冬の朝と氷
冬の朝は寒いし布団から出るのが億劫だったな。
でも、子供のときは冬の朝が楽しみだったんだよね。
早めに起床して、早めに朝食を食べて、学校へ行く前に自宅近くの砂広場へ行って、水溜りになりそうな地面のへこんでいるところを探す。そう、水溜りに氷が張っているんじゃないかと思って。その、水溜りに張った氷を割るのが好きだった。
氷を足で踏んづけて割ってばかりいたからなのか、登校中に日中でも日陰になっているところがあり、アスファルト全体が凍っていた。氷を割ってやろうと思ったけど、氷の方が硬くて強くて、ボクは滑って転んでしまった。
それからは、石で氷を割るようになったんだ。知恵というやつさ。石を水溜りの氷に落として割るんだよ。石を持ち上げて氷を割るという、まるで石器時代の人みたいな古典的な手法を思いついた。そんなことを繰り返していたら、氷をめがけて石を落としたのに、自分の足に石を落としてしまって足の指の爪が紫色になってしまった。
石はいけないということで、木の枝を使って氷を割ることにした。子供は悪さをするときに知恵が働くんだと思うよ。少しずつ進化していくんだ。木の枝で氷を割っていたら、木の枝が折れて自分の額にあたってしまい、3針縫った。痛かった。
額から血を流しながら痛いと喚きながら自宅に向かう途中に茶色の野良猫と目があったのを今でも憶えている。毛並みがモジャモジャで茶色というよりは太陽に照らされて輝く茶色の毛並みは金色に見えた。まるでライオンみたいな猫だった。額から血を流して泣いているボクを馬鹿にしていたんだろうな。
氷を足で割る、氷を石で割る、氷を木の枝を使って割る・・・というように道具を使い始めたけど、道具の使い方に慣れていないので、怪我をしてしまったんだろうね。
学校も少しだけ休んでたから、近所に住んでいる女子が心配して自宅に遊びに来てくれたりしていた。額を怪我したので、まるでウルトラマンのように絆創膏を張っていた。
額の傷が治癒してから、氷を割ってやろうと思って早起きをして砂広場へ行ったみたら、水溜りには氷が張っていなかった。別の水溜りを見ても氷が無い。おかしいな。いつも日陰になっているようなところをへ行っても氷がない。
おかしい。
きっと、氷を張ってもボクにまた割られてしまうから、氷が逃げたんだろうな。きっと、そうだな!!! 氷は 弱虫だな。
数日経過して、ボクは通学するときに着用していた上着は着てなかった。何故ならば、暖かくなってきたから上着が必要じゃなくなったんだ。
暖かくなると氷はできないのかな・・・子供ながらに、不思議に思っていて、どうして冬に氷ができて、暖かくなると氷ができないのかという理由が全く判らなかった。
次の冬になったら氷を割りまくってやると思っていたけど、次の冬になったらボクは勉強をたくさんしなければいけないことになってしまった。だから、氷とはあまりケンカができなかったし、もう氷のことは忘れていたのかもしれないし、氷を割るという行為をしなくなっていた。少しだけ成長したんだろうね。野良猫も見なくなってしまった。
大人になってから思い起こすと、ボクが子供だった頃は寒暖差がとてもはっきりしていたように思うし、今の時代よりも冬は寒かった記憶がある。しもやけになる子供は多かったんじゃないのかな。ボクも、しもやけになったもん。当時は、ホカホカカーペットとか床暖房なんてものは無かった。灯油ストーブか炬燵、または湯たんぽ程度しかなかったから寒かった。