イギリス留学日記 #4 Central Londonを歩く-お誕生日会を添えて-
人も言語も時間も、真っ白なパレットに向き合ったとき、私は何を描き出せるだろうか。そんな問いを軸に、未来へと時間を消費するのではなく、現在へと関心を向けるための日記をゆったりと書き綴ることにしました。
-更新頻度も言語も気まぐれですが、お付き合いください-
-イギリス到着4日目、ついにBRPを取得!
5:30起床。昨夜ブレーカーが落ちてしまった私の部屋は未だ真っ暗闇。
時間が経って電気がつくようになったかもしれないと、一縷の希望にかけてスイッチを入れてみる。しかしつく訳もない。渋々カーテンからの朝日とパソコンの灯りとで支度を始める。大学に不具合の連絡を入れても、自動返信で「Call has logged」と示されるだけ。こういう時は、しぶとくメールを送り続けアピールするしかない。ブレーカーの件で3度目のメールを出しておくことにした。
今日のスケジュールは、午前にBRP(Biometric Residence Permit)の受け取り、午後に初めてのロンドン観光。BRPとは、日本でいう在留カードだ。入国前に、6ヶ月以上の長期留学生はStudent VISAの申請を求められる。その申請が認可されたことを証明してくれるのがBRPである。こうした法務手続きは大変ややこしく、最後までなんのことだかよく分からずにいたのが正直なところだった。
-余談
こうした手続きを踏んでいると、趣味で通っていた裁判傍聴にて、よく処罰の1つに「不法滞在」という文字を頻繁に見たことを思い出す。私は、大学入学許可証という強力なカードのおかげで、「最後までよく分からず」とも法務手続きを完了できてしまった。しかし、それは極めて少数の恩恵である。ワーホリを目的にイギリスに滞在している友人によるとBrexit以来、出入国在留管理を強化している影響で、若いアジア人女性は不法就労を疑われることが多いそうだ。国という境界を越えるだけでここまで煩雑な手続きを踏む必要があることを考えると、まさに「法の支配」を文字としてではなく体感として理解できた気がする。因みに、現在イギリスでは2024年12月末をもってBPRカードの廃止が決まっている。これは、全ての出入国在留管理を一括でデジタル化する動きの1つだ。2025年以降も滞在する方はe-VISAへの移行手続きをお忘れなきよう。
-Central Londonに向かう
午後は仲良くなった友人4人でCentral Londonに行く。私が滞在する大学はロンドンの南西部に位置し、中心部に行くには電車で40分ほどかかる。寮から最寄り駅まで20分ほど歩き、South Western Railwayに乗車する。イギリスは車社会のため電車のチケットも非常に高く往復で£16.8(約3300円)ほどだ。
車窓から見える風景は、電車が進むにつれ都会様式へ移り変わる。赤煉瓦を取り入れた高層ビルの様子は、やはり日本ではみられないヨーロッパ風の建築だ。終点のWaterlooを目前に、London Eyeが顔を覗かせる。昔、中学生の頃に英語の教科書で出てきた、ロンドンの街を紹介するダイアログが蘇ってきた。
いよいよ電車がWaterlooに到着する。スリが多いと聞いていたため、細心の注意を払いながら駅中を歩いていく。構内にはスターバックスやマクドナルド、ブランド洋服店などが立ち並び、その様子は日本の都市部の駅ともよく似ている。賑わいは日本で例えるなら平日の池袋といったところだろうか。
-Fish&ChipsとBirthday Card
駅から出るとすぐに、有名な赤色の二段バスがお目見えだ。最初のうちはスマホを構え写真を撮っていたものの、気づけばあちらこちらに赤色バスが通っていて、ものの数十分で見慣れてしまった。
時計を見るとすでに12:00を回っていた。私たちはFish&Chipsを食べに行くためにお店を探し始めた。レストランを探しているとある特徴に気づく。全てのレストランやカフェの入り口に「Food Hygiene Rating」が表示されているのだ。これは、地方自治体が実施する食品衛生評価の指標で、ウェールズや北アイルランドでは店頭掲示が法律で義務付けられているという。ロンドンでは任意だそうだが約90%の店先でこれを目にした覚えがある。その背景には、Food Standards Agencyという政府機関が全てのハザードを管理し結果を表示するシステムがあるそうだ。日本でもHACCPという指標が厚生労働省の管轄で運用されているが、店頭への掲示義務は任意で評価の掲示を目にした記憶があまりない。私にとっては最初は見過ごすほどの小さな掲示だった。しかし、隣を歩いていたスイス人の友人は毎回その指標を確認してから店に入るか否かを意思決定しているようだった。こうした指標への人々の関心の在り方もとても興味深い。
レストランに入りメニューをみると様々な魚の種類が英語で表記されており少し困惑する。店員さんと話しながら、4人でCOD Fish(鱈)、CALAMARI Ring(いか)、HADDOCK(ハドック)を注文。こちらでは当たり前のようにstill waterも有料の上、ドリンク1杯£2.9〜という具合。その分1皿のサイズも大きいのだが、日本と全く同じ調子で注文するのは危険だ。
さて、ここで本日のメインイベントだ。実はこの日は一緒に観光にきた韓国人の友人の誕生日当日。残りの3人で前日に準備したバースデーカードをサプライズで渡す。彼女と出会ってまだ4日。当の本人もまさかカードを用意しているとは思わなかったらしい。どんなに文化や言語の違いがあったとしても、相手に真摯に向き合えばそれは十分に伝わる。言語が人と人との関係性を拡大させるのだとすれば、「ギフトを渡す」という行為それ自体のノンバーバルな気持ちこそ、関係性をより分厚いものにしていくのだと感じた。
-Thames River と本屋さん
五感でたっぷりとイギリスを感じた後は、Thames Riverの周囲を散歩する。海外サイズの料理に少し胃もたれをしながらも、街を歩いていくと目先に見えてきたのはVictoria Embankment Gardens。ここは、Thames Riverに面しており、対岸にはLondon EyeとBig Benとがちょうど重なって見える。今日は大変天気が良く、川岸は大変盛り上がっている。道化師たちがチャップリンのモノマネをしたり、TikTokの撮影ライトの貸し出しをしたりしてその周りには子供たちが群れて遊んでいる。後ろではその親がチャットしたりカップルが芝生で寝転んでコーヒーを飲んだりと、それぞれが優雅な休日を過ごしていた。
そんな賑わいの中をかき分けて、Thames Riverを覗いてみると、水は綺麗とは到底言い難い、、、茶色く濁った様子は友人とパリのセーヌ川のPoop Protestを思い出させると笑って話しながら、橋を渡っていく。川の向こう側はTrafalger Squareに続く道が真っ直ぐに伸びている。そこは高級ホテルとレストラン街となっており、完全に観光地区である。道の途中にはロンドンを象徴する赤い電話機やテラス席のついたカフェなど、ヨーロッパらしい光景だ。
そのまま歩いていくとついにTrafalgar Squareが見えてきた。しかしその前に、手前にあるWaterstonesという本屋を覗くことにする。そこは日本でいうTSUTAYAのような大型書店で、EU圏では有名だそう。中に入ってみると、最初に目についたのは書店のおすすめコーナーに陳列された東京裁判や核戦争などをテーマにした戦争論・歴史本だ。その対面には日本の歴史概論や軍事関係の書物。さらにその隣にはヨーロッパの歴史書が目立っており、日本の書店との書物の置かれ方がまるで違うことに驚く。フロアを移動し、最も気になるSocial Scienceの本棚を見てみると、圧倒的に強調されているテーマがFeminismだった。4つある本棚のうち7割をFeminismとRacismが占めている様子は、いかにこの社会においてSocial Divisionが重要な話題かを物語っている。さらに目立つのはArts&Performanceの本の多さだ。日本では考えられないほどの多くのコーナーが作られており、そこにはShakespeareのプロット本から現代アーティストの伝記本まで広く取り扱われていた。日本では端に追いやられるPerforming ArtsやDramaに関する本棚がこんなにも重視されているのかと驚嘆した。
-Trafalgar Square
本屋を出ていよいよTrafalger Squareへ。そこは週末ゆえにたくさんの観光客で溢れかえっており前進するのもひと苦労する。大半がヨーロッパ人で、Bronze Lionやフランスの方角を向いたNelson's Column、The National Galleryを背景にカメラを構える。 Galleryではすべての人に無料で解放されており、現在ゴッホ展が開催されている。長蛇の行列に巻き込まれたくなければ、事前予約しておくことを強くおすすめする。中学生の時に英語の教科書で読んだネルソン提督の「England expects that every man will do his duty」という言葉を思い出しながら、私たちは広場を後にした。
-Covent Gardenでコーヒーハウス!?
次に向かうのはCovent Garden。ここは日本でいう表参道のようなショッピング通りだ。ブランドブティックやショップが立ち並び、吹き抜けの広場ではハンドメイドの市場が開かれている。まるでディズニーランドにいるような街並みに観光客も賑わいを見せる。広場では手品ショーが開催されており、そこにはたくさんの人だかりができていた。ロンドンの街中を歩いていると、日本以上にストリートパフォーマンスが多く、人々も強い関心を示し熱狂する。さらにそれに呼応するようにパフォーマーも人々を沸かせるための工夫仕掛けを次から次へと出してくる。このように街の一角を見るだけでも、人が手がけるアートやパフォーマンスがいかに人々の行動様式に影響を与えているかが分かる。
さて、ここまで街を練り歩いてくると流石に脚に疲労が溜まってくる。この時点でこの日の歩数は12000歩。カフェを探そうとするものの、ロンドンのレストランは物価が異様に高く入るお店に困ってしまう。道の途中には日本料理のお店や丸亀製麺もあるが、日本の価格を知ってしまっている以上、あまりの高さに入るのが拒まれる。結局、夜ご飯も兼ねてカフェに入りコーヒーブレイク。かつてのイギリスのコーヒーハウスを模倣して、本日初めて4人で真面目なディスカッションをしてみる。お題は女性の働き方と育休制度について。EU圏はこうしたテーマに敏感でスイスなどでも制度が進んでいるのかと思いきや、友人いわく状況はあまり日本と変わらないそう。今度、時間のある時にスイスの育休制度についてぜひとも調べてみたい。
-ロマンチックな ロンドンの夜
カフェで休憩はしたものの、すでに疲労困憊。最後の力を出して夜のライトアップされたBig Benで写真を撮りにThames Riverの方に戻る。ロンドンの夜景は絶景で、多くの人が写真を撮り混み合う。ウェディングドレスを着て結婚写真を撮るカップルが複数おり、人気の高さを実感した。夜21:00、ようやく最寄り駅に戻ってくる。夜は駅までの直行便は数十分に1本しかないらしく、乗り換えに混乱しながらもなんとか無事に今日の旅を終えることができた。最後の力を振り絞り寮に戻った頃にはすでに23:00。何もする力が湧かず、充電切れでベッドに入った。
(2024年9月21日 日記より)
今回はロンドン観光の様子を書いてみました。1日の情報量が多ければ多いほど、執筆するのもひと苦労です、、、、しかし、普段街を歩きながら考えていることや注目していることを、再度振り返って記録する作業は新鮮でより経験が濃いものとなっている気がします。また次回の投稿もお楽しみに☺︎