表参道の真ん中で、何かを探していた
仕事の用事で、表参道に行くことがあった。遅れるのが嫌なので早めに目的地の場所を確認してから、時間をつぶすためにぶらぶらと表参道の通りを歩く。太陽の沈むのが早くなって久しいが、すでに夜の雰囲気のする街に1人でいるのは何となく孤独感がある。昼まで一緒に居た太陽にひとりぼっちでおいて行かれたような気がして、少し怖い。私は蛾のように(その日は黒いフェザーの上着を着ていたので、さらに虫っぽい)きらきらとした東急プラザに呼び寄せられ、エスカレーターに飛び乗った。
特に見たいものがあるわけでもなかったので、冷やかしのようにフロアを一周してから化粧室でメイクチェックをする。時計を見るとそろそろ集合場所に行っても良い頃合いだったので腐りかけの果物のような甘ったるい匂いが充満した2階を後にする。ああいった匂いは肺のなかに生クリームやらチョコレートやらを敷き詰められるような感覚があるのであまり好きではない。カスタードもピーナッツバターも、キャラメルのヌガーも大好物だが、私の口にとっての好物なのであって、鼻腔と肺には天敵である。
そうこうしているうちに、エスカレーターが終点を告げ、私はあの大きな交差点の前に立つ。ひとごみをかき分けながら私の元に来た冷たい空気が先ほど香水に痛めつけられた鼻を癒してくれる。
赤信号が青に変わり、人々が動き出した。私はその流れに乗って向こう岸を目指す。体感にして5秒も立たないくらい、ビールの一口目も喉を通らない内にもう到着してしまった。
表参道の横断歩道ってこんなにも短かかっったけ。イメージ的にはもう少し長く、丁度プラザのエスカレーターくらいの長さの横断歩道だったはずなのだが。今日渡った横断歩道をもう一度凝視してみる。やっぱり短い。
振り返ってみると、この横断歩道を渡るのは、夏の時期と昼間が多い。代々木公園に向かうときに使う道なのと、この街には昼にしか基本的に行かないから。
そう、夜に表参道に降り立ったのは、今回がはじめてだったのだ。今まではうだるような暑さと騒がしい人間に邪魔されてあんなに長く感じていた横断歩道も、きちんと白と黒の線が見えるとあっという間にゴールは簡潔に、純粋な距離だけが現れる。
なんて気持ちがよい発見だろう!私は今、この嫌になるくらい密集している東京の街で、一人ぼっちで、虫のように小さい生き物だが、羽を広げて前に向かうことができるのだ!距離さえ、目的地さえわかっていればこんなにも道のりは澄んでいる。
この大きく、煙すらも腐った東京の真ん中で!
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