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金木犀

秋になると、金木犀の香りを探してしまう。
何日か前に、今年の秋はまだ金木犀の香りを感じていないなんて話していたらつい昨日あたりから香りが漂いだした。

私の育った家には祖母の好きな草木がたくさん植えられた庭があった。
今は母の庭になったのでだいぶ様変わりした。
おばあちゃん子だった私は、昔の庭にどんな木があったのかを今も結構ちゃんと覚えている。
祖母がどんなふうにその草木を愛でていたかを覚えているからだ。
食いしん坊な人だったから食べられる実をつける木がたくさんあったし、香りの良い草花も好きな人だった。
庭で祖母にくっついて歩いていた時に、一つ一つなんでこの場所に植えたのか、どうしてこの場所に生えてきたのかというような話を教えてくれた。

金木犀と沈丁花は勝手口の比較的近くに植えられていた。
いい匂いは生活の近くが良かったからだ。でも百合は香りが強すぎるから、窓から少し離れたところに植えられていた。塩梅がいい場所なんだと説明されたっけな。
祖母の話では、祖父は酔っぱらって帰宅した夜はこれらの木にお土産をひっかけてその下で眠り込んでいたらしい。
いい匂いの木の下でほろ酔で眠るのはとても気持ちが良かったんだろうな。
これらの木に花が咲くのは気候が比較的良い季節だから。

祖母は春や秋は勝手口を網戸だけにしていた。
勝手口からの風が通る食卓が祖母の定位置で、ラジオを聴きながら座っていた。私は勝手口のすぐ傍で犬とごろごろしてたから祖父とそう変わらない気がする。

その穏やかな季節の穏やかな記憶達のせいか、私は今でもこの二つの木が好きだ。
今は実家からは離れて、パートナーと暮らしている。でも偶然その二つの木がベランダのすぐ脇の植栽に植わっている。マンション越してきた時点では気が付いていなかった。
だから季節がめぐり、それに気がつた時はとても嬉しいサプラズだった。ずっとこの二つの木には元気でいてほしいなと思ってしまう。窓を開けて香りを楽しみながら過ごすの時間は幸せだ。
この家は紛れもなく自分の居場所だと思えてとてもいい。

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