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【小説】REVEALS #11(無料)

リモートマジックの種明かし

コロナの第2波の影響で高校は、基本的にはオンライン授業になった。課題と動画ばかりで、早くも疲れてきている。リモートに慣れない先生もいれば、積極的にネットを活用している先生もいて先生たちも様々だった。

短い夏休みの出来事が嘘のように静かな日々だった。静けさを感じる度にあの時の興奮を反芻してしまう。北川天馬のマジック、オレ達のマジック、中村愛さんに出会えた事...。思い出してはニヤついている。そんな日々だ。

ところで、君は一連のリモート現象について何が起こっていたのかを考えてくれただろうか。これから、リモート現象について種明かしをしてみたいと思う。答えが分かった人は答え合わせの時間になる。

あのチャリティイベントで行ったマジックは、昔からある技術で最も確実で有効な手段を使わせて貰った。マジシャンとしては矜恃を傷つける非常に使いたくない手段でもある。

そう、サクラを使ったのだ。


あのイベントのマジックの準備は、自分は正直どうだったかは知らない。大我がボランティ先で知り合った人達を厳選したり、あいつの理想に同調して支持してくれている人を探した。そして、ネットで繋がった人達にサクラを演じて貰えないかお願いした。あとはご存知の通りだ。

何故この作戦を選んだのかというと、大我がマジックの経験が浅いという事、その上で高確率で勝てる現象を起こすにはどうしたら良いかを考えた末での決断だった。それに大我はリモート現象に関してはマジシャンである事以上に、何かを得ようとしていたから、サクラという考えが浮かんだのかもしれない。

あとは、バラされるリスクを抑えつつ影響力のある人に協力してもらうか、いや、共犯者になってもらうかという事だけだった。

オレから出した共犯者を選定する条件としては、オレ達の生放送を見ながら、配信者としてオンラインで生放送が出来る人である事だ。だから、生放送が出来るライバーやニコ生主さん、YouTuberさんなどにも連絡してみた。理由は単純だ。何故なら、Youtubeでは生放送が出来る時点で拡散力が大きい事が証明出来ているからだ。

それらの信頼できる共犯者集めは大我に任せてあった。その人を信用出来るかという判断を含めて、人心掌握に関しては大我の才能に頼る他ない。大我の才能が無ければこの戦い方は選ばなかっただろう。

また、この戦いにおいてはこれまでのリモート現象をなぞるだけでは勝てないと踏んでいた。SNSを使って何者かになりたい人達は、既に北川天馬の最初のリモート現象からこれまでの天馬の番組などを使って有名になるための行動をしているだろうと思った。最初に北川天馬からのプレゼントを受け取って何者かになろうとした視聴者達には、リモート現象のプレゼントは旬な時期が過ぎてしまった、賞味期限が切れたような今更な感じがあるのではないかと思ったのだ。

だから、マジックを観ながら撮影するのが面倒くさいと思う人が多くなってきた頃だろうと考えてもいた。以前に比べると北川天馬のフォロワーの伸び率が減少していたからだ。飽きてくると、自分が撮影するよりも、誰かを見ていた方が面白いとか、楽に参加できるとかそういう感覚になってきているのではないかと考えた。

もちろん、コミュニケーションにおいては相互性があった方が体験している時の価値が高いとは思う。しかし、今回はランキングで上位に上がる事で勝敗を決めるという。だったら、動画を撮ってハッシュタグを打ち込ませるという手間を省いて、いいねをポチッとしてもらった方が数字が稼げると思ったのだ。しかも、自分達の方が順番が後だという事がわかっていた。同じ日に、わざわざ2回も撮影するほどモチベーションがある人はそんなに多くないと思ったから勧めなかった。

本当にこの考えが正しかったかかどうかは確認する術はないが、オレ達が勝ったという事は、この仮説はあながち間違いでは無かったのだと思う。

それと、最後の中村愛さんのカードは、もうわかるだろ?あの時に偶然もらったサインカードをそのまま使わせてもらったのだ。こんな事もあろうかと、ZOOM要員の中に一人だけ会場のすぐ近くで配信してもらっていたのだ。あとは、マジックが始まる前に打ち合わせして準備完了だ。



あの対決以降も、大我とオレは他の奴らと一緒にボランティア活動に出向くつもりでいた。しかし、第2波のために人数や活動に制限が強くなってしまい、規制が設けられてしまった。感染拡大を予防しながら支援を続けるためには仕方がない。被災地の人たちを危険に晒せるわけにはいかない。

大我は今、募金や物資を募る事に興味が向いているようで、SNSを中心に支援を呼びかける活動をしている。自分の知名度を利用して活動に生かそうとしている。最近はYouTubeのチャンネルを開設したらしい。早速登録者数が7万人を超えたと聞いた。こんなにもあっさり登録者が増えるたいうのは、多くのYouTuberや芸能人の反感を買いそうだ。恐らく、ただ有名なだけではなく、奉仕活動をしているというのが大きい評価を得ているのかもしれない。

思えばこのボランティア活動とSNSが対決の発端だった。
北川天馬のリモート現象が、ただの偶然で起きる現象の母数を増やしていたけだったと気が付いた。そうだ、ボランティアのイベントで、もし観客からそれを求められた時に、自分がやってみたらどうなるかを想像したという事が大きなきっかけになった。

技術でカード当てをするのは簡単だ。しかし、仕掛けのないトランプで全くの他者に同じカードを当てさせるとなると偶然でしか起こり得ない。しかし、この偶然の確率こそがリモート現象のタネだった。トランプの場合、リモート現象を起こそうとすると、1/54の確率で当たる。だから100人程度の規模では期待値は1人か2人になる。これを「奇跡の現象」にするのは意外と簡単なのだ。母数を増やせば、成功者が増えるのだから。1,000人でやれば20人、10,000人でやれば200人になる事が期待される。実際にはTVの視聴者の中でSNSを使っていて、尚且つ動画を投稿するようなタイプの人が分母になった。まあ、番組が動画投稿を促していたので、実際にはもう少し多いのかもしれない。視聴者が1000万人居たとして、20万人が奇跡の証言者になり得たと考えられる。世間の注目を集めるのは、残りの980万人ではなく、現象が起こった20万人なのだ。実数を数える人はほとんどいないため、クローズアップされてしまえば、印象としては実際の割合よりも多く感じる。そういう現象だったのだ。

しかも、失敗した人よりも成功した人の方が圧倒的にSNSに上げる可能性が高い。何故なら他の人に知って欲しい、見てほしいという気持ちが強く湧くからだ。もちろん、当たらなかったという事実を晒したい欲求もあると思うし、実際それもあった。しかし、数として少なかった。そして、注目を集めるのは前者なので、本当は当たらなかった人も、当たったと嘘をついて投稿する人も居ただろうと思う。そして、奇跡が起こったと証言した人は実際よりも多くなったのだと思う。

だから、北川天馬はアレをテレビでやる必要があったのだ。同時刻により大人数に視聴してもらうには、生放送である必要があったし、そうなるとチャンネルの多いインターネットよりも、チャンネルが少なく古い時代のメディアの覇者であるテレビの方が圧倒的に有効だったからだ。それに視聴者に強い印象を与えるにはテレビ局が持つクオリティーは圧倒的なのだ。
しかし、一度有名になってしまえば、フォロワーが付き、回数をこなすうちに規模が拡大するため、フォロワー数が大きくなっていき、視聴者の母数が増えるので、その後はインターネットや、小さなメディアでも再現する事が出来るようになる。そういうカラクリだったのだ。

ちなみにボランティア先のイベントでオレ達が起こしたリモート現象で、オレたちが考えた工夫について気付いただろうか。紙や手でトランプの代わりをしてもらったのを覚えているだろう。あの場で参加人数は500人と少ない。母数としては心もとないのは分かるだろう。そこで、確率を上げる工夫をしたのだ。

理論的には1/54の確率を1/10程度の確率まで増やしたのだ。方法はこうだ。紙を持っている人はあまり多くないと思い、手でマークと数字を表してもらうことにした。やってみてもらえば分かると思うが、理屈の上では好きなカードを選んで良いと言っているので、1/54の確率なのだけれども、実際にスペード♠やクラブ♣を手で表すのは難しい。この時点でハート♡かダイヤ♢になる確率がぐっと上がる。そして、数字を表すにしても指は5本しかない。自撮り撮影していたら片手しか使えないので、1~5になる可能性が高い。だからハートの1~5、ダイヤの1~5を選ぶ確率が非常に高くなる。

しかも自由にカードを選ぶときには、A、J、Q、KやJokerなどの絵札などの目立つものは選ばれやすい。そうなると、ハートのAとダイヤのAが選ばれる可能性は高い。そしてカード遊びではダイヤよりもハートが強い場合が多いので、ハートが一番選ばれやすい。こうやって会場の状況を想像して、一番選ばれやすいカードは何だろうかと考えた。つまり、自由なように見えて、実はカードが絞られるようにリードしていったのだ。

正直、これがマジックなのかどうか自分ではわからない。この時は北川天馬の現象を再現できるという事が面白かったし、夢中になって考えた。しかし、こうして一通り再現が出来て、北川天馬と直接対決まで出来てしまえば、オレが感じるマジックの面白みとは遠いことに気付いた。そして、オレたちがこれをやり続ける価値があるものにも思えなかった。


多くの人を動員する事を扇動とかポピュリズムとか言う。大我もオレも、今まではこの力を安全に使う事が出来ていた。しかし、選挙など世界のを見ていると、どうやら大衆をコントロールしていたはずの先導者が、逆に大衆に操られてしまう事態に陥っている場面を目にする。

オレや大我がリモート現象の力を使っていて、いつのまにか誰かに利用されてしまったら、どうやって自分達を守れば良いのだろうか。そうなってしまってからでは遅いのではないのか。

今、大我はそれを積極的に利用しようとしている。もしかすると近いうちに大きなな波に飲み込まれてしまうのではないか。あいつは簡単に人の為に自分を犠牲にしてしまう部分がある。大我の気持ちが利用され、大衆が大我を支持する気持ちを失って、別の欲望を持ち始めた時にどうなってしまうのだろうか。

一抹の不安が過ぎった。


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