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【小説】REVEALS #12


暴露

「今日はワイドショーに呼んでいただいてありがとうございます。僕がマジックしても良いんですか?」

柄にもなく僕とか言ってしまっている。

「先日の北川天馬さんとの対決は凄かったですね!」

「ありがとうございます。でも、だとしたら僕ではなく大我に来て欲しかったのではないですか?」

意地悪を言ってみた。明らかに困った顔をしてはにかんでいた。

「そんな事ないですよ、礼司さんが大我さんにマジック指導をしていたと聞きました。そんな礼司さんのマジックが見られるのは楽しみです!」

うまく交わされてしまった。

「では、早速ですが...これ生放送ですよね?どなたかご協力下さいますか?では、伊藤さんお願いします。」

彼をテーブル付近まで案内した。

さて、今日は例のピックポケットをやろうと思う。スリの技術を観客に見せびらかせながら、ターゲットになったお客さんを煙に巻くコミカルなテイストになるアレだ。観客と共犯関係を作りながら、最終的にはお客さんも観客も裏切る、皮肉屋な自分には合っていると思う。

生放送で、色々と皮肉ってやろうと思っている。ワクワクして仕方が無い。

「こちらにコップとボールがあります。コップの中が空である事を確認して下さい。」

そう言って、ボールを持たせ、手をとって握らせ、そのまま右手を残した。オレ左手で彼の顔の前までカップを近づけて彼の視界を塞いだ。その間、出演者や、カメラ、スタッフなどの面前で、彼に気づかれずに彼の腕時計を外してみせた。伊藤さん以外はワッと驚いた。彼は周囲が驚いた事を不思議がっていたが、彼自身は腕時計が無くなっていることに気がつかないまま、カップとボールを見ていた。改めてもらった道具をテーブルに置いた。

「では、このボールをご覧ください。このボールはポケットにしまいます。...ですが、指を弾くと、コップの下から出てきます。」

コップの中から赤いボールが出てくると歓声が上がった。今のところ、皆が期待した通りの展開を演出している。だから安心して見ていられるのだ。しかし、本当に楽しくなるのはこれからだ。

「僕には不思議に思っている事があります。」

どうした?という顔で聞く姿勢を作ってくれている。マジック上の演出だと思い込んでいるからだ。

「それは、コロナの時に、視聴者の皆さんがどうしてイライラするって言いながらワイドショー見てたのかなって。出演者の皆さんはご存知ですかね?」

スタジオの空気がピリッとした。一方で、言語の処理が追い付かず僕が何を言ったのか分からなかったようにポカーンとしたスタッフの反応もあった。心の中でほくそ笑んだ。

「まあ、知ってても言えないですし、言わないですよねー。はい、すみませんでした。では、続けましょう。ボールをポケットに入れますね。よく見ててください。」

オレは何事もなかったかのように、マジックを進めた。オレはポケットにボールを入れた。

「ボールはカップとポケットのどちらにあると思いますか?」

順応の早い女性キャスターは「カップ」と言う。それに続くように伊藤さんは「ポケット」だと言った。

「正解です。ボールはまだポケットにあります。でも不思議な事はもうすでに起こっています。カップの中には...」

カップを上げると中から腕時計が出てきた。悲鳴にも似た歓声が上がった。まだ状況を理解出来ていない伊藤さんは普通に驚いた。

「これ、高い時計でしょ。どうしてまたこんな時計を...あれ、これ俺のと同じだ。あれ...これ俺の時計!?」

伊藤さんは自分の腕時計がついていないことを確認するために左の袖をまくった。オレは「失礼しました」と腕時計を返し、そのタイミングで誰にも気づかれないよう、胸ポケットのペンを抜いた。スタジオでは伊藤さんのリアクションに爆笑が起こっていた。それは、さっき俺の失言をかき消すように大げさに笑っているようにも見えた。そうはさせない。

「僕、不思議な事が好きなんでね。で、自分なりに考えたんですよ。」

一同はマジックの現象に気を取られ無防備になっていた。その隙に続けた。

「イライラするのにワイドショーを見る人って、自分の意見に対するお墨付きが欲しいのかなって。本当は情報が正しかろうが間違っていようがどうでもよくて、画面の中で出演者の皆が自分と同じ意見を言っているという事が見たいんだろうなって思ったんですよ。だからムカつく事でも確認したくて見ちゃうのかなって。」

スタジオが再び凍りついた。

「視聴者は、皆が信じる『正しい』意見があると思い込んでいて、自分はその意見と同じなんだ、って安心したいのかなって。出演者がみんな同じ意見を言う事で、その意見にお墨付きを与えるっていう、ワイドショーって、そんなショーなのかなって。」

アナウンサーは割って入ろうとする。裏方スタッフは慌てふためいている。上の指示を仰いでいる様だ。オレは構わず続ける。

「だって、この前のワイドショーの番組で、自分の意見を言おうとしたゲストの人がいたんですけど、「お前が反対したから、伊藤さんが困ってた」って言われてて、Twitterで炎上するんですよ?バカとしか思えなくて。」

あー、言ってやった。

タブーを冒すのは気持ち良かった。空気をぶち壊している快感。
しかし、これで確実にメディアに嫌われた。世間にも嫌われただろう。
これでは中村愛さんとのコラボは絶望的だ。
YouTubeでも叩かれる可能性がある人間はきっと倦厭されてしまうだろう。
まあ、いいさ。
オレはオレの信じる価値を守るだけだ。

「あ、そうそう。ボールペンお返ししますね。」

ペンを返しながら、そのタイミングで、また色々と拝借した。

出演者の多くは、こんな状況でもマジックに戻すの?とでも言うような感じだったが、司会進行のアナウンサーは助かったといった表情をしていた。

「それからハンカチ。それと、腕時計です。大事なものですからね。ちゃんと肌身離さず持って大事にしてくださいね。」

伊藤さんから拝借した物を全て返し、カメラに向かってこう言った。

「それから、僕のものも返して下さい。」

そう言って、彼のジャケットの内ポケットからトランプを箱ごと取り出して、テーブルの上に置いた。スタジオでは化け物でも見るかのような冷ややかな目と驚きの反応があった。

箱からカードを取り出し、スプレッドした。広げると「Present For You」という文字が表れた。事前に手書きでせっせと仕込んでおいたのだ。

「これでオレのマジックは以上です。」

スタジオの人たちはようやく終わったと緊張を解き、安堵の表情を浮かべていた。このスタジオ内にオレの想いに共感してくれた人はいたのだろうか。そしてオレは最後にシメのセリフを吐いた。

「これは俺からのプレゼントです。俺のプレゼントは疑う心です。あなたが手にしているものや、目に見えているものが本物かどうか、それは誰から貰った物なのか、一度考えてみてください。このマジックがあなたの何かを変えるきっかけになってくれると嬉しいです。」


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