播磨陰陽師の独り言・第429話「馬の年越しや鷽替え神事のこと」
正月六日は〈馬の年越し〉。〈神の年越し〉あるいは〈女の年越し〉や〈蟹年取り〉などと言う地方もあります。この日の夜は大晦日に似た感じで、麦飯を食べ、沢蟹を茅の串に刺して戸口に挟んだり、〈蘇民将来〉と書いた札を戸口に張り、あるいは、柊などの木の枝を戸口に差したりしました。大晦日に追儺をしたのと同じですね。また、この日を〈蟹の年取り〉と呼んで、蟹を食べ、鋏を戸口に差して魔除けとする地方もあります。
この夜に、翌日の七草粥に入れる七草をまな板に載せ、神棚の前で包丁の背で叩きながら、
——七草なずな、唐土の鳥と日の本の鳥と、渡らぬ先に……。
などと唱え、明日七日の朝に粥に炊いて食べたとも言います。
唐土の云々は、鳥インフルエンザにならないように、あるいは、わが国にもたらされないようにとの願いが込められていました。
正月七日は鷽替え神事です。大阪天満宮の鷽替え神事は二十五日ですが、太宰府では正月七日です。
——道真公が太宰府へ下向の翌年、延喜ニ年(西暦902年)正月七日のこと。
と由緒に書いてありますので、元々七日だったそうです。
鷽替え神事には次のような言われがあります。
——正月七日に道真公が祓いを行なおうとしたことがありました。にわかに現れた大量の蜂が参列者を襲ったのです。
「邪魔されてなるか」
と、道真公は必死で祓いました。その時、はるか遠くの空から鷽と呼ばれる鳥の大群が飛来して、あっと言う間に蜂を食べ尽くしてしまいました。
この祓いでは口笛のような音を使います。これを〈嘘吹き〉と呼びます。鷽の鳴き声は口笛に似ています。だから呼ばれたと思って来たのかも知れません。嘘吹きにより本物の鷽が飛んできて助かった訳です。
やがて、この出来事を記念して、お祭りに木鷽を授与し、嘘が真になると称し、
「かえましょ、かえましょ」
と囃し立てて、その日を祝うことになりました。
そして、正月七日の朝と言えば七草粥です。皆さん、七草を言えますか?
——セリ・ナズナ、五行はこべら仏の座、スズナ・スズシロ。
ちょっと皆さんが知っているのとは違うかも知れません。ゴギョウは〈御形〉と書くのが一般的です。しかし、この文章では〈五行〉となっています。これは陰陽五行の五行のことも意味しています。
江戸時代に書かれた『難波鑑』の中に七草のことが書いてありました。
それによると、
——七草の若菜を粥にして食べる理由は、人には三魂七魄と呼ぶ魂があるからである。天に七曜として現れ、地に七草となる。これを採って服すれば、魂魄の気力を増し、命が伸びると伝わる。古代中国の宋の時代にはじまった風習である。
とのことです。皆さん、今年の七日は忘れずに七草粥を食べましょう。
本日も夜九時からクラブハウスで配信と質問コーナーがあります。
次回は次回のクラブハウスの配信は一月七日夜九時「正月事納め」です。朗読とそれに続く質問コーナーは『陰陽師の嫁/W&M Club』で聞くことが出来ます。もちろん参加して質問することも出来ます。お楽しみに……。
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