「歌舞伎展」(川崎浮世絵ギャラリー)
タイトルの通り歌舞伎をテーマに、葛飾北斎、三代歌川豊国(初代国貞)、歌川国芳の三名を中心に構成。作風としてスタンダードな豊国作品が多かった印象でしょうか。個性的な作家に多く触れれば触れるほど、かえってスタンダードな存在がありがたかったりするのですが、ただ、今回に関しては北斎・国芳の作品に興味を持ちました。
北斎にかんしては「浮絵」と呼ばれる、一点透視図法を用いたものなのですが、北斎のそれは少々不完全なもの。消失点が二つあったり、日本画的な風景表現が混在していたり…って、ちょっと待って、それって「多視点」じゃないかと。セザンヌや初期キュビスムを見た時に感じる、画面の中に潜むあの立体感を、彼らの登場する何十年も前に実現してしまっていたことに驚きでした。さすがに確信犯ではなく、一点透視図法への理解の乏しさがもたらしたのかなとは思うのですが、それ以外の作品にも、セザンヌ同様に「奥行き」を感じながら観賞すると、また違ったものが見えてくるなと。
そして歌川国芳はやっぱりかっこいいなと。歌舞伎独特の戦闘的な題材を取り扱いつつも「争い」そのものに溺れない、人間的な余裕とユーモアを織り交ぜつつも、強敵に立ち向かう勇壮たる強さを感じます。国芳自身も天保の改革による弾圧を受けた一人で、個性的なユーモア・皮肉を交えつつ表現による「戦い」を続けた人物。そんな画家の作品からは、どこか「本当の戦い方」というものを感じたりもしました。
《名誉右に無敵左り甚五郎》では左甚五郎の彫刻作品という形で歌舞伎役者を紹介しつつ、自画像という、浮世絵版画としては少々珍しいことをやっております(調べてみたところ、ほかに"版画で"やっているのは歌川貞秀・小林清親ぐらい)。国芳私物のイケイケな妖怪どてら、そして国芳の飼い猫がそばにいる甚五郎を描いているのですが、彼の描く自画像はいつも顔NGで、今回の作品も背中を向けた後ろ姿。しかし、そんな彼の姿がどれだけカッコいいことか。時代と戦いながらも、それでも自分は職人であるというような、国芳の矜持を感じる瞬間でした。
11月29日にこのギャラリーの名誉館長で元参院議員、コレクターでもある斎藤文夫氏が逝去。都内で開催されるような浮世絵展のミニ版なら斎藤コレクションで実現できてしまう、その体系性は凄いなと思ってて、それを思うと少し寂しい気持ちもあります(冒頭の挨拶文も含め)。今後とも浮世絵への好意に満ちた、展覧会としてのクオリティが維持されることを願うばかりです。
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