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あの人の物語、聞いてみよう。Vol.6 たえこさん

🌝月曜日のしょうこ🌝インタビュー
「あの人の物語、聞いてみよう。」


第6回目のゲストはHIBIKI ETHICAL(ヒビキエシカル)代表でヨガ講師のたえこさんです。
HIBIKI ETHICALとは、たえこさんが立ち上げたフェアトレードのオリジナルアクセサリーブランド。ブランドを立ち上げた背景には、幼少期から抱いていた社会の不平等さに対する問題意識がありました。
また、ヨガとの出会いから、現在、ヨガ講師として大切にしている想いなども語っていただきました。
今回はいつもと少し形式を変え、たえこさんによる自分語り風に綴ってみましたので、たえこさんの物語を最後までお読みいただけたら嬉しいです。

北海道出身、クリスチャン家庭に育つ

私の生まれは北海道ですが、父の研究や仕事の関係で、アメリカに住んでいたことがあります。
父は仏教徒の家庭に育ちましたが、高校生の頃に自ら改宗して無教会派のクリスチャンに。教会に行って神父や牧師に教えを乞うのではなく、聖書の中から純粋なキリストの教えを学んだそうです。
父が通っていた聖書を学ぶ集いに、幼い私もくっついて参加していました。そこには、著名な先生方から障がいのある方、私のような子どもまで、様々な背景を持つ人がいました。当たり前に身近にあるものとしてキリスト教に触れていましたが、 “宗教としての形”が好きではなかったのか「何かが違う」と感じる自分がいました。両親は、そんな私にクリスチャンになることを強要せず、私の考えを尊重してくれていた。そのような環境で育ったせいか、生きること、命のこと、自分の存在意義などの哲学的な問いに、幼い頃から興味がありました。

 9歳のクリスマスプレゼントに、エチオピアに関する絵本をもらいました。当時、エチオピアで飢饉が起こり、多くの子どもが飢餓で亡くなっていたんです。子どもながらに「自分は何不自由なく生活し、クリスマスプレゼントまでもらっているのに、世界にはこんなにも苦しんで命を落としている人たちがいるのか」と、ショックを受けたことを今でも覚えています。両親は生活に困窮している人たちの支援活動もしていたので、哲学的な問いに加えて、社会の不平等さに対しても、子どもながらに関心を抱くようになりました。

アメリカの女子大へ進学、社会学を学ぶ

 中・高等教育は日本で受け、日本の高校から直接アメリカの大学に進学。私が通っていた高校から海外に進学した生徒は私だけでしたけれど、ニューヨークに叔母が住んでいましたし、兄が既にアメリカのボーディングスクールに通っていたこともあり、自然な流れではありました。
私の進学したスミス大学は、アメリカの中でも特にフェミニズムに関して先進的な学びを実施していたリベラルアーツの女子大。2年生が終わる頃に主専攻を決めるのですが、私は社会学を選び、特に社会事情や不平等に関してフェミニズム的観点から学びました。仏教や東洋思想についても学び、短期間ですが中国に留学したこともあります。
 

米系投資銀行に就職、3年後イギリスの大学院へ

卒業後は、アメリカの投資銀行に日本市場担当者として採用され、東京で勤務しました。今と比べると日英バイリンガルがまだ少ない時代だったので、両方の言語を話せるということを買われました。
金融業界という超男性社会の中で、女性である自分の可能性を試したかったし、自立したかったし、出来ることをとことんやってやろうと意気込んでいました。しかし、自分が本当にやりたいことはここで働くことではない、と心のどこかにひっかかるものを感じていた。大学で途上国の開発経済についても学んだので、その方面に関することにもっと携わりたいという気持ちがあり、いつか大学院で学ぼうと考えていました。
3年働いた頃に勤務していた銀行が合併することになり、今が辞め時だと感じ、会社からは引き留められたけれど、学びたい気持ちが強かったので退職し、大学院への進学を決意。私の関心分野をより深く学べそうなのはアメリカよりもイギリスだと感じていたし、ヨーロッパに住んでみたいという思いもあり、ロンドン大学の大学院に進学し、1年間、開発学について学びました。

開発支援に興味を抱きつつも、金融の世界に戻る

大学院卒業後、周りはIMF(国際通貨基金)や国連、NGOなどに就職する人も多く、私自身も国連の試験を受けたけれど、最終面接で落ちてしまいました。大きな組織に所属して、戦争や貧困に対して安全な遠い場所から対処するというのは、そもそも私がそれまで学んできた視点、自らが問題に直接関わっていくという立場、ではないという自覚があったので、面接官にもそれが伝わったのだと思います。

帰国して日本のNGOで働くという選択もありましたが、ロンドンが好きだったのでそのまま残りたかった。どうやってイギリスに残るかを考えたときに、一番スマートな方法が、過去のキャリアを活かして金融業界に戻ることだった。やりたいことをするというより、生活の基盤を作るために、イギリスに残るために、再び金融業界に戻り、十数年間働きました。その間に業界内で転職したり、日本に駐在したことも。しかし、やはりシビアな世界、倫理的な問題を含め、様々な悩みや葛藤を常に抱えていました。ちなみに、夫とはその頃に勤めていた金融会社で出会いました。

英国永住権取得を機に退職、フェアトレード事業の立ち上げ

10年働いてイギリスの永住権を取得。その時、弁護士から「これでもうあなたは自由よ。企業で働いて身元を保証してもらわなくたって、堂々とこの国に居られるんだから、何をしてもいいのよ」と言われ、ずっと心の中にくすぶってやり残していたことにようやく挑戦するときが来た、と感じました。
そのタイミングで娘を授かったこともあり、勤めていた会社を退職。その頃に出会った友人と一緒にフェアトレード事業を立ち上げると決意。自分で稼いだお金で、誰に文句を言われることなく、正々堂々と自分のやりたいことに挑戦できることが、素直に嬉しかったです。

 当時立ち上げた事業は、主に東南アジアの女性たちに製造を依頼した洋服やアクセサリーを私たちが販売するというもの。ベルリンで開催される大きなエシカルファッションショーにも出展したりして、それなりに成功していました。しかし、デザイン、発注、在庫管理、販売、すべての工程を自分たちで行っていたので、事業としてはサステイナブルでも、私自身の働き方としては持続可能ではないと感じていた。また、共同代表だったパートナーと私の方向性に違いが生じ、彼女が日本に帰国したこと、私に第二子が生まれたことなど、お互いの生活環境が変化したこともあり、彼女との共同事業は約2年で解消。そこからは規模を小さくして、ひとりでできる範囲で事業を続けています。

HIBIKI ETHICALに込めた想い

HIBIKI ETHICAL(ヒビキエシカル)という名前で、ひとりで新たなブランドを立ち上げました。ブランド名のHIBIKI(響き)は「ふるさとの音」。その意味と音感が好きで選びました。モノとのつながり、土地とのつながり、人とのつながりが響き合い、共鳴して拡がっていくイメージです。
ネパールの女性たちの手作業によるフェルト小物、カンボジアに今なお埋まっている地雷を材料にした真鍮アクセサリーなどを現地で委託製造し、主にイベントで出店販売しています。私の取り扱っている商品は、背景にある作り手の顔やストーリーが大切。だからこそ、オンラインよりも対面で、相手の顔を見ながら商品の持つストーリーを直接伝え、そこに共感してくれる人に買ってほしい。今の世の中には、大量消費を前提として生産されたモノが溢れすぎている。私はストーリーのある、意味のあるモノを大切にし、人と人、人とモノのつながりを大事にしたいと思っています。
モノに限らず、日々の行動ひとつとっても同じ。たとえ小さな行動でも、そこに意思や意味があれば、次につながっていくはずと信じています。


HIBIKI ETHICAL
HIBIKI ETHICAL


できることから、社会に働きかけていく

9歳でエチオピアの絵本を読んだ時から今でもずっと、戦争や貧困問題に対して関心を抱き続けています。私ひとりで解決しようとしてもどうにもできないけれど、何もできないわけではない。まずは自分の回りの小さな社会の中でだけでも、できることを見つけて行動する。小さくても意味のある変化を起こしていくことが、大きな流れを変えるためには必要だと感じています。

フェアトレード事業だけでなく、子どもの通う学校で不要になった制服を難民グループに送ったり、ホームレスの方向けの食堂に食材を届けたりもしています。私が小さい頃、両親が貧しい人たちに支援していたのと同じようなことを、気づけば自分もやっている。意識的に同じことをしようと考えていたわけではないけれど、両親の生き方が、やはりどこかで影響しているのだと思います。
私の子どもたちが、今の私の活動をどのように受け止めているのかはわかりませんが、イベント出店の際などは、積極的に接客のお手伝いをしてくれます。

ヨガとの出会いはバリ島で

上の子が4歳、下の子が2歳の頃、ロンドンの家を大掛かりに改築することに。工事中の約半年間、兄の家に間借りした夫をロンドンに残し、子ども2人を連れてインドネシアのバリ島に行きました。バリ行きを決めたのは、改装中にロンドンで他に家を借りるのも高いし、せっかくなら行きたい場所に行こうと思ったんです。家の改築費とバリ滞在費とで、当時の貯蓄をほとんど使い果たしましたけれど…。

バリがヨガで有名なことは以前から知っていて興味はあったので「せっかくならやってみよう」と思って始めてみたら楽しくて、毎日レッスンに通うように。そのうちに、先生からティーチャートレーニングの受講を勧められました。子どもたちがいたので、1日12時間もあるトレーニングを受けることにためらいはあったけれど、今しか挑戦できないと受講を決意。幼稚園やシッターさんをやりくりして子どもを預けながらトレーニングを受け、ヨガ講師の資格を取りました。

人生哲学に魅了される

ヨガに惹かれた1番の理由は、その人生哲学。
ヨガは宗教ではないけれど、己の道を探求するもの。宇宙は無意識と物質の結合でできているものであり、ヨガを通して自分の精神と肉体をひとつにすることで、宇宙そのものを体現できる。宇宙という大きなものも、自分という小さなものも、突き詰めていけばどちらも同じ。だから、大きなものを変えようと思うなら、まずは小さな自分と向き合い、自分の内側から小さな変化を起こしていく。そのことが大切なんだと、ヨガが改めて気づかせてくれました。

また、ヨガには「八支則(はっしそく)」という、悟りに達するための8つの教えがあり、そのどれかひとつでも欠ければ、悟りには到達できないとされている。そこに深い哲学を感じると同時に、特別な場所で修業するのではなく、自分の肉体を通して実感できるというところにも、強く惹かれました。ヨガの真髄を深いところで理解し、教えてくださった先生に出会えたことも、運が良かったと思います。

それまでの私の人生では、金融業界でキャリアを積み、自分で事業を立ち上げて奔走してきました。自分の意志とは無関係に社会が動き、理不尽に感じることがたくさんあったけれど、生活していくためには、モヤモヤとした気持ちを抱えつつもそれを受け入れるしかなかった。私だけでなく、現代を生きる多くの人が同じ状況にあるのではないかと思います。けれど、ヨガでは自分に向き合うことで変化を感じることができたし、割り切れない感情から解放されていくような感覚になれた。
実は、精神的に少し不安定になり、カウンセリングに通っていた時期もありました。けれど、ヨガを始めてからは、どんなに苦しいことも辛いことも、全ては繋がっている。だから、今この場で苦しんでいる時間がもったいない、と感じられるように。ヨガは、自分が持って生まれたものを表現する場。そこには競争もなければ点数もないし、誰かと比べる必要もない。そう気づかせてくれたのが、ヨガでした。

講師として大切にしていること

ティーチャートレーニング修了後、師事していた先生に誘われて、まずはボランティアで自分も講師として教えるようになりました。けれど、ヨガ発祥の地であるインドで学んだわけでもない日本人の私が、ヨガを教えてもいいのだろうかという迷いがあった。でも、インド人の友人に「ヨガを学んでいて、教えることにもなった」と伝えると「素晴らしい」と喜んでくれた。外国人である私が彼らの文化(ヨガ)を教えることを批判するのではなく、温かく理解を示してくれた。ヨガやインドの人たちの持つおおらかさに、背中を押された感じがして、教えるということを意識しすぎず、気楽にやればいいんだな、と思えるようになりました。

 レッスンでは、私自身がヨガ哲学を実践している姿を体現することを意識しています。また、力み過ぎている人に「そんなに頑張りすぎなくていいよ」とか、息をしっかり吸うためには「まずは吐き切ることが大事だよ」とか、要所での声掛けをすることで、参加してくださる方それぞれに必要なタイミングで、必要な気づきを得てもらいたい。変化や気づきは内側からしか生まれないものだから、私が外からあれこれと知識ばかりを伝え過ぎないようにしています。それはきっと、親子関係、夫婦関係、どんな関係の相手にも通じることだと思います。

 ヨガでは“アラインメント(適正な配置)”がとても重要。ヨガの全て、と言ってもいい。例えばあるポーズをとる時に、骨盤から肩までの距離、指先の角度や方向など、全てが適切な場所になければ、エネルギーの流れが滞り、バランスが取れないようになっている。ポーズをとる時だけでなく、日々の生活においても同じことが言えます。自分が最も輝ける場所や関係性の中に自分を置くことで、心とからだのバランスが取れ、全てがひとつにつながる。ヨガをしていると、ふっとその感覚に触れる瞬間があります。

 私は単なるエクササイズとしてのヨガではなく、その哲学、深いところに惹かれたので、私のレッスンに来てくださる方にも、表面的なものではなく、ヨガの哲学や真髄をお伝えしたいと思っています。レッスンを通して、何か一つでもその人の人生を輝かせる気づきを得てもらえたら嬉しいです。
オンラインレッスンを実施していたこともありますが、同じ空間を共有し、切磋琢磨しながらエネルギーを直接交換し合えるスタジオレッスンの方が、私は好きです。


ヘッドスタンドをするたえこさん


アラインメントが整った美しいクロウ


メノポーズ(更年期)ヨガクラスを開始

今年(2024年)の9月から、メノポーズ(更年期)ヨガクラスを新しく始めました。私自身が今、更年期の真っ只中にいますし、女性であれば、時が来れば誰もが経験するのが更年期。ホルモンバランスの乱れが心身に影響を及ぼすことは、科学的にも証明されています。それにも関わらず、更年期に対してどう対処するか、どうすれば心身ともに穏やかに過ごせるのか、そういったことはあまり知られていません。男性向けホルモン剤は当たり前に知られているのに、女性向けホルモン剤はいまだに一般的ではないことも、その表れの一つだと思います。
だからこそ意識を向ける必要があると感じ、更年期とヨガの関係を医学的に検証している人の話を聞いたり、一緒に学んだりしています。私自身が学びつつ、レッスンでみなさんにそれをシェアしたい。更年期が来てから学ぶのでも遅くはないですが、自分のからだに起きる変化をあらかじめ知って備えておくことができれば、それに越したことはありません。お金もキャリアも大切ですが、まずは心身ともに健康でなければ、幸せに生きられませんから。

全ては繋がっている

HIBIKI ETHICALも、ヨガも、全てが大きなつながりの中にあると思っています。世界中の人がそうした意識で生活すれば、今、あちこちで起きている争いごともなくなるのではと思いますが、そう簡単なものではないことも、もちろん理解しています。だからこそ、自分が属している社会の中だけでも自分のできることを実践し、周りにいる人たちには自分が大切にしていることを伝えていく。自分が幸せでいられれば、周りも幸せになれる。そう信じています。

たえこさんのヨガクラスHP


編集後記

たえこさんは、いつお会いしてもはじけるような笑顔を見せてくださいますが、そこには悲喜こもごもたくさんの経験が内包されていたことを、改めて知りました。
幼い頃から抱いていた生きることに対する問い、なぜ世界はこんなに不公平なんだという問題意識。そこに対して大きな変化を起こすのではなく、自分のできる範囲で、意味ある行動を積み重ねていく。HIBIKI ETHICAL代表として、ストーリーのある商品を、顔の見える相手に届ける。講師として、ヨガの人生哲学を、レッスンで生徒さんに直接伝える。たえこさん自身が語り手となり、たくさんの物語を伝えている。というよりは、たえこさんの生き方そのものが物語である、と感じました。