怪しい世界の住人〈天狗〉第二話「天狗なるものは」
【天狗は災いの魔物】
天狗は魔物であると言います。江戸時代に書かれた『護法資治論』の中に、
――世に言う、天狗なるものは災禍を司る魔物である。
と書かれています。
星まわりによる厄の類、つまり、運命を司る星のめぐりが悪いから災いが起きるとされていました。人の運命は星まわりで決まると考えれていたのです。そのことを〈天狗星〉と呼んでいました。しかし、本当の天狗は、天狗星と呼ぶ現象とは違うものだとこの本にも書いてありました。天狗と呼ばれるものには、たくさんの種類があります。それらをひとつにして考えると間違いの元となります。
続いて『護法資治論』の中に、この本の著者が『地蔵経』と言う本を読んだ時のことが書かれています。
それによると、
――こちらの中に、天龍・夜叉・天狗・土公神などを拝むと書かれていることからも、天狗は一種の鬼神であると思う。
著者が天狗の説を読み、地蔵経も読んでみたが、まったくその通りだと思ったと感想を述べています。
地蔵経は『仏説延命地蔵菩薩経』と言う長いタイトルの本です。今では偽書と言われています。偽書かどうかは別として、天狗は山鬼の一種であることだけは確かなようです。ここでは天龍・夜叉・天狗・土公神が一緒にされています。天龍は、いわゆる龍神のことで、仏教的な表現です。
夜叉は鬼神のひとつで、やはり仏教に出てくるものです。それと同列で天狗と土公神が書かれています。
土公神は陰陽道の神のひとつです。土公神の漢字は〈どくじん〉とか〈どこうじん〉と読みます。陰陽道で説く遊行神のひとつです。
土公神は、春は竃にいて、夏は門に、秋は井戸に、冬は庭にいると言われる神です。その期間に、その場所を犯すと何かの祟りがあるとも伝わります。別名、つちぎみ・どこう・どくう・どっく・土の神・土神・地神と呼ばれています。
【天狗に会った僧侶の話】
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