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『なんもできない』は、「ああいうのを書いたほうがいいよ」と言われる私の、こういう話

ただいま6月20日まで、くによし組は5月に上演した「なんもできない」と「チキン南蛮の夜」を配信しております。

https://teket.jp/6857/23167


どちらを見ようか悩んでいる方、そもそも見るつもりのない方が、少しでも配信チケット購入ボタンへの距離が縮むよう、noteを書いております。
(包み隠さずいうと、あと100名くらいに配信チケットを買ってもらえたら、公演でかかったお金の支払いに届きます!ぜひ前向きにご検討ください!)


私の作品は、
と書き出すのもおこがましいし恥ずかしいが、あえて「私の作品は」で始めるとすると、
私の作品は、大きく2種類にわけられる。

「わかりやすい作品」と「わかりにくい作品」だ。

くによし組の公演をいくつかご覧になったことがある方にしかわからないのだが、大体は劇団結成初期から2017年頃までの作品は、わかりやすさを目指して作品を作っていた。

「アキラ君は老け顔」(優秀新人戯曲集2016に載ってます)
「サバンナモンキーの憂鬱」(観劇三昧に台本が売ってるよ)
「隣の隣人」「路上芝居」「朗読劇」(せんだい短編戯曲集に載ってるよ)

などがそう。
けれど年齢を重ねると、考えること、躓くことが複雑になっていって、何が正解かどんどんわからなくなっていった。

大人になれば全てわかっていくと思ってたのに、生きれば生きるほどわからないことが増えていくなんて、誰も教えてくれなかった。


日々を追うごとに、わからないも不安も不信も増えていって、
「今の私は、私の思う私だろうか」
「てか、今のこれは、本当に私だろうか」
「みんなの思う私になれてるだろうか」

というようなことばかり考えるようになった。

そんな頃から、作りたいものが変わっていった。
「ここがおかしい」と断定したテーマで書いてきたものが、
「これって何が正しいのだろうか」というのがテーマの多くになってしまった。

しまった、と書くのは、マイナスな部分もきっと多いのだろうなと思うからだ。

「こういうのって、おかしいよね」というメッセージや、「こんな人が少し前を向く話が書きたい」という気持ちで書いてた過去の作品で私の作品を好きになってくれた方には、この私の作りたいものの変化は受け入れ難いものだと思う。

劇団を作ってから2、3年目に「ケレン・ヘラー」という作品や、「ベチャロンドン」という作品を発表したときには、いつも見に来てくれるお客様数名から、
「こういうのは作らないほうがいいよ」
「『アキラ君は老け顔』みたいな作品を作ったほうがいいよ」と言われた。

私はわからなくなってしまった。
作りたい作品はたくさんあるが、それを拒否する人もいる。
私は誰のために作品を作ればいいのだろう、とぐるぐるした。
「わからない」と「前の作品の方がよかった」という感想が怖くて怖くて仕方なかった。

そこで誰でもわかる作品を目指して作ったのが「チキン南蛮の夜」だった。
でも作ったら作ったで、また私は答えのわからぬ問いに振り回されて、「こういうのは作らないほうがいい」と言われるものを作ったりもした。

その後は、誰が見てもわかる作品を作らなければ、という國吉と、どうせお金にならないんだから作りたい作品を作ってもいいんじゃない?という國吉が喧嘩をしながら作品を作っている。


5月に上演した「チキン南蛮の夜」と「なんもできない」は、
だれでもわかる話を目指した作品と、答えの出ない問いをテーマにした作品である。
(と言っても、「チキン南蛮の夜」のラストシーンの仕掛けが伝わってないお客様もいたので、わかりやすさはもっと追求しないといけない)


「チキン南蛮の夜」は、初期の、わかりやすさを求めた作品なので、この作品が好きな人の中には「なんもできない」はわからない、好きじゃない、という人もいるし、
「なんもできない」が好きと言ってくれた方には「チキン南蛮の夜」は何が面白いかわからなかった、という感想ももらった。
どっちも好きと言ってくれる人もいた。


演劇は、何が正解かわからない。


私は、どっちもつくることでやっと自分のメンタルが保てるので、どっちかだけを作るというのは難しい。
きっとどっちも作り続けていくのだろうと思う。
(誰にも必要とされなくなったら、山奥で小動物に向けて演劇をつくっても面白いかもしれない、と思うことで自分を励ましている)

私としては、ぜひどちらも見てほしいのだが、どちらを見ても、好き嫌いはあるだろうなと思う。
いつか、100人に見てもらって100人が面白いと思ってもらえるものが作れるようになったらいい。そうなったらきっと引退するのだろうけれど。


6月20日で配信は終わってしまうので、それまでになるべく多くの方と作品が出会えれば、欲を言えば、少し元気になったり、明日も生きようと思ってもらえたら嬉しいです。


ちなみに、「アキラ君は老け顔」を気に入ってくれていたお客さまに「なんもできない」を見たあとにいただいた感想は、「こういう作品じゃなくて、『アキラ君は老け顔』みたいなものを作ったほうが國吉さんはいいと思う」だった。




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