近世百物語・第四十六夜「壊れてゆく機械」
以前、原因不明の病気で入院していた頃のことです。看護師の持っている医療用携帯端末の通信が頻繁に切れることがありました。心電図のデータとかを送る信号です。
看護師はいつも私のそばで、
「また、データを送ることが出来ない」
と嘆いていました。
何回かメーカーの技術者が調査に来ました。それでも原因は分からなかったらしく、ある日、機材を抱えた技術者が何人もやって来ました。そして、私のベッドのまわりの電波の受信状況を丹念に計測してゆきました。
その結果、
「原因は不明ですが、院内でこの場所だけが受信感度50パーセント以下に落ちます」
と言いました。
その場所に寝ている私は、
「不思議なこともあるものですねぇ」
と、だけ答えて苦笑いしました。技術者も首を傾げていました。こう言うことは良くあります。
そう言えば、病室のテレビのリモコンがきかなくなったり、突然、音声が小さくなったりし続けていました。そんなことは、あまり気にしていませんでした。私のまわりで起きる不可思議な現象を、いちいち気にしていてはキリがありません。
——常に機械は誤動作するものだ。
と、いつも思っていましたから、その内、慣れてくるのです。
以前、京都の老舗料亭でご飯を食べている時、私の座っている場所の上の蛍光灯だけが、点滅し、とうとう消えてしまったこともあります。
店側は、
「蛍光灯は新しいものです」
と、慌てて説明していましたが、果たして何の所為やら分かりません。
私は、このようなことでは困りません。しかし時々困るのは、自動ドアが作動しない時です。調子が悪いと、電車の自動改札や、各建物のドアが反応しなくなります。すると、どこからも締め出しをくったような状態になるのです。誤動作するならまだ良い方です。ドアを通っている最中に自動で閉まるとか、そもそも反応せず開かないと言ったことがしばしばあります。どこへも行けなくなるのです。しかも気にしておかないと、自動ドアのガラスに頭をぶつけます。自動ドアに頭をぶつける人なんて珍しいことではないかなぁ。
当然、駅の自動改札もキップが反応せず出入り出来なくなります。買ったばかりの定期が反応しなくなって焦ったこともあります。
それとは逆に、解除キーが必要な筈の場所が適当に開いたりすることもあります。この時は少し便利です。
以前、警報装置の展示会に行った時もそうでした。テストでいじったセンサーが、まったく無反応だったので担当者が焦っていました。とは言うものの、私に関わったすべての機械が誤動作するとか、壊れると言った訳ではありません。どう言った法則があるのかは分かりませんが、壊れない種類の機械もいくつか持っています。
近世百物語・第十三話でも触れましたが、以前、京都のマンションに住んでいた時、鬼門に玄関がありました。玄関はセンサーで照明がオンになる種類のものでした。私は、当時、ひとり暮らしでした。夜中に誰もいないのに、突然、明かりがつくのです。それも、決まって深夜の二時頃にです。盆が近くなると、明かりがつく回数そのものが増えるのでした。
いつだったか、盆近くの夜中にも明かりがついたことがありました。玄関を見ると、半透明の黒い人影が見えました。その人影は少しも動きません。しかし、輪郭がもやもやと動いていたのです。
その夜、私はとても眠かったので、ムカついて祓ってしまいました。柏手を打って祭文を唱えると、やがて人影は消えました。眠い時に霊的なものに出会うとなぜかムカつきます。
それから、しばらくの間は明かりがつくことはありませんでした。それは、せいぜい一ヶ月くらいのことで、また、夜中につくようになりました。
さて、私の使っているパソコンは節分を過ぎると壊れる傾向があります。これには、毎年、節分の前に完全なバックアップを取って対応しています。
これは、
——すでに分かっていることには前々から対応しておけば良い。
と言うことです。
備えあれば常に憂いなしですね。普段からバックアップは欠かせません。作業して保存を忘れるなど、もってのほかです。もちろん、パスワードの管理も忘れたことはありません。世の中には、そんな簡単なことを忘れて、右往左往する人が多いです。
パソコンに不都合が生じるのは、使う側の不注意によるものです。そうならないように注意したいものです。
パソコンなどの電子機器には、心臓部に水晶発信子と呼ばれる部品が使われています。この部品は名前の通り水晶で出来ていて、音叉の形をしています。そこに5ボルトの電流が流れると安定した信号を出し、それがパソコンのクロックを決定しています。この部品からの信号が不安定になった時、パソコンはフリーズしたり誤動作します。つまり、この水晶にノイズを与えられる人がパソコンを壊すのです。忙しくて焦っている人は、特にノイズを出します。それでパソコンが壊れる訳です。
——水晶の持っている周波数は人の脳波に近い。
と言う都市伝説があります。
本当かどうかは分かりません。この伝説に基づいて、世の中では占いに水晶玉が使われています。
感情が不安定になると、水晶に悪影響があります。それがパソコンの内部の部品であっても悪影響は作用します。つまり感情のエネルギーが強く不安定な状態は、パソコンにとっては、ただのノイズに過ぎないのです。もちろん、安定していても必要以上に強ければ機械が誤動作します。物には、いづれにしろ限度と言うものがあるのです。
昔はこの部品がとても弱く、近くでバイクが走っても誤動作の原因となりました。ゲームセンターのまわりを暴走族のバイクが走ると途端に誤動作したものです。今はシールドが発達したので強くなりました。しかしシールドを掻い潜って誤動作させる個性を持つ人も少なくありません。ただしこれは個性ですので、良いとか悪いとか言った種類の問題ではありません。人の感情に流されて誤動作するようなパソコンを設計するメーカーの方がどうかしているのです。パソコンが壊れやすい方は、つとめて冷静に対応してください。そして、もし誤動作が続くようでしたら、パソコンを停止して、しばらく自分も休憩し、その後、再起動してください。
傾向から言うと、MacよりWindowsの方が影響を受けやすいです。また、iPadよりAndroidの方がノイズに弱いです。私はMacやiPadを壊したことはありませんが、Windowsは、何度、壊れたか……。
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