【体験記】磁気刺激による疼痛緩和の試み
今回は、森山記念病院の西野克寛先生のご依頼により、2022年に実施された磁気刺激による疼痛緩和の試みについて体験談を書かせていただきます。
注意事項
あくまでも治療において私個人が体験したこと、感じたことについて主観的に記したものですので、十分にご留意ください。書かれている効果について他の患者さんには当てはまらない可能性も十分に考えられます。
なお、この記事の執筆にあたり関係者様から報酬等は一切受け取っておらず、特定の治療や機器等を推薦する意図はありません。疼痛治療の研究に貢献できればと考えております。
磁気刺激とは
早速ですが、私が受けた「磁気刺激」という処置は、体外から磁気のパルス波を当てることで筋肉の緊張を和らげることを目的に行われるものです。
線維筋痛症の患者さんの多くが、全身の痛みと同時にあちこちの筋肉がギュッと収縮して硬直し、緊張した状態を経験されていることと思います。この緊張を「リセット」して解きほぐしてあげることで痛みが緩和できないかという試みです。
興味のない方は読み飛ばしてかまいませんが、これは簡単に言えば理科の実験でよくある「電磁石」の応用です。
コイルに電流を流すと、磁場が生じます。また反対に磁場の変化は、電流を発生させます。コイルに瞬間的に電流を流し、発生した磁場によって筋肉に電流が流れ神経繊維を刺激します。
この刺激によって筋肉の弛緩が誘導できるとのことです。
処置の内容
magstimという装置を使いました。右にかけてあるステッキのようなものがコイルです。これを、脚や腕の大きな筋肉に当ててパルス電流を流す処置を数回1セットで何度か繰り返しました。
処置の効果
ここからは書けば書くほど嘘くさくなってしまうのですが(笑)、本当に瞬間的にてきめんの効果が現れました。
磁気刺激の直後から、体ごと取り替えてもらったのではないかというほどあらゆる動作が軽くなりました。自分でもとても信じられなかったです。具体的なビフォーアフターの例を挙げてみたいと思います。
・足を重力に反して空中に持ち上げる
(before)少し持ち上げるのがやっと……とても重い
(after)軽く真上に持ち上げてブンブンできる。空中で膝を曲げ伸ばしする→膝を曲げながら横倒しにするというのもできる
・丸椅子(背もたれなし)に座る
(before)体を支えるのがしんどい。すぐ辛くなる。
(after)余裕で座れる。シャキッと背筋が伸ばせる。
・歩く
(before)足取りが重い。杖に体重を預けて歩く。
(after)杖はいらない。サクサク歩ける。小走りする、助走をつけてスキップするなどもできる。
文字だと説得力がいまいちなので、一番わかりやすい動画をご紹介します。まずは磁気刺激の直前に撮影した、横になった状態での脚上げです。脚が硬直していて痛みがあり、ぎごちない動きです。
次に、磁気刺激の直後に撮影した動画です。足が軽くて簡単に持ち上げられたどころかそのまま空中で向きを変えたりすることもできるようになりました。
また、権利の関係で詳しくは書けませんが、別の日に簡易的なモーションキャプチャを使って、磁気刺激の前後で、歩行の様子をスコア化する実験を行いました。その結果、足を上げる高さや歩幅、歩くスピードなどに改善が見られたことを補足しておきたいと思います。
効果の持続性
正直に言って、この処置の効果が永続的であれば、病気の治癒にかなり近づけると言えるでしょう。
しかしながらそううまくはいかないようで、私の場合は数日後に全身に激痛が広がり元に戻ってしまいました。その後何度も同様の処置を行い、そのたびに痛みが軽快していますが、1週間以上効果が持続した事はありません。
この事実に私が絶望したかと言うと、実は全くそんな事はありませんでした。一瞬でも痛みから逃れることができ、本来の自分を取り戻せるチャンスがあること、そのことが何よりも嬉しかったのです。
私はこの病気になってから24時間365日、何をしても逃れられない痛みと戦ってきました。私の体はもう元に戻らないかもしれないという不安、今までできていたことのほとんどができなくなったことへの悲しみを抱いてきました。
それが、コイルを当ててパチパチと磁気刺激を与えるだけでしばらくは、本来あるべき私の姿に戻れるのです。すなわち私の体は、「痛みさえなければ、いつでも元に戻れる」つまりこの病気による機能低下はあくまで可逆的なものである、ということを証明しているのです。これがどんなに嬉しいことか!
さらにこの磁気刺激を繰り返すことによって、長期的には緩やかな回復傾向が見られました。少しずつ生活でできることが増えていったのです。
こうした経緯から(あくまで私の場合は、ですが)、筋肉の過剰な収縮を止めることで痛みの軽減や機能の回復が期待できるという考えのもと、次のステップに進むことができました。
私が手術を経て導入したバクロフェン髄注療法は、常時髄液にバクロフェンを注入し続けることで、筋肉を持続的に弛緩させる効果があります。
残念ながら、現時点では完治とはいかないものの、生活の質は確実に向上しております。その辺のお話は、また記事を改めたいと思いますが、磁気刺激は前進のきっかけになってくれるものでした。
疼痛治療の今後
繊維筋痛症が起こる詳しい原理については、まだ解明が進んでいません。磁気刺激やバクロフェン髄注療法についてもエビデンスが蓄積していないため、現在のところ線維筋痛症の正式な治療としては認められていません。しかしながら、このような一つ一つの例が積み重なることで、いずれ有効な新しい治療法が追加されることを期待したいと思います。
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