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中国の自動運転技術に対峙するには(CSISの記事)

写真出展:(Joenomias) Menno de JongによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/joenomias-2512814/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=3117778

 2021年10月15日にCSISは、自動車運転で中国に対抗し、アメリカが優位性を維持するための提言に関する記事を発表した。内容は、自動運転を巡る状況を概観し、アメリカが対抗していく際に必要となる貿易及び外交政策について論じるものである。自動運転そのものの内容と言うよりは、貿易や外交政策が主たる内容となっているが、日本が参考とするべき事項があることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Careful Connectivity: Responding to China’s AV Drive)
https://www.csis.org/analysis/careful-connectivity-responding-chinas-av-drive

1.記事の内容について
 ・バイデン政権は、米中の経済関係をいかにして取り扱うのかについて明確にしていない。2021年6月にサプライチェーンが中国に過度に依存していると発表したが、その解決策は示していない。また政府高官の発言もはっきりしておらず、タイ通商代表は「デカップリングではなくリカップリングする必要がある」と述べ、レイモンド商務長官は、中国のイノベーションを遅らせ、先端技術を抑止することに尽力するべきとしている。アメリカは「デカップリングと自由の間にある第三の道をどのようにして歩むのか?」という問いに対する答えを出す時期に来ている。
 ・この問いに答えるには、自動車産業の問題を考えることから始めるべきだろう。自動車産業は輸送、ライフスタイルなどに革命的な影響を与えるものであり、広範に及ぶ研究開発や先端生産能力の組み合わせから構成されるものである。利便性が大きく向上する一方、データの収集や分析によるプライバシーの侵害や敵国による軍事利用などの懸念もある。
 ・中国は電気自動車で成功しているが、これと同様の力学が、自動運転に波及することは容易に想像できる。このことを鑑みると、アメリカが中国とデカップリングするべき分野は、自動運転だと考えるかもしれない。しかしこれは大きな間違いであり、中国が西側諸国に依存するようにさせつつ、アメリカが先端分野でリードすることが最善である。
 ・中国は2017年と2018年に、人工知能を搭載した自動車についての遠大な計画を発表した。それ以来、民間企業に多大な補助金を支給しており、研究開発からロボットタクシーのようなサービスまで支援を行っている。2021年初頭には公道での試験運転を可能とするよう規制緩和し、3500kmに及ぶ27か所の試験場が認可された。700の組織が試験運転のライセンスを取得し、700万キロメートル分以上の試験走行を行っている。2021年初頭には技術基準の原案を発表し、2025年までに主要な基準を策定し、2035年に完成させるとしている。
 ・自動運転が最優先の分野だと認識されたことから、自動運転企業だけでなく、普通の自動車企業、インターネット企業、運転支援企業、通信技術企業、スマートホンメーカーなどが参入している。バイドゥが率いるアポロ連合が有名であるが、その他のコンソーシアムなども様々な分野に投資しており、自動運転を支援する技術に貢献している。更に中国企業はアメリカのベンチャーキャピタルから多大な投資を受けており、しかもアメリカの技術企業と共同で研究開発している。
 ・ただ、アメリカが負けていると言うわけではない。ウェイモ、クルーズ、テスランなどの企業は、最先端のアルゴリズム、試験走行、データ収集により、レベル4及びレベル5の自動運転で中国を圧倒している。またその他のでも優位性を確保しており、自動運転のデータ収集・処理に必要とGPUは、Nvidiaが圧倒的なシェアを占めており、中国の自動車にも搭載されている。
 このような状況下においてデカップリングすると、中国が国内企業を育成して独立志向を強め、西側諸国の技術に依存しなくなってしまうことから、結果として望ましくない方向に行くことになるだろう。
 ・またデカップリングにより、Nvidiaや他の西側諸国が中国に販売している機器などの売り上げが大幅に減少することになり、既存の自動車産業も中国とのビジネスに支障をきたすことになり、結果として企業の研究開発が減退することになる。
 ・より賢明な戦略は、推進、保護、基準設定である。
  連邦政府及び州政府は自動運転事業を支援し続ける必要があり、更に周辺のインフラや5Gネットワーク構築などを推進するべきである。保険会社などにも自動運転にかかる新たな保険商品開発を促し、自動運転で収集した情報に関するプライバシー保護も必要である。
  また中国と関係のある企業の情報を十全に把握することも重要である。このためには、政府は日ごろから海外投資やサプライチェーンの問題に関して民間企業と情報共有を図ることである。通常の情報共有は、CFIUSの守備範囲を拡大するよりも望ましく、ビジネスの機会も失われにくい。
  技術流出を防ぐには、輸出管理が最も重要になるだろう。商務省は、一部先端半導体を商取引規制リストに追加し、より多くの中国企業をエンティティリストに追加する必要があるだろう。このことにより、部分的に技術流出を規制しつつ、輸出品の管理を強化し、取扱業者を制限することが可能になる。
 ・その他重要な事項として、同盟国や友好国と連携した国際基準策定がある。この問題は、米欧の貿易技術委員会にて中心的な課題となっているが、より幅広く連携していく必要があり、イギリス、日本、台湾などの規制当局及び産業の当事者を取り込む必要がある。最優先するべきことは、ISOやITUのような国際会議の場で議題にすることであり、中国に基準団体への参加及び公正な取り扱いを行うよう圧力をかけることが必要である。
  アメリカがこの路線で成功すれば、他の分野にも応用することが可能になり、中国との競争が激化する分野においても優位性を確保できるだろう。

2.記事読後の感想について
  最近は電気自動車を導入するか否かと言った視点で論じられることが多いが、自動運転については話題が少ない。テスラは電気自動車ばかりがクローズアップされているが、実際には自動運転の制御ソフトの方が基幹的な技術と言えるのであり、この技術により車の性能が向上していくと言う点が強みなのだ。
  中国国内で様々な嫌がらせを受けるようになっていて、アメリカでもデカップリングの世論がそれなりにあるようだが、国内をまとめて企業を助けつつ、中国から利益を得られるかが今後の運命を作用する。
ただ、バイデン政権には期待できそうにない。デカップリングせずに付き合うと言うのは最も困難な道であり、アフガニスタンやAUKUSなどをめぐる外交上の失態などを考えると、多国間での連携を取り持つ主体にはなりえないだろう。
 ここで日本が役割を果たせればと思うが、それも期待しすぎだろうか。いずれにしても、多国間での枠組みで対抗しなければ、中国には勝てない。日本の立ち位置を利用して、うまく立ち回ってもらいたい。

  
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