見出し画像

播磨陰陽師の独り言・第二百七十九話「ゲーム用人工知能」

 ゲームの開発をしていた頃、いつも、
——何とかして、プレイごとにゲームの内容を変えられないものかな?
 と考えていました。寝ても覚めても考えていました。今から三十年以上も前のこと、AIの基本的な理論もなく、ツールもない時代の話です。
 そこで私は考えました。
——出現出来る敵キャラの数内で、戦略的なチームを作り、倒された順番で次に出現するチームを変えてみてはどうか?
 と。
 つまりはこうです。敵のキャラクターの出現数は決まっています。無限に出る……と言う訳には行きません。しかも弾丸や手榴弾の数まで含めての敵キャラクターの数が決まっているのです。キャラクターの数が決まっていると言うことは、誰も死ななければ、次の敵は出て来ないと言うことになります。ここで誰かが死亡すると、すぐ近くに設定された敵キャラクターが出現することとなります。
 敵キャラクターをグループ化して設定しておけば、倒されたグループによって、次の攻撃が異なることになります。それに必要な行動は、三人一と組で仲間がふたり倒されたら、残りのひとりは逃げるようにすることでした。ゲームの難易度……つまり強さは、逃げる条件で設定出来ます。たとえば、敵キャラクターは全滅するまで誰も逃げないとか、最初のひとりが攻撃されたら、すぐに全員逃げるとかの要素で設定出来たのです。これは現実の戦場でも言えることです。チームの性格によって戦いに対する姿勢も違います。それを考えて、戦略データを作り込みました。
 そうやって作った敵の行動データ……シークェンスと言いますが……は成功でした。何度かプレイするたびに、敵の動きが変わるのです。もちろん基本的な部分は変わりません。ここを変えないのがポイントでした。ここを変えてしまうと、プレイヤーはゲームについて来れなくなります。
 この作り方を、当時、説明しましたが、誰にも理解出来ませんでした。他社が共同開発のようなことになって、絵を変えた別なゲームを作りましたが、ゲームのシークェンスだけは理解出来なくて、そのままコピーして開発したそうです。まだ、インターネットもない時代のお話でした。かくして、おそらく世界最初の業務用ゲームの人工知能のようなものを私は開発したのでした。しかも、プログラムではなく、データで動くような知能を搭載したゲームは、売れに売れました。これが『怒IKARI』と言うゲームの面白かったところです。

*  *  *

いいなと思ったら応援しよう!