
【画像27枚】「歌川国貞(三代豊国)の役者見立東海道 歌舞伎役者の面影」(藤沢市藤澤浮世絵館)
美人画で知られる初代歌川国貞が三代豊国となってから制作された「東海道五十三次之内」(1852-53)、通称「役者見立東海道」。背景に東海道の風景があしらわれた役者絵のシリーズです。
当時の人気は相当高かったようで、「その二」という形で同じ宿場町を題材に描かれたり、「間(あい)の宿」と呼ばれる、宿場間にある休憩所を題材にした作品を制作していたりもし、最終的な総数は130点と、東海道の揃い物としてはかなりの大部となりました。
本作においては豊国はあまり個性を出している感じではなく、あくまでも「職人」としての仕事に専念。だからこそというか、工芸のように描きこまれた線描の安定感、空摺などの細やかなテクニックが素晴らしいです。

白髭の部分に無色の凹凸が見える。これが「空摺」で、染料のついていない板を使うことによってこのような効果を生み出す。

また、背景には広重の描いた風景画が一部採用されているのですが、豊国の人物と組み合わさったとき、その立体感溢れる遠近表現というのも出色。

演・四代目三桝大五郎
路上でポーズを決めているかのような現実感。
これに関してはすぐ気づくというものではなく、数を見ているうちにだんだんと浮かび上がるイメージです。
今回の作品に関しては、「誰が描いたか」だけではなく、「(歌舞伎役者の)誰を描いているか」という視点があるとより楽しめるのかなとと思いました。もちろん現代に生きる私たちは彼らの顔を知っているわけではないのですが、この時に豊国の、職人に徹した表現が「こういう顔だったんだろうな」という信頼感をもたらしてくるのかなと。
個人的には女形として人気を博した初代坂東志うか(読みは「しゅうか」、没後に五代目坂東三津五郎を追贈される)に興味を持ちました。心中もののヒロインなど、シビアな役柄が多い割と画面からは強い悲壮感は感じさせず、むしろコミカルな存在感。今の俳優さんで言うと仲里依紗さんやファーストサマーウイカさんのような、コミカルもシリアスもこなす雰囲気を感じさせる役者さんなのかなと(勝手ながら)思いました。

おかるは『仮名手本忠臣蔵』の登場人物。塩冶判官(浅野内匠頭)の家臣である早野勘平の恋人にあたる。刃傷事件の際、勘平はおかると逢引をしていたために刃傷事件に居合わせなかった落ち度から、二人は駆け落ちをすることとなる。


鬼神於松(鬼神お松)は石川五右衛門・地雷也と並ぶ日本三大盗賊(架空の人物とされる)。もと深川の遊女で、夫・立見丈五郎の仇討ちのために夫の仲間である稲毛甚斉と協力する…はずだったが、稲毛に言い寄られ、抵抗した際に振り回した懐剣で稲毛の胸を刺してしまう。その後、お松は復讐相手・早川文左衛門に取り入り、川を渡る際におんぶをして貰った際、背後から早川を刺す…という形で本懐を遂げている。
さらに盗賊団に襲われた際も逆に彼らの頭目を倒し、自らが頭目となって近隣の村々に対し略奪を開始、「鬼神お松」として恐れられる存在に。しかし彼女の天下は続かず、最期は早川の遺児である文次郎に討たれた。

『鎌倉三代記』の登場人物で男性。志うかが女形を得意としていたこともあり、ついジャンヌ・ダルク的なものを連想してしまう。
「京方」のメンバーであり、敵の「鎌倉方」メンバーである北条時政を殺害するため、時政の娘である時姫が自身に恋慕していることを利用、結婚の条件として時政の首を要求する。最近ニュースになったりする、やばいホストみたいな雰囲気を感じないでもない。
作品の展示数も今回は89点と多めで(普段は確か70点ぐらい)、たくさんの作品を見ているうちにこちらの「眼」も開いてくるような感じがありました。作者ではなく役者を見るという方法は今までやったことがなく、江戸時代の人たちがやっていたであろう鑑賞に、より近づくことができたのかなと。

演・五代目市川海老蔵(七代目市川團十郎)

演・八代目市川團十郎

演・二代目市川九蔵
広重の保永堂版を引用しているが、積雪が描かれていない。蒲原は温暖な地域で、広重が想像で描いたものとされており、それを豊国が「戻した」とも言える。


演・二代目中山文五郎
広重の保永堂版を引用。


演・初代市川広五郎
広重の保永堂版を引用。荷物を運ぶ人夫などが描かれている。



広重の保永堂版を引用。


演・三代目関三十郎
広重の保永堂版を引用しているが、遠景の山岳が採用されていない。経緯に関しては複数の同一作品を調べる必要があって、たとえば印刷の都合で省略された可能性も考えられる。



広重の保永堂版を引用。余談だが、藤沢市所蔵の保永堂版は雨がまっすぐ降っている。複数の同一作品を確認する必要がある所以。



演・七代目岩井半四郎

演・八代目市川團十郎
「山帰り」とは大山詣帰りのこと。「四ツ家」は「四ツ谷」のことで、東海道と大山道の分岐点があったとのこと。国道1号線沿い、現在の辻堂エリア(辻堂駅北口、藤澤浮世絵館のあるビルより更に北に進んだ場所)にその地名が残っている。

演・八代目市川團十郎
「戸塚 早野勘平」と同じ役者。本シリーズ「役者見立東海道」では一番描かれている役者(7点)。坂東志うかとは名コンビだったとのこと。

演・四代目市川小団次
石川五右衛門の幼名が「友市」。その存在も含め諸説多数のためご参考までに。

演・四代目市川小団次


演・三代目中村歌右衛門


演・三代目尾上菊五郎

「グループ1」と呼ばれる前半55作品の役者部分を描いた版本。「役者見立東海道」が公表であったことから、このような版本や双六などの関連商品が刊行された。本作は描写が拙く、弟子による可能性が高いとのこと(クレジット上は豊国だが、「帰属する」というところか)。絵の上には狂歌が書かれている。
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