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「バックヤードツアー 虫やカビから美術品を守る」(平塚市美術館)

 昨年のバックヤードツアーが面白かったので、今年も参加することにしました。

 そもそもバックヤードツアーというのは普段は入れない施設の裏側を見学させてもらえるイベントで、美術館・博物館のほか、水族館や動物園などでも行われています(むしろ水族館・動物園などのほうが一般的かも知れません)。コロナ禍をきっかけに中止、またパッケージツアーとして有料化した館もあるようですが、ちょこちょこ復活もしているようです。

 今年は10時30分と14時00分スタートの二回があり、私は午前の部に参加。参加者は13名ほどで、年齢はおそらく若くて30代、平均するとおそらく50代ぐらいかなぁという感じです。中高年が多いのは確かなようですが、昨年は20代、おそらく学生さんの参加者もいた記憶です。
 ちなみに保安・警備上の理由ということでツアー中は撮影禁止。鉛筆とクリップボードも美術館側から支給されるという徹底ぶりです。

 今回のテーマは防虫・防カビについて。
 一見地味でマニアックに見えますが、実は防虫・防カビの燻蒸(※ガスで燻して殺虫すること)に使われていたガス「エキヒュームS」が生産中止となることが決まっており、美術館・博物館の虫カビ対策は今ホットな話題となっているとのこと。

 現在、東京文化財研究所から示されている代替策が「文化財IPM」と呼ばれる方法。IPM(Integrated Pest Management、総合的害虫管理)というのはざっくり言えばガス燻蒸による「駆除」中心の対策に代わって、清掃などの「予防」によって虫害を防ごうというもの。

 たとえば展示室の隅に昆虫生息用のトラップを設置、トラップに虫が引っかかったらその虫を同定(虫の種類を特定)をし、それに合わせた具体的な対策を考えていきます。一般的な展示室の温湿度である「温度22℃、湿度55%」といった温湿度管理、さらにはレストランと収蔵庫の距離を離すことも立派な虫カビ対策なんだとか(火災対策という理由もあります)。

 今回のギャラリーツアーではトラックヤードや燻蒸庫(美術館で燻蒸庫を所有しているケースは珍しいとのこと)、収蔵庫、そして展示室などを紹介。ここらへんのルートは実は昨年と全く同じなのですが、テーマが変わると紹介する切り口も代わるという気づきもあります。燻蒸庫にはこれから燻蒸される史資料が鎮座しており、収蔵庫は扉を閉めると自動的に鼠返しがせり上がり、虫等が侵入しない仕組みになっておりました。

 ツアーは約1時間ほどで終了。
 最後は質問コーナーが設けられており、そこでも防虫対策の話題がいろいろ。面白かったのは「ニュウハクシミ」と呼ばれる害虫について(興味のある方は各自検索を!)。メスのみで繁殖するというかなり厄介な害虫なんですが、爪の形状からプラスチックを上ることができないんだとか。そこで、ペットボトルの下半分を台座にし、その上に作品を置くと、虫が上ってこれないんだそうです。
 こうした史資料の虫害というのは額にしたらとんでもないことになると思うのですが、おそらく数百円にも満たない対策で防げるというのも面白いなと思いました。

 バックヤードツアーは数ある教育普及イベントの中でも、「美術館・博物館にしかできないこと」という意味で好きなイベントです。学芸員資格で言うと今回は博物館資料保存論に直結する話題で、個人的にはこの科目だけレポートが成績Bだったので、「あの時にこのイベントがあったら…」などと、ちょっと悔しくなってしまった次第でした。

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