【小説】REVEALS #9

北川天馬のACT

「会場の皆さん、ソーシャルディスタンス保ってますか?インターネットの生中継を見ている人達も是非参加してくださいね。」

さすが天馬さん、軽快なトークで会場の空気を温めた。
視聴者のことも忘れずに話しかけて参加を促している。
この気遣いがこの勝負には重要なのだ。

「今回はトランプを持っていない人でも参加できるようなものをやってみたいと思います。」

「私はここでトランプを使いますが、会場の皆さんや、モニターの前の皆さんは、紙とペンを用意してください。」

なるほど、簡単に参加できるようにして、参加者を増やす作戦をとったんだ。会場にいる人は紙とペンが無いか鞄の中をゴソゴソと探し始めた。

「これで準備は整いました。皆さんは準備は宜しいでしょうか?」

「では、是非スマホで撮影しながら参加して下さい。」

「それと、この会場にいる人でカードを一枚選んでいただきたいのですが、ご協力いただけますか?」

一斉に手が上がった。やはりすごい人気だ。中から女性が一人選ばれると、他の人たちは「あぁ」と、落胆のため息が漏れた。みんな狙っていたようだ。40歳くらいの女性のお客さんが選ばれた。中央よりややステージの手前あたりの席だ。

「いつもなら、ここでステージに上がってもらうのですが、今日は僕が伺いたいと思います。」

女性はステージに上がれず残念そうな顔をしていた。コロナ対策で観客席の間隔が2mとかなり空いている。通路としては広くて良い。まばらな客席に北川天馬が降りていく。軽い足取りで、マイクを持ってそのお客さんの方に向かっていく。カメラが移動する天馬の姿を追う。巨大モニターがその様子を映し出す。

「それでは始めたいと思います。この新品のトランプを使います。」

新品のトランプのビニールを外し、外箱のシールを爪で裂き、封を開けた。ズームし過ぎたカメラが天馬の動きについていけず、一瞬手元のカードがフレームアウトしてしまう。

「お客さんに選んでもらう前に、私はこの中から一枚、予言のカードを抜き取って、私がサインをしておきます。それを、この封筒に入れておきます。」

そう言って、カードを広げ、一枚選取り出すとカメラに裏向きのまま見せた。そのカードを封筒に入れ、封をした。それを客席の通路の真ん中に置いた。

「カードを客席の真ん中に置きました。僕がカードをすり替えたり怪しい動きをしないように皆さんに監視してもらいます。」

「では、お待たせしました。これから箱ごとカードをお渡ししますので、お好きなカードを選んでサインしてください。」

「会場の皆さんも、視聴者の皆さんも、好きなカードの数字とマークを書いてください。」

「ちなみにこのカードは新品ですので、順番が揃っています。一番最初に目に付くのがスペードのAだと思います。そして、後ろにJokerがありますね。自由に選んで頂けるのですが、自由でもいいとなると、目立つカードが選ばれることが多いです。」

確かにハートのAや絵札のJ,Q,Kなどは確かに選ばれやすい。僕たちがボランティアイベントで行った心理学的に選択肢を絞っていくメンタルフォースを使うようだ。

「あとは、金運のラッキーセブンでダイヤの7とか、末広がりの意味を表すクローバーの8とかゲン担ぎで選ぶ人もいますね。」

選択肢を広げているが良いのだろうか。そう言って、カードを自由に一枚選ばせた。そして、残りのカードを受け取ると、サインペンを取り出してお客さんに手渡した。

「お名前を書いてください。そしたら、★とか〇とか💛とか好きなマークを書いてください。そしてカメラにも見えないようにカードを伏せて置いてください。」

お客さんが何かマークを書くと、サインペンを天馬に渡した。
天馬さんはサインペンを受け取ると、ポケットにしまった。

「では、伏せていたカードと、僕が封筒に入れて置いたカードを見てみましょうか。カメラさん寄ってください。」

そう言って手招きをして、モニターで画角を確認し、封をしてあった封筒を破って逆さまにした。カードが出てきた。サインされたカードだ。
そこにはダイヤの3にサインと☆が書かれていた。
女性のカードはハートの3に名前と☆が書かれていた。

「同じ、赤いカードの3と名前と☆が書かれています!マジックは成功です!」

メンタルフォースかと思っていたのだけれど、僕の知っているそれとは違うのだろうか。僕の想像していたタネでは無いようだ。僕の知っている方法ではあの現象は起こせそうにない。それと、問題はリモートでどれだけの再現がされたのかという事だ。

「さあ、ではモニターをご覧ください。#北川天馬さんでTwitterを参考に見てみましょう。…すごい勢いでタイムラインが流れていきます。」

モニターに映し出されたタイムランインが目で追えない速さで流れていく。
動画や写真も多く添付されており、多くの人がダイヤもしくはハートの3を選んだようだ。そうか、2枚あたりになるのか。
しかし、マークまで同じものを選ばせていた。
どうやって選ばせていたのか。これはかなり難しいのではないか。
侮っていたわけではないが、流石はリモート現象の生みの親だと思った。


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