かーやんの「歌謡曲って何だ?」第15回「昭和歌謡界の巨人・阿久悠」
今まで散々せこちんとか松本隆なんかを語ってきましたんでね、そうなるとこの人の事も語らねばなるまい。
で、今回は かーやんオススメの阿久悠詞作曲を3曲ご紹介。
まずは阿久悠の代表作とも言えるピンク・レディーから1曲。
タイトルは1949年の大映映画『透明人間現わる』からの引用(透明人間の特撮は円谷英二によるもの)。
この曲のパンチラインといえば やはりこの
透明人間 あらわる あらわる
透明人間 あらわる あらわる
嘘をいっては困ります
あらわれないのが透明人間です
だろう。
見えないのが透明人間なのに何が現わるだよという見事なツッコミが曲のオチになっているという、まさに阿久が都倉俊一と共に日本の歌謡界を完全におもちゃ箱にしていた良き時代の1曲かと。
まるで1本の映画を観させれているかのようなストーリー性のある歌というのは何も阿久悠だけのものではないが(『喝采』『圭子の夢は夜ひらく』等)、70年代にもまだこのような女の情念ものと言えるような曲は健在していた。
ちなみに本シングル盤では割愛されているが、実は『ざんげ〜』には別の4番の歌詞が存在する。
あれは何月風の夜
とうに二十歳も過ぎた頃
鉄の格子の空を見て
月の姿がさみしくて
愛というのじゃないけれど
私は誰かがほしかった
ナイフを手にし憎い男を待った描写の後に出てくる刑務所と思わしき場所での件がそれだ。
しかしこうした「艶歌」の世界観は80年代には淘汰され、やがて阿久悠にも不遇の時代がおとずれる。
前述のそんな阿久悠 冬の時代にリリースされたのが この『時代おくれ』だ。
同じく阿久悠による八代亜紀の『舟唄』の世界観とも重なるのだが、阿久のダンディズム感が今の時代(80年代)とはズレているという事を「時代おくれの男になりたい」と半ば自虐的に描いた良作。そしてそれは日本のバブル景気の終焉も暗示していた。
故人という事もあるが、いまだ現役の松本隆や秋元康などと比較すると やはり「時代と寝た」感が強い阿久悠。だが明らかに昭和歌謡界の一時代を築き牽引した偉大なる巨人である事に間違いはない。
そして近年では 新しい学校のリーダーズにより阿久悠の未発表詞作がアルバムに収録される等、再評価も高まっている。
そう思うと、阿久悠は決して ただ単に時代と寝た訳ではない。
時代が阿久悠を求め、コールドスリープまで果たしたのだ。