幽霊みたいな彗星の話
つい先日、彗星というものを初めて観測した。
私は小さい頃から流星群の観測は結構好きで、まぁまぁの回数観測していると思うのだけど彗星は初めてだった。
8万年に一度の彗星。絶対に次の機会はないだろうし、なんならこの彗星は太陽系から出て戻らない可能性もあるらしい。
それなら逢っておこう、なんとなくそう思った。
観測に適した期間で、お天気が良さそうなのは明日だけ、という事で前日に急遽観測しに行く事を決めた。
出かける前に情報を集めたけど、どうにも私にはよくわからなかった。
まずひゅんっと流星みたいに一瞬で終わるようなものなのかがわからない。
これは当日行って判明した事だけど普通の星みたいに地平線に沈むまでは雲などに隠れないかぎり見えっぱなしのようだったので、今回の彗星は1時間以上は見え続けていた。
具体的にどうやったら観測できるのかもわからなかった。
双眼鏡が有れば肉眼でも見えるという話だったけれど、私は目が悪い。乱視もある。
どうやら彗星の明るさの問題で肉眼では見えづらい可能性もあるらしい。
そこで、彗星の居場所が追えるアプリを用意した。
空の一点に現われる小さな彗星は、双眼鏡では私は見失うだろうなと思って用意しない事にした。
専門的なカメラなんかは無いけど、SNSを見ているとスマホでも撮影できている人が結構いたので撮影方法も確認した。
(この記事に飾った画像はスマホで当日実際に撮れたものです)
といっても、特に難しい事ではなかった。ナイトモードというので、シャッタースピードをできるだけ遅くするだけだ。
シャッタースピードを遅くすると、手で持って撮影すると確実にブレる。10秒動かないとか私には無理。
そこで三脚も必需品と分かったので持参する事にした。
パートナーに頼んで車を出してもらい、夕方から近くの海へ出かけた。
車だと20分かからない位。西の低い空で観測できる彗星だったので夕焼けの綺麗に見えた場所を思い出してそこへ向かった。
散歩をしている人が沢山いた。お買い物帰りの主婦もいた。犬もいた。
みんな暫しの間、夕焼けをじっと見ている。
みんなどんな事考えながら見てるのかなと思ったけど、綺麗だなぁとはきっと感じているんだろうなと思う。
綺麗だなぁという感情を核としている人が集まっているだなんて、この空間ていいなと思った。
途中で買った葡萄味の甘い紅茶を飲みながら、彗星を待った。
波の音を聞きながらベンチに座って空の色がどんどん変わっていくのを見ている時間は、とても良かった。
私はどうも水辺が好きなようで、海とか川とか滝とか湖とかみんな好き。
水のたてる音も好きで波とか川の音は勿論だけど、家にいても雨とか水が管を流れる生活音とかも好きだったりする。
そんな訳で彗星に出会う前からなんだかいい気分になっていた。
だんだん空の色も暗くなって、そろそろかなと思う頃になってもなかなか肉眼では見えない。
どんなに目を凝らしても目印の金星しか見当たらない。
あれ、もしかしてこれって観測できない感じなのか?と不安になってくる。
SNSで観測できた人がいるか検索してみるもののまだ今日の報告はない。
どうしたものかなと思いながら、なんとなく彗星がいるとアプリが示している方向を撮影してみる。
すると、そこには彗星が写っていた。
すごい、びっくり。そして嬉しい。
尾をひいている。なんて彗星らしい姿。
ちゃんといた。私には見えないけど。いた。
ちなみに視力2.0位のパートナーにも肉眼では見えていなかった。
明るさの問題なんだろう。もっと暗い場所であるか、彗星がもっと明るい状態なら見えるのだと思う。
でもナイトモードのスマホを通せば見える。確かに彗星は存在していた。
見えないけどそこにある、不思議なワクワク感。
何回か撮影してその度に確認する。
幽霊みたいな彗星だ。なんだか心霊写真みたい、そんなふうに思った。
周りの人達もスマホをかかげたり、双眼鏡をのぞきながら彗星を探していた。そういう風景も面白かった。
最後にもう出会う事の叶わない彗星に「さよならー元気でねー」と挨拶した。
帰り道、ふと思って話した。
「ねぇ、彗星って流れ星みたいなものだよね?」
「あんなにゆっくりしてる流れ星なんてないのに願い事しなかった」
調べてみたら彗星のまき散らした塵が流れ星らしい。
じゃぁ彗星は私達が流れ星と呼ぶものの本体ではないか。
でもよく考えてみたら、これで良かったのかもしれない。
逢えて良かった、一生忘れないそういう思い出だけで十分幸せだもの。
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