黒原朱子、エピソード0(A piece of Fake)
「朱子君知ってるかい、三色団子ってのはピンクが春、白が冬、緑は夏を差していて秋が無くて、飽きが来ないって意味で縁起のいい食べ物って言われてるんだよ」
私の隣で、団子を子供のように頬張る先生はいつものように唐突にくだらない話を始める。
この人は本当、子供のように危なっかしい、気づいたら擦り傷を作っているし、せっかく一晩かけて直した服も次のに日はほつれていたり。
「朱子君ごめんね」
ほら、またこの一言で全部無かった事になっちゃうんだな、本当ズルいなって思う。
今日も特に何をしようというわけでもなく「朱子君、ちょっと出かけようよ」と書斎に籠って調べ物をしていた私を連れ出してくれた。
「朱子君はさ、もうちょっと、外に目を向けてみるのも必要だと思うんだよね、ほら、今なんて何でも簡単に調べられちゃうんだからさ、ほら、この桜もさ」
私はただ相槌を打つだけで独りでどんどんと先に行ってしまう。
先生の言う調べられちゃうと言うのはネットとか、パソコンとか、もう何が何だかわからないもので、連絡取りずらいからという理由で支給された携帯電話も最近やっと、電話と写真の撮り方を覚えた程だ。
探偵業も未経験だったにも関わらずなぜ今こうして先生と探偵業をしているのか、自分でも不思議な位で、私はただ、誰かの為になりたかったから、自分一人じゃ何もできなかった事も先生と一緒ならなんだか思っていたよりも簡単に思えてしまう、そんな魔法みたいなものがこの人にはあるんじゃないのかなと思う。
「ほら、朱子君も食べなよ、無くなっちゃうよ?」
そんな私の思考をすっ飛ばすかのように目の前に団子を差し出される。
「花より団子って言葉は先生の為にあるようなものですよね」
「え?」
「何でもないですよ、頂きます」
こんな感じにいつも私の不安や、困惑は簡単にいとも簡単に払拭されるのだ。
「朱子君、この間の児玉さん宅の窃盗事件の件だけどさ」
ほら、また唐突に話が変わる、けど、こんな日常も悪くないし、私は嫌いではない。
また来年も再来年も、同じような日々が続くといいな。
この飽きが来ない三色団子と同じように、いつまでも変わることのない桜並木道を歩きながら、そう思うのだ。
今年もまた、桜が満開です。