空へ届けたい思いを
シチュエーションボイス 七夕
コーテイ=ペンドラゴンIII世 様( @koteipengin3 )
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こちらのボイスの台本を作成させていただきました。
以下、ボイスの小説版になります。
!注意!
これはあくまで一つの解釈になります。
皆さんの考えるシチュエーションと異なる場合もありますが、ご自身の解釈を大事にしてくださいね。
天の川に思いを乗せても、きっとこの願いは叶わないんだろうと漠然と思っていた。
澄み渡った夜の空。見える星のきらめきを眺めていると、一筋の星の群生が私の目をとらえる。次いで今日が七夕だということを思い出して、そっかあれは天の川かと理解した。
「空なんて見上げてどうしたのさ」
そんな私を見て何を思ったのか、隣を歩く彼――コーくんはこちらを見てはきょとんとしていて、なんだかその姿が愛らしい。
「ううん、天の川が綺麗だなって。今日七夕だったから」
「そっか。そういえば今日は七夕だったっけ?」
どうやら彼も忘れていたらしい。私と同じように空を見上げて、その空に浮かぶ煌めく川に思い馳せていた。
七夕なんてもう何年も忘れていたけれど、この空に浮かんでいる天の川は毎年変わることなく私たちを照らしていた。空を見上げる余裕もなく、ただがむしゃらにしていただけの私だったけれど、彼と一緒に過ごす時間が増えてから少しずつ、その余裕も出てきたのだと思うと、なんだか感慨深い気持ちになる。
「あっ、笹が飾ってある」
少し歩いたところで、彼の足が止まる。向いていた視線の方に私も動かしてみると、そこにあったのは空高く、天の川にまっすぐに伸びた一本の笹。
「ねぇ、せっかくだし、一緒にお願い事書いていこうよ」
彼のお願いに、私はめっぽう弱い。お願いされてしまったら自然と首は縦にうなずいていて、そんな私を見て満足そうに笑うと、笹の方へと一直線に向かっていった。その背中を慌てて追いかけて、私もそのあとに続く。
お願い事、なんて最後にしたのはいつだっただろう。
短冊にかけるだけのお願い事なんてもう何年も考えていなかった気がする。何をするにもどこか諦めてしまう私は、願い事のない、夢のないつまらない人だと思われていてもおかしくなんてない。
だって、お願いするだけ、叶わなかった時のことを思って悲しくなるだけだったから。それならばいっそお願いなんてしないほうがいいんじゃないかって思ってた。
「なににしよっかなぁ……」
それなのに、願いに思い馳せる彼の背中はわくわくした様子で、何を書こうかと色々思案している。願いたいことがたくさんあるのはいいことだし、私もそうでありたかった。
「あれ? まだ書いてないの?」
「あ……うん……」
願い事がない、夢がない人だと思われただろうか。そんなつまらない人だと思われていたら嫌だなと思うけれど、実際その通りだから何も言い返すことなんてできなかった。
何かを言われることを覚悟していたけれど、彼はそのまま短冊の方へと視線を戻していた。つまらない人間に興味などないと思われていたようで、少しむっとしてしまう。
私だってないわけじゃない。だって、私のお願いは――
「よしっ……書けたっと」
それから幾ばくかして、満足そうな声と一緒にペンが置かれる音がする。はっと気が付いたときには私のお願いも短冊に書かれていて、自分のことながら驚いていたほど。お願いがないわけじゃない、だけどそれを叶えてもらえるかどうかなんてわからないから、あえて口にしてこなかったこと。誰に見せるわけでもないし、とどこか開き直っていたのかもしれない。
「君はお願い事何にするか決めた?」
そんな私にコーくんは当たり前のように私のお願い事を聞いてくる。ちらりと視線を短冊に書かれたお願い事に目を落として、自分の選んだ願いを改めて確認してしまい、いたたまれなさと恥ずかしさで思わず後ろ手に隠してしまう。
人に見せたいと思った願い事じゃない。ただ、それだけだった。
「わ、私のよりコーくんは? なんてお願いしたの?」
「僕? 僕のはね……」
逆に聞かれるのは思ってもいなかったのか、少しだけ驚いた様子を見せる彼。次いで自分のお願い事を再確認したからなのだろうか、耳を赤くして「僕のはいいよ!」と照れ隠しに声を大きくしていた。
――そんなことを言われたら、気になる。
やってきたのは、どうしようもない好奇心だった。
「私に聞くってことは、コーくんも教えてくれるってことでしょう?」
「僕のは別に――」
あっ。
不意を突かれた声と共に抜き取った彼の短冊。あっという間の出来事になす術もなかった彼は取り返そうとしたけれど、ひらりひらりとその攻撃を躱した。
「ちょっと、とらないでよ……」
「ふふっ、先に聞いてきたのはそっちだもの」
少し不満そうな顔をしたコーくんだけれど、この攻防をしても仕方がないと思ったのか、その攻撃はすぐに終わって短冊をそっと見る事ができた。
――しかし、それは私にとって予想外のことで。
「えっ……」
「いいじゃん、別に。【君とこれからもずっと、一緒にいられますように】ってお願いくらい」
お願い、なんだし。
ちょっと拗ねたような、自信に満ちた普段とはまったく違う彼の姿に私は驚きを隠せなかった。
ギャップ? そんな可愛げのある言葉なんかじゃない。そんな言葉で片づけられるほどの感情が、あまりに唐突に私の元へと駆け巡る。
だって、だって。こんなの――
「えっ、なんでそんなに顔赤くしてるの? ……僕のも見せたんだから、君の見せてよ」
そして目敏い彼は、私の些細な変化に何かを察したらしい。にんまりと頬をあげて、留守になっていた手元から私の短冊をそっと抜き出した。あっ、と今度は私が声をあげる番で、今度はじっくりと、私の短冊に目を通す彼の目が開かれる番だった。
「なになに……」
今度はこちらの番だ、と言わんばかりにじっくりと読まれるのが恥ずかしくてたまらない。穴があったら入って埋まりたい気分だ。
私が書いた願い事。叶わないと半ばあきらめて、だけどそれ以上のものが浮かばなかった私が書いた、数少ない願い事。
【コーくんとこれからも、ずっと一緒にいられますように】
恥ずかしくて、所々震えている字。まさか同じことを書いているなんて思っていなくて、何より彼も私と同じことを考えていてくれたなんて思いもしなくて、ドキドキというか、バクバクと心臓が忙しなくてうるさかった。
「……ふふっ、なぁんだ」
少しの沈黙の後、再び嬉しそうに笑う彼に、どうしてそんなに嬉しそうにするのかがわからない。私がうれしくなる気持ちはわかるけど、だって、貴方は。
「同じこと、考えてくれてたんじゃん」
言葉尻に感じるのは、悪戯を成功させた子供のよう。私だけがこんなに恥ずかしがっているのが悔しくて、からかわないでよと悪態をついてみる。
「別にからかってないよ」
「うそだ。だって顔に書いてあるもん。嬉しそうにしちゃっててさ」
そうだ。からかっていないのなら、こんなに嬉しそうな顔をする意味が分からない。そうじゃなかったら、他の理由があるとするなら――とありもしない想像だけが広がって、虚しくなってしまう。
「そりゃ嬉しくもなるでしょ」
「どうしてよ」
「……わかって言ってる?」
私の質問に、彼の纏う空気が少しだけ変わる。あれ? と思った時にはもう遅くて、次に漂うのは彼にしては珍しい、自信のなさげなものだったから。
「コーくん?」
「言うの恥ずかしいのになぁ……君も大概じゃない?」
「えっ?」
この時の私は、まだ知らない。次に出てくる言葉を、そしてその衝撃の大きさを。
「だってさ、大切な君と同じこと考えてたんだなって。嬉しくなっちゃうじゃん」
人は、本当に驚くと声が出なくなるらしい。あまりの衝撃の大きさに、私はただ口を開けて、次いで顔に集まる熱を冷ますことくらいしか出来そうになかった。
「恥ずかしいこと言わせないでよもう! そんなことより、早く飾ろ?」
コーくんも自分の言葉に恥ずかしくなったのか、短冊を持ったまま笹の方へと身体を向けた。ちらりと見えた耳元は真っ赤で、彼もそれほどまでに恥ずかしかったのだろうというのが見てすぐに分かった。
いつの間にか戻されていた私の短冊。まさか貴方と同じことを考えていたなんて思いもしなくて、自然と持つ手に力がこもってしまった。
「どこに飾ろうか」
「うーん……」
話をそらそうとする彼の言葉に、私も一緒になって考える。既に色とりどりに飾られていた短冊たちに紛れ込ませてしまったら、神様にも見てもらえないかも、なんて。諦めてたはずのそのお願いも、彼と同じだと思ったら叶えたいと思ってしまうのは間違っていることだろうか。
「それじゃあさ」
――隣同士にしようよ。
「えっ?」
思わぬ提案に、今日何度目になるかわからない驚きの声を乗せる。彼もそれなりに恥ずかしいのか、照れくさそうに頬をかくと、だってさ、と続いた言葉。
「隣同士にしておいたら、このお願いも叶えられそうな気がするから」
――嗚呼、神様。
叶わないと思ってしまった私を、どうか許してください。
そして、願わくば。
このお願いを、私と彼のお願いを叶えてくれませんか――?
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