EUの中国政策について(RUSIの記事)
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英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2021年7月6日に、EUの対中政策に関する記事を発表した。内容としては、EUの対中政策の曖昧さとその背景について論じたものである。今後のアジアにおける安全保障にも影響してくると思われることから、本記事の概要についてご紹介させていただく。
↓リンク先(Technocratic Mitigation – The European Way of Managing the China Challenge)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/technocratic-mitigation-european-way-managing-china-challenge
1.RUSIの記事について
・ヨーロッパの対中政策は揺れ動いている。今年3月に対中制裁を課し、5月に包括投資協定の批准に関する政治的議論を凍結するなどの対応を行ったが、ドイツとフランスが段階的緩和に動き出した。また、G7、NATO、米欧サミットなどで基本的には強い対中政策に合意したものの、EU各国は中国に関する文言を弱めるよう働きかけていたと言われている。
この手の曖昧な政治姿勢の根拠には、2019年のEU-中国戦略展望がある。この中において、中国を「協力できるパートナー、経済的競争相手、システム的ライバル」と定義しているが、複雑な緊張関係の取り扱いについての戦略的な指針は示されていない。
・ヨーロッパの対中政策は、以下の3つの要素により形成されることになる。第一は、EUの組織設計である。EU本部が制御可能な経済、技術領域においては統一的かつ効果的に対応しているが、政治的側面においては加盟各国が満場一致で決定しなくてはならないことから、限定的な対応となる。第二は、EU共通の国益及び価値観である。中国市場はヨーロッパ企業にとって非常に魅力的であり、中国のEU商工会議所加入企業の60%が中国市場のビジネスを拡大しようとしているが、中国の戦狼外交によりEU側も対抗を余儀なくされており、新疆ウイグルでの人権侵害に対する制裁を課している。第三は、EUの戦略的自立性と過度な海外依存との調整である。アメリカに同調する姿勢を見せつつも、中国を完全に排除することはしないよううまく立ち回っているのである。
・EUは、対中政策で実務家的なアプローチを取っている。例えば、5Gの導入に関しては、リスクを軽減する枠組みを提供しているものの、中国のプロバイダーを特定して排除してはいない。また厳しい対中声明には消極的でありつつも、貿易技術諮問委員会を設立し、中国企業の脅威に対抗しようとし、クアッドの防衛支援も行っている。
・しかしこのようなEUのアプローチの継続性に、疑問が投げかけられている。中国の反制裁法の施行に見られるように、対中制裁に従う企業に対して中国政府が報復制裁を可能とするようにしている。EU内部の事情として、欧州委員会や欧州議会が対中戦略を見直しており、近く予定されているドイツやフランスの選挙において対中政策が争点となることが考えられるなど、確実に対中政策の変更を迫る政治的圧力が高まっている。ただ3つの要素や構成国の内部事情などにより、EUのアプローチは微修正にとどまり、再設計にまでは至らないだろう。
2.本記事についての感想
本記事はどこかイギリス流の皮肉のように思えた。ヨーロッパはやはり信頼することができないと感じざるを得ない。曖昧戦略というのは一見賢明なように見えるが、中国にはそれは通用しない。中国は曖昧さを「弱さ」と誤解してしまう致命的な認識的欠陥を抱えており、EUの融和的な発言は中国の強気な態度を引き起こしてしまうだけである。
本記事を表面的に読む限り、EUのこういった動きはヨーロッパの知恵であるかのように語っているが、実際にはかなり見下しているようだ。(イギリス人は自国をヨーロッパに含めておらず、ヨーロッパの政策を突き放して見ているのだろう。)最も、最近のイギリスの中国政策は、EU離脱による欧州での影響力低下の失地回復といった側面があることにも注意が必要である。つまり、アジア外交をテコにして、欧州で優位性を確立しようとしているということだ。
日本は最近TPPやクアッドへのイギリスのコミットを歓迎しているが、その動機もしっかり見定めておかなくてはならない。表面的に何も知らないふりをして友好ムードを作り出しておき、イギリスの顔を立てておきつつ、経済では譲らないといった立ち回りが必要だろう。また、表向きの友好ムードを喧伝することで、他のヨーロッパ諸国も追随せざるを得ない雰囲気が出てくるだろう。EUは曖昧戦略で二枚舌外交を展開しているのであり、無私の心で奉仕する必要などない。日本は中国の脅威を抑制しつつ、経済的に最も利益を得られるよう、巧妙にこの状況を利用するべきだろう。
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