輝きが願うもの

シチュエーションボイス 七夕

夜光菫 様( @yako_sumire )

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Twitter https://twitter.com/yako_sumire

こちらのボイスの台本を作成させていただきました。
以下、ボイスの小説版になります。

!注意!
これはあくまで一つの解釈になります。
皆さんの考えるシチュエーションと異なる場合もありますが、ご自身の解釈を大事にしてくださいね。


キラキラするあなたは、どこにいても輝くんだなぁとぼやいてみた。

「どうかしたの?」

 ぼんやりと隣の菫さんを眺めていたら、視線を感じたのかきょとんとこちらを覗き込んでくる。まさかそんなことを言えるはずもなく、なんでもないよと首を横に振ってみると、ちょっと不満そうな顔をしたけれど、すぐにそれは解かれた。
 視線をずらしてみると、高く伸びた笹が一本。そっか、今日は七夕だったなと思い返していると、同じことを思ったのか、菫さんも同じように笹に視線を向けていた。

「そういえば今日は七夕だっけ? すっかり忘れちゃってたなぁ……」
「そうですね、七夕のことなんてすっかり忘れちゃってました」
「笹も飾ってある」

 せっかくだし、一緒にお願い事書いていこうよ。
 私の回答を聞くまでもなく、速足で笹へと向かっていく彼の背中を追いかける。少し子供っぽいなぁ、と思う自分もいるけれど、それは間違っても彼にはいってはいけないなぁと思い返していると、早く早くと急かされてしまった。
 大丈夫ですよ、そんなに焦らなくても笹は逃げていかないから。

 とはいえ、七夕のイベントに触れなくなって、どれくらいの時間が経ったのだろう。
 前まではそれこそ嬉々として参加していたイベントだったけれど、時間を重ねるごとにその機会は失われ、そして願うだけのお願い事もなくなっている。色の減った毎日を過ごしていくのはなんだか退屈だった。
 だけど、それは彼の――菫さんと過ごす時間が増えて、徐々に色が増えていったように思う。きらきらと輝きを放つ彼は、無邪気で、私をいつだって童心に返してくれるような、そんな気配すらした。
 だからそう。もし今、お願いをするのなら。思い浮かんだその願い事を、藍色の短冊に書き入れていく。

「書けたっと……」

 ほぼ同時だっただろうか。菫さんも同じくして顔を短冊から離すと、ゆっくりとこちらに視線を戻した。

「君はお願い事何にするか、決めた?」
「ま、まぁ……」

 自然と書いた短冊を後ろ手に隠してしまった。別に飾ったら見られるのだから意味がないのに、なんとなくこれを先に見せるのは恥ずかしくて、思わず、といった感覚だった。どうやらそれがお気に召さなかったらしい、あからさまに不満そうな顔をした菫さんに申し訳ないと思いつつ、それならば、と。

「菫さんはなんてお願いしたんですか?」
「僕? 僕のはね……あっ」

 同じようにされてはたまらない、と彼が短冊を手に取った瞬間を狙って、そのまま彼の手からその短冊を抜き取った。あっけに取られた彼は慌てて取り返そうとするけれど、私取られまいと負けじと攻防を繰り返す。

「ちょっと、取らないでよ!」
「だって気になるもん」

 何度かの攻防の末、勝ち取った勝利を味わうために彼の書きこんだ短冊に目を通す。
――そして、私は思わず目を疑った。
 短冊の色は水色で、私の物じゃない。字体だって違うし、これが菫さんのものであることは間違いないはず。
 じゃあ、どうして。こんな、まさか。

「もう、いいじゃん……【君とこれからもずっといっしょにいられますように】ってお願いするくらい。お願いなんだからさ」

 どこか拗ねたような言い回しに、普段であれば可愛いなぁとしか思わない。だけど今回は、そんな悠長に構えていられるほどの余裕はなくなっていた。厳密にいえばさっきまではあったのだけれど、お願い事を確認してからというもの、だ。

「どうしたの? そんな顔赤くして」
「えっ、いや別に……」

 そしてそういうときばかり自分の気持ちを隠せない自分をこれほどまでに呪った日がかつてあっただろうか。徐々に顔を赤らめていく自分を自覚しながら、菫さんの質問にしどろもどろで返答してみる。だけどそんなの、何か隠しているのが逆にわかってしまう程あからさまなものだったと気が付いて、またすぐに後悔することとなる。

「僕のも見せたんだから、君のも見せてよっ!」
「あっ、ちょっと!」

 隙を突かれ、握っていた藍色の短冊はするりと難なく、彼の元へとたどり着いてしまう。
 後悔するには圧倒的に時間が足りなかった。手を伸ばしても彼の視線が短冊の文字を追いかけていて、例え取り返したとしてもそんなに長くない文章なのだから、読み切られてしまうのは至極当然のことだ。

「なぁんだ。君も同じこと、考えてくれてたんだ」
「うぅぅ……いいじゃん、だって――」

 改めて言われると恥ずかしいなんてもんじゃない。書かなければよかったと思うけれど、思い浮かんでしまったのは本当だし、せっかくのお願い事なのだから、これくらい考えたっていいじゃないかと半分開き直りそうになってしまう。

「ふふっ、そっかぁ。おんなじこと考えてたんだぁ」

 互いの短冊を返しながら、嬉しそうな顔をする菫さんにむっとした。

「なに、からかってるの?」
「別にからかってなんかないよ?」

 嘘だ。だってさっきまでと表情が違うもの。今の彼は新しいおもちゃを見つけたようにきらきらとした目でこちらを見ているじゃない。そんなのからかっていると思わないほうがおかしいと思うんだけど、と言いかけたけどぐっとこらえる。意趣返しだと言わんばかりに嬉しそうな顔をしている理由を尋ねてみると、一転顔を少し赤らめて笑って見せた。

「ずるいなぁ君も。わかってるくせに……」
「思ってることが同じとは限らないじゃない?」
「いうの恥ずかしいのになぁ……」

 照れくさそうに頬をかくと、私にだけ聞こえるように小さな声で、だけどちゃんと聞こえるように。


「だってさ、大切な君と同じこと考えてたんだなって思ったら、嬉しくなっちゃうじゃん」


 時間が、止まったかと思った。
 あぁもう、これだからずるいって思っちゃうのに。

「恥ずかしいこと言わせないでよ! ほら、早く飾りに行こう?」

 自分で言ってても恥ずかしくなったのか、ごまかすように話題を変えようとたくさんの願いの飾られた笹へと視線を移した。私もそれに倣うように、藍色の短冊を握りしめながらどこに飾ろうかと視線を泳がせる。
 たくさんの人の思いを乗せた笹が、風に揺られながら次の願いを乗せるべくそこに鎮座している。堂々と伸びたそれを眺めていると、視線を感じた。

「どこに飾るの?」
「えっ、どうしようかなって……菫さんは?」
「僕? そうだなぁ……」

 君の隣がいいなぁ。
 呟いたそれに、思わず驚いた。どうして? と聞こうとしたけれど、どうやら私の顔にはそれが書いてあったらしい。だってさ、と続けた言葉に、私は――。


「隣同士にしておいたら、きっとこのお願いも叶えられそうな気がするから、さ」


 言葉にしないと叶わないとはわかっている。
 こんな紙で叶う願い事なんて、信じるか信じないかの問題なのだって、わかっている。
 だけど、だけどね。

――あなたも願ってくれるこの未来を、一緒に信じさせてくれてもいいんだって、思ってもいいの?

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