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『lacecap hydrangea』作品解説


まず初めに、先日のnoteにも書きましたが、コレクション概要をもう一度書かせていただきます。


『Dignified like a flower』-花のように凛として-コレクション

私の『花凛』という名は『いつか凛とした花になりたい』と思いつけたものです。
コレクションの説明文にありますが、私の感性は祖母に育てられたものです。
父はとても厳格な人で、私に勉強を強要し、絵を描くことを許してくれませんでした。
祖母は花が好きで、いつも玄関に花を飾っていました。
ある日、玄関の花が変わっていることに気づかない私に祖母が言いました。
「いますぐ見てきなさい」と。
そして、私がその花を見に行くと、祖母はこう言ったのです。
「どんなに忙しくても、花が咲いていることに気づける人になりなさい」
その言葉を聞いてはっとしました。
それ以来、花が咲いていること、虫が飛んでいること、空の色…さまざまな小さな変化を意識して生活するようになりました。
世の中にどんなに美しいものがあっても、それに気付こうとしなければ何もないのと同じです。
だからいつも「目を見開いていれば世界はとても美しい」ということを、私は心に留めています。
祖母は生花の師範の免状を持っていて本当に花が大好きな人でした。
私は高校生の時から、毎年母の日と祖母の誕生日に祖母に花を贈っていました。
3年前に祖母が他界するまでの約20年間、40を超える花束・アレンジを贈ったことになります。
今年は紫、今年は白系、今年は明るく…と毎年花屋さんと相談するのが楽しかったです。
祖母が他界した時のお花の手配も私がしました。
6月18日が祖母の誕生日、7月2日が祖母の命日なので
今月はとにかくこのコレクションに力を注ぎたいと思っています。


6月18日、祖母の誕生日にと思って描いたのは『ガクアジサイ』です。
紫陽花とはまた違う姿が大好きなお花で、これも実家の庭に咲いていました。
祖母はとてもハイカラで、「町で一番最初にハイヒールを履いたのよ」と笑う可愛い人でした。
私は祖母とともに時代劇や昭和歌謡の番組を見て、映画のビデオを見て育ちました。
父にドラマやTVでの映画の放送を見るのは禁止されていましたが、祖母と一緒に見るものは許されていたので、ずっと一緒に見ていました。
祖母が擦り切れるほど見ていた小津安二郎映画は台詞をほぼ覚えていたりします。

祖母が好きだった映画の一つにオードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』があります。小学3年生くらいでしょうか、初めて見た私は映画の最後がとても悲しくてわんわん泣いてしまいました。大人になってみると、微笑んで見ていた祖母の気持ちがわかります。
町娘になった王女の一日の恋。でも、日常に戻らなければならない。
切ないけれど、どうしようもないことはある。

祖母は94歳まですこぶる元気でした。脳梗塞になって入院してから徐々に体が弱って要介護になり、認知症にもなりました。
覚悟はしていたつもりでしたが、初めて「あなた誰だっけ?」と言われた時は言葉に詰まったのを覚えています。
最期が近づくにつれ、好きだった映画も全部忘れてしまいました。
その中で、とても印象的だったことがあります。
100歳になった祖母がかつて大好きだった小津安二郎監督の『秋刀魚の味』を見た時、役者さんのことも全て忘れていたのに、昔好きで何度も何度もビデオテープを巻き戻して見ていたお気に入りのシーンが終わった時、「今の所、とっても良いね。良い映画だわあ」と言ったんです。
好きなものって永遠に変わらないんだなあと思いました。

祖母は101歳の誕生日を迎えて、その後2週間程で旅立ちました。
札幌では紫陽花は夏の花というイメージなのですが、この時期になると本州の皆さんの紫陽花の写真が流れてくるので、今は『紫陽花の時期』という感覚があります。なのでガクアジサイをテーマにしました。


額の中で綺麗に咲く、花が少しだけ外に出ているのはあの日があったから。
思い出と鍵を持って、純白のドレスに身を包む。
左の薬指に留まるのはモンシロチョウ。
額の中の鳥は飛んでいきない。


「ヘプバーンのウエストは50cmしかなかったのよ」と得意げに笑っていたおばあちゃんに、綺麗と言ってもらえたらいいな。



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