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「第78回東京藝術大学・修了作品展」(東京都美術館)

 気になった作品を3つほど。


市原舞(建築)《きみのまち みんなのまち》


 作者の地元・成田を舞台に、再開発により「こみち」を追い出された少年が魔法のチョークを手に、同じく「こみち」を追い出された猫のため、やがて街のみんなと「こみち」をデザインしていくという物語の絵本。実際に何をデザインするか以上に、そのデザインが誰のものなのか、誰のためにあるのか…それを考えさせられる内容でした。

 私は大学の卒レポで震災遺構を扱っていまして、その「デザイン」を巡って役所と住民が紛糾する様を調べていたことがあるんですが、個人的にはその時のことを重ねる部分もありました。役所は投資対効果を意識してしまいがちで、それは例えば観光資源というような発想に向かったりするのですが、住民はコミュニティとしての場としての調和を求め、結果この両者の考え方が衝突してしまうこともある。そのとき、設計者はどちらの側に立つのか…設計者にとって直接的なクライアントはお役所であることも多く、お役所"しか"見ていない仕事も現実に見受けられるなか、このインスタレーションは改めて新鮮でした。

亀井佐知子(油画)《The Divider》

 インデックスつきの大量のクリアファイル、ほぼそれのみ。パッと見は会社にあるクリアファイルの保管棚のようでもありますが、数千枚、いや、ひょっとしたら1万枚を超えるかもしれない物量は異質です。会場で見たときはわけがわからず、しかしその圧倒的な存在感、藝大卒展全体の展示を通じて群を抜く異質感に恐れおののいてしまいました。

 唯一あるとすれば、クリアファイルに貼り付けられた白いインデックスでしょうか。もしこのインデックスを全て彼女が貼り付けていたんだとすれば…その恐ろしく単純で、しかし正確に続けられた営為には恐れ入るものがあります(仮に外部委託や業者に依頼したとしても、それは十分に「なにか」を感じうるものです)。作品コンセプトがキャプションで示されているわけでもなく(たとえば廃校から集めてきたとか、そういうストーリーがあるわけでもなく)、自己流で解釈するしかないのですが…だからこそのインパクトがある作品でした。

久保倉美和(デザイン)《心のとまり木》

 作者が怪我をした際、円柱状の手すりに助けられたのが制作のきっかけとのこと。怪我をしたり足が不自由な方のみならず、そうでなくても「触りたくなる手すり」を目指して作られたのがこのデザインで、実際吸い付くようなデザインがよく出来ています。

 確かに円柱状の手すりはコストもかかりませんが、この作者の『手すり』はただ腕を置く以上の機能、そして手を置くことに『意味』が生まれる作品ではないでしょうか。ぱっと浮かぶところでは公園、あと私も昨年入院してたんですが、病院とかでも手すりが採用されたら、おそらく作者が望むような場ができていたんじゃないかと想像したりもします。ビジネスチェアのアームレストにもなったらいいなと思うし…様々な活用のされ方を期待してしまう作品です。

おまけ

 あと、日本画科は作品とともに自画像が展示されるのですが、男子学生を中心にちょっぴり「攻めた」自画像を展示しているのが面白かったです(13-16)。もちろん真面目に徹するのも一つのやり方ではありますが、私個人としては彼らのような自由な感性を買いたい(笑)

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