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ステラ 黒い捜査ファイル(原題: Stella Blómkvist)シーズン1の感想文

Stella Blómkvist小説シリーズをドラマ化した2017年の作品、ファーストシーズンが日本語字幕配信ありがとうを込めて!

舞台はアイスランド、恐らくは金融危機から再生する選択肢がパラレルワールドのアイスランド。
主人公ステラは犯罪者ばかり弁護する「怪物」扱い。アイスランド闇社会のコンサルタントみたいに闇社会(隠れてない闇社会なのは興味深い)様々な人々と関わり、報酬次第ではクズの弁護も行うという一見正義と程遠い様に見えて誰に対しても公平な弁護士。
いちいち皆さんに「ここ禁煙なんだ」「だから?」とタバコをふかし、飲み物は酒ばかり、その場の快楽をその場ごとに楽しみ、弁護士って何だっけ?斜に構えているようでユーモアがあり、公平な故に誰に対しても容赦なく、機転と機微の人で自身の知識だけで戦い、楽しい仲間のいるとても魅力的な主人公だ。
(原作一人称小説と同じ一人称語り演出が入るので、ステラ自身のコメントは皮肉とユーモアと辛辣だったりするけど)
ステラが挑むアイスランドは、アイスランド・クローナを廃止して米ドルを導入し、グリムセイ島を含む北部土地権利を売って利益を得ようとする腐敗した政府というプロット。

(主人公ステラのキャラクター性以外は原作小説とだいぶ違う印象があるので、前に借りて読んだだけの原作小説を改めて購入して肝心の本がまだ輸送中……!)

正直に言う。中国に政府絡みで土地権利を売るという第一話開始3分で観るの止めようかと辟易した。
2017年の作品で中国政府のイメージが古すぎ、ヘイターみたいでいやすぎる。
おまけにパフィンの天国(?)崖だらけ浅瀬なグリムセイ島の軍基地化のプロットが謎すぎる(ドラマ序盤に航路が示されるが、見事にNATO諸国やロシアも嫌がりそうなルートで、水先案内人もいないからアイスランドとUKスコットランド・シェットランド諸島との近さ偶に思い出してください……)
気候も含めてアイスランドの寒さは強風、吹きすさぶ風と変わりすぎるジェットコースターみたいなお天気模様は一年通して甘く見てはならないという個人的な印象。ロピーセーターや66°North(66ノース)等のアウトドアブランドが有名になるのも分かる、レイキャヴィク郊外に出たステラすら若干ブルブル震えている。
アイスランドの脅威として描くのに、残念な当局と癒着アホ役人によるワンマン権力に逆らえないアホ命令しちゃった割に合わない仕事と木っ端役人の感じがしてしまう……。

しかし、意外にもこのありえない設定が終盤2話に活きてくるんである。
アイスランドで香港ノワール映画観ている不思議な事になってゆく。

ファーストシーズンに登場するアイスランド・中国政府ふくめ男性キャラクターがビックリするほどアホしか出てこない。
警察もビミョーに腐敗していて、買収か賄賂をもらっているらしきパトロール巡査たちなど見ていて心胆寒からしめる手合いで、法律など存在しないかの様に暴力を躊躇わず振るう。
学生に手を出してはメールで「ハァイ、ハニーちゃん」のド変態の烙印を周知としてステラ学生時代におされるキモすぎる大学講師とか何故か裁かれずにずっと地位が安定している。
次に出てくるのはどんなタイプのアホかな?と頭を抱えたくなるくらいアホで犯罪者の見本市だ。(被害者も居るが同時に加害者でもある)
ステラに弁護依頼をしてくるスットコ刑事ラッギとその御家族以外は何であれもう敵と言ってもいい。

数々の北欧司法サスペンス、アイスランド映画「湿地  Mýrin」を含めたシリーズ小説のエーレンデュル刑事が向き合う事件と全く異なるのは、
ステラは女性という点でに自身も凄惨な犯罪被害に遭う点。
腐敗した警察に殺されかけるし、闇社会の大物の方が話が出来るだけマシな位には事件被害者達と同じ壮絶な目に遭う。もう毎話トラウマレベルの暴力を受けるので暴力表現がトリガーになる方は視聴を控えた方がいい……(UK配信系だとアマプラみたいな暴力・飲酒警告出てますが、Hulu日本は全体的に警告などが仕様で殆ど出ませんでしたね……)
女性キャラクター全員なんらかの被害者でもある。
断片的に描かれる生い立ちは多分原作小説にありそうなので読んでからになるが、子供の頃にも事件被害者だった。
エーレンデュル刑事がヤカラをちぎっては投げる(?)様に、ステラも「えっ?弁護士?スパイか何かでは?」と思うほど機微を読み取り暴力の応酬をするけれど……(人によってはビックリするほど弁護士って何だっけ?という行動に出るのはステラの魅力)

ついつい恋愛面に目が行きがちだが、ファーストシーズンは全体を通して内務大臣ダービョルトの政敵お掃除をステラが無自覚なまま利用され引き受けてしまった話。
が、恐らくはステラをそのままお掃除する筈のダービョルトも計算外に関係し知る事でステラを選んで信条を貫く話だった。
(内務省ってそんなふらっと入れるんかアイスランド!?という一面も)

ステラはその場限りの快楽も楽しみ、行動に弁護士の信条とか正義感とかとは程遠い自由人。知識と実行力も備わったファイターで、弁護士としてスットコ刑事ラッギより法律の知識があり、弁護人として頼もしすぎる弁護士。
しかし弁護士の正義感や一般的な常識を踏み越える自由人故に容赦無いし、本人の想定を超えて結構な「仁義」の人だからこそかつての顧客がしょっちゅう力を貸すのも分かる気がする。
まあ金額次第では……とか言う態度だが、賄賂は受けない。どうしてそんなアホなんですかの首相が渡した相談料は文書交わしてるから賄賂じゃない、クリーンだ、しかし即座にクルマ買って金残さない賢さは流石に弁護士か?
犯罪者を弁護しても、集団レイプをそれと自覚せず「楽しんだでしょ、あの子も」と吐く最悪の悪童や「法律で裁くべきもの」に対しては許さない。弁護して刑を軽くするより、キッチリ裁かれないとアカンやつの弁護から降りる。
物証がない事件を見事に推理するが、肝心の刑事がスットコ&現場封鎖がテープだけとか物証の信頼性も疑わしいぞ!とか追求するアメリカ・UK法廷ドラマ見過ぎな余計な事を考えてしまう……法廷面において信頼があり疑問がないのか、ステラにはどう見えているかはあまり描かれない。
正義感強い弁護士一般(?)には好かれないだろうし、弁護士としてのキャリアにも無頓着そうで本当に自由に暮らしたい人なのかもしれない。アウトローな行動やハッキリした物言いは折衝を避ける大人なり同世代と上手くやれなさそうでラッギみたいな年上スットコ男子(オッサン)やアウトローさをキャラとして受け入れられるオタク勢とつるむ方が楽そう、でも気にしない。
その場の楽しみを追求して長期プランを建てにくいのは悪夢に毎日うなされ叫ぶ日々を生き延びるサバイバーらしくて目まぐるしく変化する命の危機に立ち回るのが上手すぎ、幼少期を鑑みても見ていてとてもつらい。(アイスランドの大地で高そうなピンヒール履いてるのは凄いし、ピンヒールのまさかの活用も描かれる)

そんなステラの仲間は大家のグンナだ。大家というよりは友人か仲間と言っていい存在で、ITエンジニアらしいが何らかの信条があるのか大手企業を断り、多分フリーランスなのだろう(大家が友人というのは、横繋がりがめっちゃ多いアイスランドらしいな)

グンナはステラに「引きこもりっぽいガラクタ買ってる猫オタク」と辛辣な人物紹介されるんだが、物多すぎ・ジャンル広すぎオタクそのもので他人事じゃない!
ステラの自宅はミニマリスト寄りなのに対し、グンナの自宅は猫グッズ・俺ちゃんもいるジャンル広すぎオタクにありがちな飾ってるフィギュアバラッバラなごちゃごちゃインテリア。
ステラからの「今から青いバッグとGPS追跡装置用意して」と無茶振りな要望にも、物多すぎオタクなら使ってないが捨てられないバッグに使ってない捨てられない古いiPhone端末、確かにポンと用意出来そう。
なんだこのジャンル広すぎ&グッズ買い過ぎオタクの解像度高いキャラクターは?
猫大好きなグンナに招き猫発祥の地(?)のあのお寺を紹介したいし、招き猫贈りたい、グンナ、discordフレンドなってください!?(ゲーマーの描写もあり、ステラが容赦なくモップで天井ドンドンうるさいぞしている)

ステラと組む以上グンナも筆舌に尽くし難い暴力に遭うのだが、悪夢に悩まされるステラと違い特に描写はない。
FPSマルチとかシングルキャンペーン縛りプレイとかゲーム実況動画とかdiscordボイチャして発散出来てるのだろうか?着ている服がパジャマ多かったり、いやあ他人事じゃない、discordフレンドなって下さい……。

ステラといっときの情を交わす、内務大臣ダービョルト。(セカンドシーズン配信下さい)
現実や現在のアイスランド政府だったら劇中みたいな事せずに、首相でも大統領でもなれてそうな悲しい政治家だ。
ダービョルトは最初から一貫して「アイスランド国益の為」がブレない人で、ステラと知り合う当初も利害の一致を見せながら利用するカードの1つとして見てなかったと思われる。なぜならダービョルトも命が掛かった存在を賭けていたから。
ところが計算が狂った。お掃除する筈の闇社会に近すぎるステラは「一般的な正義」が通じないし、同じくダービョルトを利用する。
おまけに壁ドンからの(嘘だろ)ステラの強引なお誘いに乗ったと見せて、する気もない不倫に火のように止められない何かに惹かれる。弁護士として真っ当である事や、社会問題からこぼれた人々を見捨てない(利用し合ってるけど)無自覚なポリシーも政治家として抗えない程に多分魅力的過ぎた。
(非常にどうでもいい事だがダービョルトというお名前が拙作キャラクターと同じだったからこのドラマ観た、しかし名前被るのはアイスランドだと仕方なかったり?)

ダービョルトはそんな止められない山火事の様に広がる私人の感情と、公人としての振る舞いを別々にしてしまえる程度には歳上で、老獪でもある。
ステラにとっては年上の、しかもヘテロ既婚者との不倫。いやーな予感しかしない。第2シーズン下さい。
言葉の上で「助ける」というのだが、トイレの壁ドン以外は尺の都合か明確に見える形でダービョルトがステラの助けになる事は無かった。少なくとも、ステラが望むものではなく老獪なしかし政治家として正し過ぎる故に分かり合えず別れる形でファーストシーズンは終わってしまう。

2人を別つ理由こそ一番最初に辟易してしまった架空中国政府の架空グリムセイ島含む土地権利取引の話が、ダービョルトの存在によって「レイキャヴィクの香港ノワール」みたいな話にエスカレートしていったから。

前述の通り政府と警察の男性キャラクターはアホしかいない。
ドラマに出てくる黒幕のグォ・ダイは「本国に置いとくとヤバいけど一族が権力者で処分する理由なくて困るし、とりあえずアイスランドに飛ばそうぜ」の感じがしてならない。
グォ・ダイは往年の香港ノワールで描かれるマフィアより小物どころか杜撰な人物だ。親一族が権力者とかで処分出来ず、一族的にもむしろコイツがアイスランドで暴力事件起こしてアイスランドが処罰するのを期待したんでは?(これは私の空想)

アイスランド通貨を米ドルにしたのなら尚更ベッタリしないといかんのはアメリカだ、しかもアメリカベッタリいい事しかない。振り向いて貰えないかもしれないが。そこら辺の政府のアホさもダービョルトがどうしてもお掃除したい理由と推測遊びが捗る。何か二次創作描きたくなる部分だ、それはおいといて。

話が逸れた。この黒幕グォ・ダイは本当に杜撰で残虐さしかない。何の同情もない。グンナの調べからやっぱり不祥事(ぎゃくさつ)しているが、消されてない!
フィクションにおける政府関係者本人が手を汚すのはアホの極みだ。アホの極みだから有能なお掃除屋さんなど雇えない。
手下のシー・フェンは更にお粗末だが非情な上、やはりキャラクターが薄っぺらいのが悲しいところ。どちらも裏社会の存在として証拠残し過ぎな素人すぎる。コイツらUKかJPN・メリカなら架空華人街フィクションマフィアに開幕処分されそう、やはり暴力で解決しようとするのはろくな結果にならない。
しかしアイスランドくらい諜報組織を持ってない&武器所持しない国には最悪の存在になりうる。やりたい放題である。
彼らが主に暴力を振るうのは土地権利取引で華人街の中の人々、そして内務大臣ダービョルトを含めた政権の女性たちだ。

黒幕のグォ・ダイにはアイスランドをどうにかしたい野心もなく、本当にただ暴力を振るう存在だ(……飛ばされたんで帰りたいんだろうな!?)
ステラにとっては政権転覆になりうるスキャンダル、首相と関係者たちの変態パーティー映像(描写がないがグォ・ダイもいたのでは?)を手にしたが、「アイスランドだから何も出来ないだろう」と思っていた事が命を狙われ香港ノワール映画の様な(敵は杜撰な暴力者だけど)世界が変わってしまう。
いきなり自宅に現れ、グンナに危害を加え、ご本人自らパーティー映像を寄越せと脅迫するグォ・ダイに対してダービョルトも勿論予測していなかった。
私が893映画と香港ノワール映画見過ぎでアウトローな世界ゲームやり過ぎオタクの東アジア出身だからなのか、最初にステラが取引しに行った時点でこれは予測していた。事がエスカレートする前にステラ自ら接触した事でグォ・ダイにはこっそり暗殺するカード使えなくなったな?とか思ってしまった……。
だいたいのフィクション裏社会は、何となく自ら接触する奴を警戒しながら一目置いたり、アウトローを気にしない法律家だっけ?「使える」ステラに対しては場合によって情報を流してくれる存在になるはずなのだが、グォ・ダイには頭痛がする程にそんな知性すらない。

しかしステラ自身の世界は変わらない。組織には逆らわないが個人単位では話が違うし架空アイスランド警察すら臨機応変に対応の刑事ラッギ(これも何となくアイスランドっぽい)、ステラまさかそんな酒瓶で放火して撒くとかスパイの様で追い詰められているのに視聴者わたし側には痛快な程各話で魅せる機転と同じく戦う。

結果的にはグォ・ダイは自分が残虐を働いた相手によって、どこかの無間道らしく「因果応報」を受けて死ぬ。しかしやっぱりコイツどう考えても権力者一族の何かでは?架空中国政府側はグォ・ダイ死亡後も陰惨な応酬をダービョルトに支払わせるんである。

終始一貫してアホ政府から取り返したい政治家ダービョルトと、人道上の罪はやはり許さないステラとではファーストシーズンは分かり合えない。
愚かな政権とアイスランド国益を取り返したい政治家ダービョルトと、一人一人の事情にケースワークの様に調べ上げ、被害者と同じ目線でそして同じ陰惨な暴力にさらされるステラとでは戦う土壌も違う。
2人のやり取りは常に取引が付きまとい、いわゆる魅力的な歳上との不倫ものでもあるので、苦手な私はロマンスものとしては何も楽しめなかった。が、通してみると色々とキャラクターそれぞれの背景など二次創作に手を出しそうなくらい気になる。
勿論お話として楽しいし、「Borderlands(※ゲーム)」とかゲーマー発言するグンナの方がキャラクターとしてもステラの仲間としての活躍も楽しい。
私はステラでアイスランド語を学びましたと言いたいくらい学習教材にもしている、凄く口は悪いけど……Og?(だから?)みたいに!

いわゆる「巨悪と戦う弁護士」なのに正義の人ではないし、捜査というよりステラ自身の知識と機微による情報収集だがそれが楽しい!
アイスランドの交通事情、メイン交通がバスのみなので自家用車(体力ある人なら自転車)ないと身動き取りづらいとかもチラリと見られる。パラレルワールドだけど、アイスランド人の組織はおいといての横繋がりと文化(ステラには縁故主義と辛辣に言われる)のある側面を一人称で共に観られる。
ステラは今までの「北欧サスペンス」や「アイスランド小説サスペンス」のキャラクターではない。
北欧サスペンスにおける被害者(閉鎖的社会における女性への暴力)になるが故に被害者の目線に立てる弁護士、
命を狙う奴は等しく命を奪う覚悟あるんだろうなとばかりに暴力だって辞なさいしタダでは済まさない「ステラ・ブロウンクヴィスト」という唯一無二で弁護士や正義感の旧来の意識ごと痛快にぶっ壊してくれる。
(何度も言うが暴力・飲酒表現がトリガーになる方は本当にご注意下さい)

既に2021年に製作・放送の第2シーズン配信や、第3シーズンを期待したいところ。
主演のステラ役ハイダ・リード氏はBBCドラマシリーズPoldark(歴史ドラマでやはり小説のドラマ化)、BBC Radio 4Extraのラジオドラマにチラチラ「聞いた事あるぞ!?」の役者さんだが、どうも今はアメリカ拠点らしいから難しいかなあ……。
ファンレターどこに出せばいいんだ!?(グンナみたいな凄腕でもITエンジニアじゃあないが、なんの為のオタクですか調べよう!)


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