鶴田根子、エピソード0(A piece of Fake)
『またね』とか『行けたら行く』は絶対に次は無い言葉だと思っている。
他人に期待するだけ無駄、そう思い昔から過ごしてきた。
そうすれば失望感を感じる事も、裏切られたと思うこともない、信用と信じるって言葉は全部捨ててきたんだ、捨ててきた筈なのに...
目の前で、無表情でただ黙って座っている男が私にこう言ったんだ。
『その手はなんの為にあるんだ?』って、正直なんの事だかわからなかったが、その自信に満ちた言葉は今でも忘れない。
「欲しいものを掴むため」私は思ってもない事を口走っていた、欲しいものなんて考えた事も無かったのに。
「そうだ、それでいい」
男は不気味にニヤリと笑い、続けて私にこう言った『お前の望むものできるだけ揃えてやる、だから、ここに居ればいい』
男は私に『ここに居ろと』は言わなかった。
『居ればいい』と『嫌ならまた何処かに行けばいい』とそれくらいが私には合っている、だから私はネコなんだ。
それからの私はただただ無心にキーボードを叩きパソコンの画面を見つめる日々を過ごしていた。
ハッキングとクラッキングは似ているようで違う、私が得意とするのは書き換え、再構築、どうせやるなら自分の過去も未来もクラッキングしてみたい。
今の私にならもしかしたらできるかもしれないがそれができないでいた、その残っている足枷が今の私の原動力なのだ。
「欲しいものは見つかったか?」
ある日、男は私にこう聞いてきた。
「いや、まだ」
「金か?名誉か?なんなら仕事だっていいさお前の生きる理由がそこにあればいいんだ」
「私は私であればそれでいい、生きる理由なんて考えた事も無い」
「そうか、じゃあ、いつ死んでも良いんだな」
「それは、、」
口籠る私に男は重ねてこういった
『俺はまだ死ねないよ』と。
やっぱりこの人も同じ人間なんだ他人に興味ないふりして影ではじっと静かに見ている、そんな人間なんだ、私よりもずっと人間らしいじゃないか、すごく自分が惨めにさえ思えてきた。
「いいんだよ、お前はそれで、、」
あぁ...そうか...
赤く燃える炎を見つめ私は思う
私の欲しいものはお金でも名誉でもない、居場所だったんだって。