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日英安全保障協力会議報告書(RUSIの記事)

写真出展:Gerd AltmannによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/geralt-9301/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=4011419

 2021年10月26日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、9月6日に実施された日英安全保障協力会議報告書な内容について論じる記事を発表した。内容は、イギリスの「インド-太平洋への傾斜」に伴う艦隊派遣と日本の安全保障政策との関係についての議論を紹介するものである。日本の外務省や防衛省では情報がほとんどないことから、参考としてその概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(China’s New Hypersonic Capability)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/conference-reports

1.RUSIの記事について
 ・2021年9月6日に開催された日英オンライン会談において、日英二国間パートナーシップにおける2つの主要領域である、海洋安全保障及びインド-太平洋におけるサイバーセキュリティについて協議した。
・イギリス王立海軍クイーンエリザベスを中核とした空母打撃群(CSG21)のインド-太平洋地域への派遣は、まずは日本に寄港することが基礎となっている。このことの実現は、日英二国間の関係が2010年初頭から徐々に強化されたという事実に基づいている。2014年のソマリア沖におけるCTF-151海賊対策作戦の協力、2015年の外務防衛大臣2+2会談、2016年の共同訓練のためのイギリス空軍タイフーン戦闘機の派遣、2017年の防衛ロジスティックス条約の署名などがあり、2018年以降は日本と緊密に連携しながら艦隊派遣を継続してきた。2021年には、王立海軍と海上自衛隊(JMSDF)間の安全保障協力関係を強化するため、海洋安全保障合意に署名した。現在、共同訓練や作戦行動に関する行政、政治、法律上の手続きを効率化する野心的な相互アクセス協定(RAA)へと継続的に取り組んできており、更に包括的な協力関係が構築されるだろう。
・現在まで日英で実施されている共同訓練は、統一的な行動戦略及び手続の策定を支援するものであるが、課題も存在することが認識されている。一つは、作戦上の非対称性であり、自国の周辺地域以外の地域へ割く資源が限られていることである。イギリスの主要な地域はヨーロッパ-大西洋地域であることを鑑みると、両国の期待を合致させるよう、実践的かつ柔軟な活動のモデルを構築することが一つの解決策になるだろう。また王立海軍と海上自衛隊の人事交流、2+2サミットなども重要な取り組みであることを再確認した。その他、アメリカの役割についても議論されたが、日米安全保障以外の枠組みでの防衛協力における制限が本地域への取り組みにとっては望ましいものではないと認識されている。
 ・G7の構成員として、最近イギリスと日本はよりよい復興インフラ事業を立ち上げ、デジタルインフラを含むインフラに関して協力関係を構築しているが、その実践は容易ではない。具体的には、対象となる国々や事業の選定、利益の回収期間が長く利益率が低い事業が多い場合における民間部門の参加促進、持続可能な開発と影響力評価が本質的に忍耐を必要とし、事業の期間が長くなる際に事業の実施過程をいかに短縮するのかといった、多岐にわたる問題への対処が必要になる。
 ・両国は、サイバー空間における国家の行動及び技術基準に関して共通の国益を有している。日本側は警察白書で初めて公にサイバー諜報活動について言及し、中国のハッカー集団「Tick」の犯行について発表するなど、国家のサイバー空間における行動についての考え方を明示し始めている。また5Gのサプライチェーン管理及びベンダーについても懸念を共有しており、自国でのインフラ整備などに取り組んでいる。
その他サイバーセキュリティに関するイギリスと日本の協調は、すでに始まっており、イギリスの国家コンピューターインシデント(CERT--UK)及び日本のJPCERTコーディネーションセンターは、すでにお互いに連携している。今後は政府機関以外の連携をどのように進めていくのかが課題になる。
 ・両国の相違点を克服していくことが重要である。例えば両国は人権のような価値観を共有しているが、インド-太平洋にこのような価値観を組み込んでいくという点については異なっており、イギリスの人権侵害に対する制裁発動は、日本の外交政策とは合致しないことから、適切な調整が必要になる。また相互に長期的な国益に資する、協調するべき国々及び地域を明確にし、技術、サイバー、宇宙などを含む国際法、ルール、規範が十分に整備されていない領域で協調するべきである。最後に、両国はインド-太平洋における協力の幅を他の同志国へも広げるべきであり、特に海洋安全保障及びサイバー能力構築の領域に非常に積極的な国々とするべきである。

2.本記事についての感想
 イギリスは3月末に「競争時代におけるグローバルな英国 安全保障・防衛・発展・外交政策の統一的再検証」(Global Britain in a competitive age The Integrated Review of Security, Defence, Development and Foreign Policy)という新たな戦略書を発表しており、その中で「インド-太平洋への傾斜」を宣言し、インド太平洋地域への注力を戦略の柱として設定した。このことが、艦隊派遣やクアッドへの関わり、AUKUSの創設などとして具体化されている。この地域における最大のパートナー国が日本であり、本報告書からは日英の連携を重視していることが良く見て取れる。このような報告書が国民に公表され、日英の連携が言葉だけではなく行動を伴ったことが伝わっていくことが、同盟などへの更なる深い関係への礎になるだろう。
 今回の会議は2021年9月6日に実施されたものであるが、日本の外務省HPにも防衛省HPにもまだ掲載されていない。英語のページでかろうじて情報があったが、過去の2+2の会議などの情報を見ると、中国に気を遣っているのか安全保障協定の話は日本語ページには出していない。なんとも情けない話であるが、これが日本の現状であり、親中派の力がいまだ健在であることがわかる。従って、正しい情報を把握するには両国の発表資料を確認することが重要だということである。
 この報告書を見るとイギリスは日本の課題や問題点を的確に理解していることがわかり、日本側も誠実に議論しているように見える。こういった会議などの積み重ねが強い信頼関係を構築することになるのであり、日英の連携の深化が見て取れる点は良かったと思う。今後もこのような取り組みを継続して欲しいと思う。

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