怪しい世界の住人〈天狗〉第七話「木の葉天狗など」
⑤ 木の葉天狗
これは年老いた狼がなる天狗だそうです。天狗としての身分は低いそうで不思議な術などは使えません。静岡の大井川に〈木の葉天狗〉の伝説が残ります。
その伝説は『諸国里人談』と言う本の中にある境鳥と呼ばれる天狗で、顔は人に似て正面に目があったそうです。
その文章を現代訳すると、
——駿河の国と遠江の国の境にある、大井川に天狗を見ることがある。真っ暗な闇夜の深夜に、密かに土手堤に忍び込んで川面を伺い見ると、鳶のような感じだが、羽の大きさが2メートルばかりある人に似た大きな鳥のようなものが、川面にたくさん飛んで来て、上り下りして魚を取ると言う。もし、人の音でもすれば、たちまちに怖れて逃げ去ってしまう。これは俗に言う、術を持たない木の葉天狗などと言う天狗の類であろう。
翼を広げるとその幅は約2メートルくらいもあり、人と同じような姿や大きさで嘴を持っていて、新月の夜更けに川面を飛び交い魚を取って食べたそうです。
これは二十一世紀に入っても未だ未発見の奇妙な生き物でなければ天狗としか思いようがありません。
有名な『甲子夜話』には、静岡の源左衛門と言う人が七歳の頃に天狗にさらわれたとされる体験談があり、その中に木の葉天狗の名がみられます。その体験談では、木の葉天狗は白狼とも呼ばれていて、老いた狼が天狗になったものとされています。
彼ら木の葉天狗は山で切ったマキを売ったり登山者の荷物を背負ったりして、他の天狗たちが物を買うためのお金を稼いでいます。この木の葉天狗は、天狗界の下僕の扱いとなっていて、多くの天狗たちの中でもひときわ低い身分の存在であると伝わっています。
山口県の岩国あたりの怪談を収集した書物に『岩邑怪談録』があります。その中には、木の葉天狗が人をからかう話が載せられています。
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