秋桜が揺れる夕暮れに
夕暮れが静かに街を包み始めた9月14日
空は薄いオレンジ色に染まり,
柔らかなそよ風が秋桜の花びらを揺らしていた。
ピンク色の秋桜が並ぶ道を歩く千夏は,
手に小さな花束を握りしめている。
今日は「コスモスの日」
ホワイトデーから半年が経った記念日だ。
彼女は,恋人の大樹とこの日を祝うために待ち合わせていた。
二人の関係は穏やかで,
どこか自然に寄り添い続けるようなものだった。
それでも,心のどこかで不安を抱えていた。
自分たちの愛が本物か,
これからも続けていけるのか,
そんな問いが心の中で影のようにまとわりついていた。
やがて,遠くから大樹の姿が見えた。
夕日が彼の背中を照らし,
長い影を地面に落としている。
彼もまた,ピンク色のコスモスの花束を手にしていた。
「ごめん,待った?」
大樹が少し照れた笑顔で近づいてくる。
千夏は花束を差し出しながら,そっと首を振る。
「ううん,私も今来たところ。」
無言で花を交換する。
大樹が持ってきた花は,
少し色褪せたピンク色の秋桜だったが,
その姿がどこか愛おしく,
千夏の胸に温かいものが広がる。
「ねえ,これからもこうして一緒にいられるかな?」
千夏は,不安げな心を隠しきれずに小さな声で尋ねる。
大樹は少し驚いたように目を見開いたが,
すぐに優しい笑顔を浮かべて,千夏の手を握った。
「もちろんだよ。
風が吹いても,夕日が沈んでも,僕たちは変わらないさ。」
そよ風が再び吹き,二人の影が重なる。
ピンク色の秋桜が風に揺れ,
夕日の光の中で柔らかく光っていた。
千夏はその瞬間,彼の言葉が本物だと感じた。
風や影に揺らぐことのない,深く確かな愛がそこにあった。