生命の水
久しぶりにひとりで飲む、という時間をつくった。
アイリッシュウイスキーの小旅行、というほどでもないが、期間限定のブッシュミルズのポップアップバーに。
ここは12月上旬、遠方からの友人との会合の帰り道、ふたりで見つけた。
知らなかった。
すっかりアイルランドアンテナが鈍っている。
アイリッシュパブからも足が遠のいているので、アイリッシュウイスキーを飲む機会も格段に減ってしまった。
ウイスキー(Uisce Beatha)=生命の水、なのに。
家にはそれなりにストックはあるけれど、分かち合って飲む相手がそうそういない。
生活圏や時間の使い方も変わっているのだ。
これに関してはコロナ禍を経たことはあまり関係ないかもしれない。単にここ数年が、仕事に軸が置かれていて――なんとなく張りつめて過ごし、家に帰れば一気に弛緩する日々が続いた。気楽に遠出して飲む機会を持つ気持ちにそうそうなれなかったのだ。
それでもごくたまに、昼にひとりでふらっと立ち寄ってみたり(まさにlong time no see!と言われる感じで)したこともあったのだが、今年はないまま終わりそうだ。
そんな折に知りえた情報。
アイリッシュパブではないが、行くしかない――と友人に使命を与えられた。彼女はその日また地元に戻ってしまうので、時間がなかった。
そう、平日昼間には開いていなかったので――。
この期間限定の店に立ち寄ることが年内のタスクになった。
しかも22日までという。
なんとかすべりこみで最終日前日に行ってみることに。
ボトルデザインが一新されてから購入もしていなかったので、かなりのご無沙汰感が半端ない。
もはやアイリッシュウイスキー好きなんて威張って言えないくらいの、ご無沙汰ぶり。
でも、勇気をふるっていざ!
14時半頃着いたところ、結構満席。
土曜日だから、しかたないか。
ひとりならすぐにご案内できますと言われ、ちょっとだけ入り口で待ってスタッフに様子を聞く。
地下1階は少し落ち着いた雰囲気のバースタイル。
1階は気楽なスタンディングバー。
若干のメニューの違いはあるようだけれど――地下1階に通していただけるようお願いした。
案内される前に、1階の壁に4種の香りを試せるコーナーが。
30年もののカスクもおかれていて、こちらもかがせていただくことができる。
やっぱり好きな香りは16年なんだよね。
いちばん豊かに感じる。
10年の明るく開いた感じも好き。
12年は微妙にカスクの香りが変わってくる。
16年の厚みのある香りは、格別なのだ。アルコール感とカスク感をたっぷり吸い込んだ麦の雰囲気。
21年は案外シンプルな感じがするのは、単純に鼻がもう麻痺しているのかも。
――とは感じたが、もともと、そんなに繊細に利き分けできるわけではないので、ツウな皆様、ご放念ください。
地下1階ではカウンターの角席を案内される。
わたしが入ったときのカウンター両脇席は、右側はカップル、左側は3人の男性グループだった。
一瞬注目を浴びてしまったのは、たぶんひとりだったからだね……。
ま・なんでもいいや。
まずは4種の飲み比べセット。
10年、12年、16年、21年。
ああ、久しぶりだねえ。外でウイスキーのストレートを飲むこと自体が。
お通しでポップコーン。
バーテンダーさんにお話を聞くと、なんでも30人くらい集められていてシフトで担当されているとか。
しかもお客のほうも時間制。
飲み比べセットのあとは、めったに飲まないウイスキーカクテルを頼んでみることにした。
バーテンダーさんに聞いて、スッキリ系のオススメ、TOKYO SENPAIというのをチェイサー代わりにいただくことにした。
メインはこちら。
BLACK BUSHも飲めるというので、ひさしぶりに。
軽くつまめるものを、ということでアイルランド風ポテサラを。
しばらくしてカップルが退店時間を迎えた。
そのあとすぐに男性一人客が二人席に着く。
隣の3人グループも退店。そのあとまた2人組と1人の男性がやってくる。
ソファ席には家族なのか、少し年配の男性とその息子?娘?夫妻なのかの3人組。
ひっきりなしなんだな。
ここで入店時にいたバーテンダーさんたち2人がシフトチェンジ。
代わって女性のバーテンダーが2名となった。
のんびり飲み、最後は16年にしようかなと思っていた時に、お隣の方のミスオーダー(10年を頼んだのに12年が注がれてしまっていた)を目撃。無駄になるのかならないのかわからなかったけれど、余計なお世話でその注文を引き受けさせていただいた。
これはロングアイルランドアイスティーカクテルをチェイサーにする。
ちょうどラストオーダーの時間になったので、16年でフィニッシュとする。
そう。
生命の水の補給、終わり。
あらためて蒸留所の試飲バーみたいだったな、と懐かしさを覚えつつ夕方の銀座をぶらぶら歩いて、駅に向かった。