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ノルウェー発ソウルミュージック『Les Imprimés』にダンスミュージックを感じる
「ダンスミュージック好き」と自ら書いておきながら、最初に書くのは「ソウルミュージック」である。
個人的に、現在の様々な音楽ジャンルは「ダンスミュージック」「エレクトロニックミュージック」の影響下にいると考えているのだが、今回レビューするLes Imprimésも、その影響下でソウルミュージックを作っているアーティストのひとりだ。しかも北欧、ノルウェーの地から。
こちらは2023年にブルックリンのインディペンデントレーベルBig Crown RecordsからリリースしたLes Imprimésのデビューアルバムだ。
淡いヴィンテージサウンドに包まれた音像に朴訥とした歌声が響く。ソウルミュージック的ではあるが、北欧らしい静かで落ち着いた美しいメロディと、全体的にビートを感じる構成が現代的である。またピアノやギターの他に、エレクトロニックシタールの音色が特徴的に鳴っているのも面白い。
お気に入りは『Love&Flower』。抑制の効いたダンスビートがヴィンテージサウンドと相まって独特な魅力を持っている。
Les ImprimésはMorten Martensのソロプロジェクトで、全ての楽器演奏からミックスまで彼が担当しているそう。2000年中盤から活動している彼は、主に地元ノルウェーのアーティストの多くのプロデュースなどを行ってきていて、キャリア初期の2006年には、スペリオルマン賞(ノルウェーの音楽賞)のHip-Hop部門を受賞したアルバム『El Dia De Los Puercos』をプロデュースしている。
プロデュースワークはHip-Hopに限らず、ノルウェーポップスやヘビーメタル、R&Bなど多種多様。いわゆるエンジニアワークを中心に活動したきた彼がLes Imprimésとしてアーティスト活動を始めた切っ掛けはCovidによるロックダウンだったそうだ。
このあたりの情報はこちらのインタビューや、
また香川県の西日本放送ラジオ『Jimmie Soul Radio』で直接本人にインタビューを行ったそうで、そちらの書き起こしをしていた、こもさんのnoteを参考にさせて頂いた。
Covidのロックダウンにより、それまでの活動がストップした彼は、ノルウェーのクリスチャンサンにあるオデロイア島にある自身のスタジオで、いくつものデモサウンドを制作。インスタグラムにそのデモをアップしたところ、LAのINDUSTRY MUSIC GROUPの目に留まり、そこからBig crown recordsからのデビューが決定していったそうだ。
彼によると、ノルウェーにはソウルシーンはほぼ無く、10代からHIP-HOPを聴いたりプロデュースするなかで、それらでサンプリングされていた音源から、アメリカの60s,70sなどのソウルミュージックにたどり着いたという。
Hip-Hopがメジャージャンルとして認められて以降、サンプリングについては音楽業界、ファンの間で長年議論されてきたが「基本的にはNG」というのが現在の世界的常識になった。
個人的に、サウスロンドンやLAなどを中心とした現在のジャズシーンの盛り上がりはこの「サンプリング問題の果て」と考えているのだが、このあたりはまた別の機会に。
とはいえ、Hip-Hopが運んできた魂(ソウル)が、ノルウェーでこのように花開き、新しい音楽として発芽したというのは、サンプリングミュージックを愛する1人として、なんとも美しいストーリーではないかと思う。
そんな彼が、このデビューアルバム『Rêverie』でインスパイアを受けたアルバムとして挙げているなかには、『The Delfonics - The Delfonics』、『Curtis Mayfield - Roots』、『Donny Hathaway - Live』など、60s,70sのソウル、ファンクの名盤が挙げられているほかに、『D'angelo - Voodoo』や『J Dilla - Welcome 2 Detroit』などの、Hip-Hopアルバムも含まれている。
彼のレコーディングは、ドラムとベース、つまりリズムトラックから作るのだそう。普段ソウルミュージックを聴かない筆者がこのアルバムに反応したのは、そんな背景からなのだとインタビューを読んで得心した。
そしてLes Imprimésは先日新EPをリリースした。
『Only Love』のダンスビートは『Love&Flower』の系譜ではあるが、より力の抜けた自然な雰囲気が印象的。
MVも、ノルウェーの街中、森などをイスをセットした電動キックボードで低速ドライブしていくというもので、チルな雰囲気が出ていて曲ともマッチしている。
そういえば同じく2023年頃に突如デビューした、LAの覆面ソウルシンガーPalejayのMVも、どこかを走っているという内容で、現代ソウルのMVの流れなのか? とふと思う。
彼の曲もとても素晴らしいので、良かったら是非聴いて欲しい。
『Les Imprimés』はフランス語で「印刷物」、つまり「プリント」だという。
自分の音楽の「プリント」というプロジェクト名は、様々な音楽のプロデュースなどを行ってきた彼の、真なる「音楽的分身」なのかもしれない。
最後に、彼のリリースをしたBig crown recordsという10周年を迎えたレーベルについて。
Les Imprimésも含め、インドネシア発のソウルバンドTHEE MARLOESなど、非常に面白いアーティストが続々とデビューしている。
もやはこのレーベルがプロデュースすると、すべてイケてるヴィンテージソウルミュージックに変貌してしまうのではないかと思ってしまうくらい、要注目のレーベルだ。これについてもまたそのうち。