なごや じゃなくて、なごの(1)
会いたい人に会いに行く旅は面白い。人と出会う旅も、面白い。
南伊豆のゲストハウス、ローカル×ローカルで住み込みインターンをしていた時のことである。名古屋から、3人のゲストが来た。彼らはオーナーの後輩で、日中テレワークをした後、夜はインターン生やオーナーも混じって、地酒を飲みながら、わいわいがやがや、滞在を楽しんでいた。
3人の帰り際、「名古屋に遊びに行きます!」「おう!待ってるでえ!」と、名古屋での再会を誓った。
その再会は、案外早いタイミングで叶うこととなった。インターン同期が誘ってくれたのである。「名古屋に行くんだけど、かれんちゃんも参戦しない?」と。
実は、名古屋参戦の翌日から熱海に行く予定があった。これも、南伊豆でお世話になった人に会いに行くためである。
いったん静岡の実家に寄って、名古屋→熱海→東京。きれいなルートが頭の中で見えた。
静岡では、大学受験期ぶりに友達と会ってきた。この子と話したことも解きほぐしたいのだけど、それは別の場所で文字にしておくとして、今回は、名古屋の記録を。
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名古屋での宿泊先は、「喫茶、食堂、民宿。なごのや」。円頓寺(えんどうじ)商店街という、名古屋で最も古い歴史のある商店街にたたずむ、カフェ兼ゲストハウスである。なごのやは、円頓寺商店街で、80年にわたって愛されてきた喫茶店がリニューアルして生まれたそう。名物のたまごサンドにちなんで、宿には関連グッズがたくさん。面白いなと思ったのは、たまごサンド柄の入浴剤。たまごサンドと入浴剤を掛け合わせられる頭の柔らかさが、わたしも欲しい。
最近製作中なのは、たまごサンド柄のベビー服だそう。2種類のデザインで迷っているらしく、お客さんに好みの柄を投票してもらっている、とお店の方が教えてくれた。このデザイン、どっちもめちゃくちゃ可愛くて捨てがたいのである。
優柔不断がたたって、「女の子だったらこっちで、男の子ならそっちがいいです!」と、変な答え方をしてしまった。写真をうっかり撮り忘れてしまったので、気になる方はなごのやのHPでどうぞ。
ゲストと同期との待ち合わせまで時間があったので、円頓寺商店街の周辺をふらふらすることにした。
商店街の南側は、長屋や白い壁の蔵が密集していて、都市である名古屋にいながらタイムスリップした心地を味わえる。円頓寺商店街含め、このエリアは「那古乃(なごの)」という地区らしい。なるほど、だからゲストハウスの名前が「なごの や」なのか、と腑に落ちた。
早速、商店街の入り口に伊勢茶の専門店を見つけたので入ってみた。物腰柔らかそうな若い店員さんが、2種類のお茶と、看板メニューのお茶羊羹を出してくれた。
お茶を出してくれた店員さんは、このお店の店長だとわかった。実家がお茶屋さんで、独立してこのお店を作ったそう。と言っても、そんなに年上には見えない。一体この方は、何歳の時に独立したんだろう。
那古乃地区の成り立ちから、おすすめのお店まで教えてもらったので、お礼の意味も込めてお茶を買って帰った。それぞれの銘柄が、旨味・甘味・渋味の3観点で点数づけされていて、まるでお店でワインを選ぶ時のような楽しさがあった。
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いつからか、「生業(のようなもの)」をもっている人に、憧れのような気持ちを抱くようになった。思い返すと、南伊豆で過ごした8月からというもの、「生業(のようなもの)」をもつ人に出会ったり、話す機会が多かったと感じる。この日本茶専門店、mirumeの店長さんもその一人である。
私たちは、美容師になりたいわけでも野球選手になりたいわけでもなくて、「自分」になりたい。より「自分」になれる仕事を探している。
(中略)
働くことを通じて、「これが私です」と示せるような、そんな媒体になる仕事を求めているんじゃないか。
(西村佳哲さん著『自分をいかして生きる』より)
きっと一人ひとり、悩んでいることもあるだろうし、順風満帆に仕事をしてきたわけではないのだろうけど、
それでも、その人の手のひらの上にある、その人の仕事が、その人自身と馴染んでいるように見える。
そんな風に働く人が、わたしの目からは素敵に見えていることに気がついた。