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オシロイバナの香り

夕方になると、ぽぽっと咲き始める。
水遣りの際に少し葉が揺れただけで、ふわりと軽やかな芳香が立つ。

香りもいろいろなタイプがあるけれど、オシロイバナの粉っぽい軽さは結構好きだ。

ジャスミンは、オイルのような質感がうっすらと混ざった空気の層が重なっている感じ。
ノウゼンカズラは、湿度のある蜜っぽさで粘性の重みがある。

季節ごとに金木犀やらクチナシやら沈丁花やらあるけれど、それぞれの香りに伴う皮膚感覚があるように感じる。

嗅覚は脳神経にダイレクトに通じているので、それぞれの香りに応じた記憶があるのかもしれない。

おかげで、妙な錯覚を起こすこともある。

花など飾っていないのに、部屋に入った途端、芍薬の匂いが鼻腔に入り込んできたことが何度かあった。

たぶん「何か」のにおい(?)のようなものを、勘違いしたのだと思う。

香りに包まれた瞬間に、もうこれは芍薬だと脳が認識してしまっているので、ほかのものである可能性に思いを巡らせることはできなくなっている。

いや違うよね…とひとり突っ込みをしつつ、せっかくなので香りの幻が薄れるまで堪能していた。

最近はそんな錯覚を起こすこともなく、ちょっとさびしい。

ベランダのオシロイバナは、種を蒔いた2年後にめきめきと育って花を咲かせるようになった。

これが思いのほか、夏の悦びになっている。
花殻を落とすついでに、すんすんと鼻を近づける。

だいぶ秋めいた空気にはなってきたけれど、もうしばらく楽しませてくれそうだ。

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