柚子にアゲハの…
迎え盆の日に、ベランダにある柚子の苗木にアゲハチョウの幼虫がついていることに気がついた。
大きさは1cmくらい、縮んだ体躯に褐色と白の斑模様で、お世辞にも美しいとは言い難い。
羽化をする前のずんぐりとした緑色の体になるまでにはあと何回か脱皮を繰り返すらしく、それまでは鳥の糞に似せた姿で外敵から身を守っているのだそうだ。
柚子の艶やかな葉は、ところどころ虫食いとなっている。
苗木の高さはせいぜい20cm程度。
今はまだ幼虫の食べる分は賄えているようだが、いずれ苗木が丸裸になるのは目に見えている。
箱に入れて飼育するつもりはないけれど、できれば羽化するまで観察してみたい。
そうなると、餌の調達が必要になる。
ホームセンターや園芸店などで柑橘類の鉢植えでも買ってこようかと思ったが、インターネットの情報によると、そういった店では農薬を使用していることが多いらしく、幼虫が食べると死んでしまうと書いてあった。
窓辺に座り込んだままスマートフォンでサイトを渡り歩き、通販で無農薬の柑橘類の葉を枚数やグラム単位で購入できることがわかった。
枝付きの葉というのも売っているようで、瓶に挿して幼虫を移すという方法もあるようだったけれど、それはそれで倒してしまう危険もある。
部屋には入れず、ベランダで成長を観察するというのを前提とすると、やはり根っこのついたものの方がよさそうだ。
検索の仕方を少し変えてみると、すぐにフリマアプリで無農薬の柚子の苗木を見つけることができた。
どんな状態で届くのか不安がないわけではなかったが、とりあえず注文をした。
そもそもベランダにある柚子は、植えた覚えのないものだった。
おそらく、隣にある生ゴミ処理器に絞りかすを捨てた際に種子が飛んだのだろう。
観葉植物が根腐れしたため、抜いてそのままにしていた鉢の隅に芽を出していた。
雑草にしては主張が強いなと思いながら様子を見ているうちに、特徴のある葉の形になり、もしやと当たりをつけて調べてみたら柚子の葉だった。
うちのベランダにある鉢植えは、いわゆる園芸店で買ってきたものというものはほとんどない。
人から譲り受けたり、果実の種や実家の庭にあった植物の種を蒔いてみたり、花屋で買った枝ものを試しに挿し木にしたもので、統一性は皆無だ。
ガーデニングや畑に憧れはあるけれど、どうにもそこまで辿り着くことができない。
鑑賞や収穫の喜びより、実験的な関心で気ままに楽しむのが好きらしい。
少し前までモゾモゾと動いていたアゲハチョウの幼虫は、今は頭を葉に押し当てるようなポーズでじっと蹲っている。
しつこく凝視していたのがストレスだったのではないかと少々不安になる。
無事に育ってくれるかどうかは定かではない。
ベランダの環境も最適と言えるかは甚だ疑問だが、ここに卵を産みつけたのならそれを信じて、できるだけ邪魔しないようにしておこう。
水遣りのたびにそわそわする日が、しばらく続きそうだ。