The only time for you -page 3-
\シチュエーションボイス動画
【Members only】Oyasumi
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こちらのボイスの台本を作成させていただきました。
※こちらは三ツ夜藤様のメンバーシップ限定動画となっています。内容を聞きたい場合はメンバーシップへの加入をお願いいたします。
以下、ボイスの小説版になります。
なお、こちらの小説は単体でもお楽しみいただけます。
!注意!
これはあくまで一つの解釈になります。
皆さんの考えるシチュエーションと異なる場合もありますが、ご自身の解釈を大事にしてくださいね。
時刻はもうそろそろ日付が変わろうとしている、そんなころだった。
「藤君、まだ寝ないの?」
一つあくびをして、そろそろ寝ようかと思ったのに、目の前の彼といえば黙々とパソコンの前で何かとにらめっこしている。私は彼のやっていることはわからないからもちろん首を突っ込むことはできないけれど、夜な夜な深夜まで作業をしているのを知っている私は、ここ最近ずっと寝るのが遅いことだけは知っていた。
「あぁ……いい時間だねぇ」
私の言葉を聞いてから時計を見やって、のんびりした声で呟く。彼の言う通り、もうそろそろ寝てもおかしくない時間なのだ。というか普通だったら寝てる時間だし、彼も明日は普通に朝から仕事なのだから、こんな夜中の間仕事をするのはいただけないと思う。
「君も明日は忙しいでしょう? そろそろ寝る?」
「私は……そろそろ寝るけど……」
私といえばもう眠気がすぐそこまで来ているわけで。今布団に入ったらすぐにでも眠れそうなくらいの眠気がすぐそこまでやってきていて、だからこうやって彼に声をかけているのに。当の本人といえば、眠そうな私の様子を見て早く寝たほうがいいよ、と声をかけてきた。
「藤君は寝ないのかなって」
「僕? 僕はそうだなぁ……」
ちらりとパソコンの画面に目をやってから、ちょっと苦笑交じりにまだかな、と続ける。
「まだもう少し仕事残ってるから。それが終わったら寝ようかなって思ってるよ」
「そう……」
本当は一緒に行きたいのに、それを上手く言葉にできなくてもどかしい時間が流れていく。彼は私を少し見やってから、少しだけ首をかしげた。その目線は寝ないのかと急かしているように見えて、そんな視線に不満な表情を浮かべた。
最近ずっと寝るの遅いんだから、たまには早く寝たっていいじゃない。
たったその一言だけを言えばいいのに、それを言えないのは彼が努力していることを誰よりも知っているから。だからこそその言葉を言うのに躊躇いが出てしまうのだ。
「僕のことは気にしなくて大丈夫だよ?」
少しだけ困ったような顔を見せた彼に首を横に振るが、殺し切れなかった欠伸がくぁ、と出てしまったのが最後、彼はもっと困ったように眉を下げる。
「ほら、あくびも出てるしさ。眠いなら早く寝ちゃったほうがいいって」
「でも……」
「ほらほら」
ようやくパソコン前から離れたかと思えば、私の背中を寝室の方へと押していく。あの様子だとまた深夜遅くまで仕事や作業をするのだろう。止めたいのにそれを許してくれない彼の空気感が、私の言葉を遮るのだ。
「もう……わかったわよ」
だから今日も、こうやって私が折れなくちゃいけない。本当は彼の方が早く寝るべきなのに、と文句ひとつ言えないのは、私が一歩踏み出せないからだろうか。
どこか壁を感じながらも、それでも彼の仕事の邪魔をするわけにもいかないからリビングに彼を残し、今日も一人寝室の方へと向かっていく。
――一緒に寝たいなんて、私は一体いつになったら言えるんだろう。
悶々とする時間が続いている。一人寝室に戻ったはいいけれど、あんなことを言われてすぐに寝れるほど私は寝つきのいい人じゃない。
布団に入ったはいいけれど、さっきまであった眠気はいつの間にかどっかにいってしまって、すっかり冴えてしまった頭は先ほどの彼の様子を思い出してしまい、どんどんと眠れなくなっていく。
大体、彼が無理をしていないのか心配なだけなのだ。
いつ寝てるのかもわからないし、私が仕事でいない間に寝ているというけれどそれが本当かどうかすら怪しい所もある。疑惑を残したまま眠ることもできず、布団の中でゴロゴロと何度も寝返りを打っては眠気がやってくるのを待つことしかできなかった。
「無理しないでほしいのに……」
漏れた本音は彼の耳に届くことはない。代わりにため息がどんどん出てくるのが嫌になってきて、その気持ちをごまかす様に目をつぶる。
彼は今、何をしているんだろう。
考えないようにすればするほど、そのことばかりが頭をよぎってしまうから。
「あぁもう……」
こんなんじゃいつまでたっても眠れやしない。
――彼が来てくれればいいのに。
そんなことを口走りそうになったその時、不意に寝室のドアが開く音が耳をかすめる。驚いてしまって寝たふりをしようと思ったのにそれもできなくて、気づけば彼は布団の近くまで来てしまっていた。
「さてそろそろ寝ようかな……あれ?」
布団の中で悶々としている私を見つけて、思わず少しだけ上ずった声が布団越しに聞こえる。さっきまであんなに眠そうにしていたのに起きていることに驚いたのだろう、彼は少し目を見開いてから、いつもの声色でどうしたのと問いかける。
「先に寝てていいって言ったのに」
「だって……」
眠れなかったのは事実だ。あなたのことを想って寝れなかった、とぽつりと聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いてみると、布団越しに含んだ笑い声が聞こえてきた。
「そんなに僕と寝たかったの?」
「……そうよ、悪い?」
こうなったらもうありのままを伝えよう。それで彼が困るのなら、もう少し寝る時間とか考えてくれるかもしれないし。
「そうよ。ここ最近ずっと忙しそうにしてたし、ほんとは一緒に寝たかったのに全然気づいてくれないし」
「そっかぁ……」
ちょっと困ったかな、と思ったのに今度はうれしそうな笑い声が聞こえてくるからむっとしてしまった。
「何よ、何で笑ってるの?」
「いやぁ、可愛いなぁって思って」
「かわっ……!」
この人は、一体何を言っているんだ。こっちはあなたの体調を心配しているというのに!
思わず布団から顔を出してみると、嬉しそうに私のことを見つめていて、目が合った瞬間、黄金色の瞳がふにゃりと嬉しそうに垂れて微笑んだ。
「ほら、そういう反応も可愛い」
「なんでそういうこと平気で言えるのよ……」
普段は恥ずかしがるくせに、こういう時ばっかりあっけらかんと言ってのけるから、不意打ちには心臓が持たない。それを知ってか知らずかきょとんとした顔でこちらを見てくる彼の視線が恥ずかしくて、思わず布団をかぶりなおした。
「あっ、ちょっと隠さないでよ」
慌てて布団をはぎ取ろうとするのをぐっとこらえる。お互い小さな攻防を繰り広げているけれど、ここが彼の寝る場所だということを思い出して、折れたのは私の方だった。
「もう……そういう恥ずかしいことは急に言わないでよ」
「ごめんごめん。つい反応が可愛くて」
「またそういうこという」
私の気も知らないで。
言いかけた言葉は形になることなく、代わりに入ってきた彼の体温に先ほどまでにはなかった体温が布団の中に現れ、さっきとはまた違う緊張が私の中を走った。
最近一緒に寝ることがなかっただけに、この緊張感は新鮮になってしまって。照れてる姿を見られたくなくて入ってきた彼に思わず背を向けた。
「あっ、ちょっと。なんでそっちむいちゃうの」
今度聞こえるのは彼の不満そうな声。そりゃ恥ずかしいからに決まってるじゃない、と言いかけるけれどそれを言ってしまったら見せてほしいと言われること間違いない。最後のあがきと言わんばかりに振り向いてほしそうにちょっかいをかけてくる彼の言葉を縮こまって聞こえないふりをした。
さっきまであんなに一緒にいたいと思っていたのに、いざ一緒に寝れるとなるとこんなにも強情になってしまう。我ながらわがままなものだと苦笑いしそうにもなる。
「せっかくかわいい顔してるんだから見せてくれたっていいじゃない」
「可愛い顔なんてしてないもん」
強いて言うなら、わがままな顔だ。そんな顔を彼に見せたいわけじゃない。だからと言って困らせたいわけでもないから、なおのことこの顔を見せるわけにもいかない。
自分とは異なる体温が同じ布団の中にあることにドキドキが止まらない。眠気はさっきからなかったけれど、これはこれで今度は眠れなくなってしまいそうだ。
しばらく背中を向けていると、さっきまでの気配が遠のいていく。諦めたのかと思ってほっと一息つこうとした、その刹那。
「っ……!?」
突然の出来事に息が、止まったかと思った。
背後から感じる、自分とは全く異なる温もりの気配。その温もりの主は耳元でくすりと笑いながら、捕まえた、と甘い声で囁いてくる。
「これで、もう逃げられないね」
イタズラが成功したことを嬉しそうに囁く彼の表情など、振り返らなくたってわかる。それに何より、今の私の顔を彼に見られたくなくて囲われた腕の中から出ようともがくけれど、彼の力に私が勝てるわけもなく、暴れる私が落ち着いたのを見るや再び背後から笑い声が聞こえてきた。
「耳まで真っ赤だ」
「ぅ……るさい……」
「顔隠しててもわかるもんね」
「そういう藤君だって、ほんとに楽しそうね。見なくても分かるわ……」
こうなったらもう、何もできやしない。むしろ私が何かをすればその分だけ彼の思うつぼな気がして、下手なことを言うことすら出来ない。恥ずかしくて振り向くことも出来ず、だからといってこの腕を振りほどくことも出来ない。
――だって、ずっと欲しかった温もりが、そこにはあるから。
「ふぁぁ……」
どれくらいの間、抱きしめられていたのだろう。ドキドキとうるさいくらいの心臓のせいで時間の感覚などとうの昔にどこかへ行ってしまった私の耳を掠めたのは、先程まで私が繰り返ししていたあくびが、彼の眠気をふわふわと誘ってきている。
「ねむい?」
「んー……抱きしめて君の体温を感じてたら、眠くなってきちゃったなぁ……」
眠気が声色にまで乗っている。どうやら本当に眠気の限界まで来ているようだ。思えばだけど本当は私になんて構っていないでそのまま早く寝て欲しかったのに、私がその睡眠を妨げているのではないかと思っていると、ふと抱きしめる力が少し強くなる。
「君はあったかいからなぁ……」
「藤君が冷たいだけじゃない?」
「そんなことないよ……それに、安心するしね」
うとうとと、徐々に睡魔に負けそうになっている彼を、不覚にも可愛いと思ってしまう。振り向くのは恥ずかしくてできないけれど、代わりにと抱きしめられている手にそっと触れると、嬉しそうな笑い声が耳元を掠める。しかしそれはすぐに眠たげな声へと変わった。
「君の可愛い反応も見られたし……明日も、あるし……」
そろそろ、寝よっか。
「そうね……藤君も眠いだろうし」
「んー……」
ほら、彼につられて私も段々と眠くなってきた。人の体温は本当に心地よく、ここ最近じゃ一番よく眠れそう、と瞼を少しずつ閉じていく。
明日も仕事、彼もカフェを朝から開くのだ。
「おやすみなさい」
今日という日の終わりを告げる言葉を呟く。きっともう聞こえてないんでしょうけど、と思って私も彼に着いていくように眠りの世界へ旅立とう。
あぁ、いい夢が見られそうね。と心地よい眠気に身を任せようーーと、思ったのに。
「――おやすみ。可愛い人」
「っ……!!」
最後に爆弾を落としてきた彼の言葉に、言葉を失った。ついでにせっかく来ていた眠気も吹っ飛んでいく。
当の本人といえばすやすやと耳元から聞こえる寝息が先に夢の世界へ旅だったことを告げており、私は一人、現実の世界で取り残されてしまった。
ああもう、この人は!
朝起きたら絶対文句を言ってやる。
普段から飄々としていて、たくさんの常連さんたちと談笑をしている彼の、知られざる一面。
こんなイタズラ好きで意地悪で、それでも様になってしまう彼のことを知るのは、きっと世界で私だけ。
「……ずるいんだから」
本日何度目になるか分からない悪態をついて、この後訪れる次の眠気までどうしたものかと頭を悩ませるのは、また別のお話。
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