になっている部分も多々あり、本質が見えなくなってしまう要因にもなっているのではないだろうか。
 日本やトルコなどの慎重姿勢は悪いことではない。イギリスは一貫してタリバンに強硬な姿勢を崩しておらず、国家として承認しないことを表明しているが、過度な介入は特にならないと見込まれる。
では、介入してきた中国はどうかと言うと、某映画ではないが手痛いしっぺ返しをくらうことになるだろう。ウイグルでのテロ抑止効果を期待しているのだろうが、タリバン は一枚岩ではなく、パキスタンの支援も受けている。一帯一路でパキスタンも港を奪われるなどの損害を被っており、良好な関係を維持するように見せかけて、実は内側に入り込んで利益を貪る魂胆なのだろう。
   いずれにせよ、関わった国々が得をしない地域であり、今は推移を見守る他ないだろう。

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