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「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」(東京都美術館)

病院の診察が午前中に終わり、ひっさしぶりの上野へ。国立西洋美術館のチケット列の混みっぷりを見て、遠巻きに「すげーな!」とか笑ってましたが、終了間際のこちら田中一村展のチケット列・入場列はおそらくそれに匹敵するもの。会場内もなかなかの芋洗い状態でした。
 
戦中戦後をまたぐ南画(文人画)の時代、そして奄美大島に移住し、「日本のルソー」などとも形容される意匠的でエキゾチックな晩年の画風。個人的には中期(戦後の一村改名後〜奄美移住前まで)の作風に琴線が触れました。日本南画のルーツにあたる文人画はそもそも中国の士大夫(高級官僚)が趣味・教養として始めたスタイル。言ってしまえば素人に近い人間が描いているということもあり、その描かれ方にはテクニックよりもマインドを重要視した粗さがあり、影響を受けた南画にもその要素が残ります。
一村の初期作品はある意味では「南画」というジャンルに忠実で、技術的にも相当に高いのですが、忠実すぎるがあまり、絵にそこまでの「空気」をなぜか感じなかった、後のことを考えると一村が「自分の絵」を描けてなかったと感じたのも事実。それが戦後になると、絵に余裕が生まれ、澄んだ空気感を伴い、楽しんで描いていた、つまり「自分の絵」を描けるようになった感じが伝わってきます。残念ながらその画風は戦後評価されなかったようですが、自分のやっていることに自信もあったんじゃないでしょうか。
南洋特有の熱帯魚や枇榔樹の森などを描いた晩年の作品は、日本画の伝統からは離れた感もありますが、南画が持っていた根本的な部分、伝統に従うのではなく、自分の興味関心を反映するというのは、むしろ南画のイズムを体現していたようにも感じました。
 
混雑で、しっかり観たいという本音はありましたけど、それを差し引いても刺激的な展覧会だったと思います。ちょうど41歳の誕生日で、「こんな日に病院か…」とも思っていたのですが、この一村で十分取り返せたかなと。

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かろ(ペーパー学芸員)
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