10代のママたち
「ニュージーランドの保育所を見学できますか」
数か月後にスタディツアーでオークランドに来ることになっている大学生から、ニュージーランドの福祉制度に関心があるので、ぜひ見てみたいとリクエストが入った。
その学生さんがネットで見つけたのは、私もかねがね募金をしている子育て支援機関で、直営の保育所が地理的にも最適な場所にあった。早速、見学の可能性を打診してみると、突然の依頼にもかかわらず、日本人学生2名と通訳者の訪問を快く承諾してくれた。
施設に着き、挨拶するやいなや「Teen Mums(10代のママたち)の方から見学しますか」と聞かれた。
「10代のママたち?」
通訳の私も一瞬戸惑い、返事ができずにいると、保育所に隣接した建物の方を指しながら「今なら、赤ちゃんにも会えますよ」
ガラスの扉を開けると、若いお母さんがソファで授乳中。奥のキッチンでは、女の子たちが楽しそうに雑談している。
「彼女たちは、みんな10代ののママなんですよ」
それを訳すと、日本人の女子学生たちは「えっ、それってどういうことなんですか。この人たち、みんなお母さん??」
「そうなんです。ここでは高校生のママたちが、子どもを看ながら、勉強しているんですよ」
隣の保育所に子どもを預け、母親自身はこの「学習センター」で勉強する。訪問した日は、英語の先生のもとで、通信教育の教材を進めている最中だった。
この学習センターは国立で、公立高校に隣接して設置されている。非営利団体の保育所と連携することで、すぐ横で子どもの世話をしてもらいながら、各自のペースで通信教育を進めていく。かつ、体育や写真などの、通信教育ではできない科目は、実際に高校の授業に出席できる。
「彼女たちはみんなシングルマザーなんですか」
「シングルが多いけど、子どものお父さんとのつき合いが続いてる人たちもいますよ」
10代の妊娠はニュージーランドでも深刻な問題で、多くの場合は中絶を強いられる状況にあるが、2000年代以降、産んで育てることを選択する女子を支援するための制度が発足したと言う。
でも、だからといって、この国の人たちが高校生の妊婦や母親に好意的かというと、やはり偏見や決めつけは根強く、この制度への理解を得られるようになるまでに数年以上かかったとのことだった。
隣の保育所では、10代のママの子どもたちと高校の先生の子どもたちが、一緒に遊んでいる。
「彼女たちが、親や国に頼らずに、自分の子どもを養っていけるように
そのための資格がとれるような教育をすることが、重要だと思っています」
こういう状況に陥った生徒を罰したり、差別したり、隔離したりするのではなく、自立して生きていけるという自信をつけさせる教育。本当の意味での、エンパワリングな(empowering)教育だ。
「高校生の妊娠は恥」「中絶以外に選択肢はない」「たとえ産めたとしても、家族に頼るしかない」「子育てと勉強の両立は不可能」
こういったそれまでの「常識」をくつがえす制度が発足し、高校生のママたちが授乳し、オムツを変え、子どもを遊ばせながら、安心して勉強に励むことができるという新しい現実が生まれた。
最後に、大学生が恐る恐る「一緒に写真を撮ってもいいですか」と聞くと、ママたちは「もちろん!」と明るくポーズをしてくれた。
いろんな試練を乗り越えながらも、子どもと共にたくましく生き抜いていくママたち。
私もいっぱい力をもらいました。
〈下の写真は私たちが訪問した施設ではなく、別の施設のママと子どもたちと先生です)