【小説】REVEALS #3
大我の初パフォーマンス
「ねえ、マジックやってみてもいい?」
あれから二週間大我はマジックの話をしなかった。例の漫画を読んだのだろうか、特に何か質問してきたりもしなかった。だから、残念だけどマジックには興味がなくなったのかと思って諦めようとしていた時だった。
「なに、大我もマジック始めたの?」
竹下が割り込んできた。
「そうなんだ、ちょっと練習したんだけど、見てもらっても良いかな?」
「おう、いいぜ。なあ、礼司?」
いちいち鼻につくが、待ちに待っていた大我のマジックが見たい。すぐに頷いた。
大我は照れ臭そうに、赤のバイシクルを取り出した。箱からカードを取り出す。箱の蓋が既にヨレヨレになっていた。よく見ると大我の指にも絆創膏が巻きついていた。
嬉しくなっている自分を悟られないように、必死に大我の演技に集中した。
「じゃあ、好きな数字はあるかい?」
「スペードのエース」
竹下が食い気味に言った。
「マークまでは良かったんだけど、じゃあ、エースを使うね。」
そういうと、机に裏向きにスプレッドした。思っていたよりも綺麗に出来た良かったようで、満足そうな大我の顔が目に入ってきた。
そして、端のカードを一枚取ると、そのカードでカードを掬ってスプレッドしたカードを表向きに直した。これも綺麗に決まった。竹下につられて自分も思わず「おぉ」と漏らしてしまった。大我は更に良い表情をした。
そこからエースを一枚ずつ探して、ゆっくりジョグしていく。四枚揃うと、デックから取り出してまとめてデックとは分けて置いた。
「この四枚だけを使います。一、二、三、四ちゃんと四枚だけです。」
そう言いながら、一枚ずつ改めた。
裏向きにまとめてディーリングポジションで構えた。
そして、トップのカードをめくった。
スペードのエースだ。
「1番上のカードは黒ですね。黒はこちらに置いていきます。」
めくったカードを裏返して、机に置く。
「残りは3枚です。」
また一枚ずつ改める。
「次のカードも黒ですね。」
先ほど同様にトップをめくった。クローバーのエースだ。これも同様に元に戻して机に置いた。さあ、これからどう見せてくれるのか。
「さっき、机に置いたのは黒のカードでしたね。...なんですが、実は、」
指をパチンと鳴らした。
「既に赤いカードに変わっていました。」
そう言って、伏せてあったカードをめくり、ハートとダイヤのカードを見せた。そして手元にある2枚のカードがスペードとクローバーであることを見せた。
大きな拍手が起こった。
その瞬間、周りの音が聞こえてきた事に気づいた。そして景色が一気に広がった。
集中して周りが見えていなかった。
自分たちだけじゃなく、周りにいた他のクラスの奴らも見ていたようだ。
大我は照れ臭そうに笑っていた。
オーソドックスなマジックではあるが、自分も魅入ってしまうくらい人を惹きつける魅力があった。以前から思っていたが、大我は人を惹きつける。誰からも好かれるというのがあいつの良い所だ。
俺も好かれようと大我のマネをした時期があったが、どうにも上手く行かなかった。これはあいつの才能なのかもしれない。